インドで新たな電子商取引の幕開け、有名アプリに好機
グローバルな巨大テクノロジー各社を隔てている壁を最初に崩そうとしているのが、インドだ。国内でアルファベット、フェイスブック、ウォルマート、大手銀行のすべてが使っている低コストのデジタル決済の新しい規格の構築に貢献した起業家たちが、その取引市場をショッピング、食品宅配、モビリティー関連にも開放する取り組みを進めている。
Image: 2020年 ロイター/Adnan Abidi
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デジタルエコノミー
グローバルな巨大テクノロジー各社を隔てている壁を最初に崩そうとしているのが、インドだ。国内でアルファベット、フェイスブック、ウォルマート、大手銀行のすべてが使っている低コストのデジタル決済の新しい規格の構築に貢献した起業家たちが、その取引市場をショッピング、食品宅配、モビリティー関連にも開放する取り組みを進めている。
このイニシアチブを支えているのは、インフォシスの共同創業者として大資産家となり、慈善事業に転じたナンダン・ニレカニ氏である。インドの意欲的な生体認証システムの設計に貢献した同氏が支援する今回の取り組みは、新たな種類の電子商取引の幕開けを告げるものだ。
たとえば、ワッツアップやグーグルマップを使ってウェブ上でのあらゆる取り引きが今より簡単になる姿を想像してみよう。ウーバーのアプリでタクシーを呼ぶと、リフト、あるいは別のアグリゲーション企業で働くドライバーが来てくれる。あるレストランが簡単なアップロード作業を1回行うだけで、互いに無関係の複数のアプリ、たとえばインスタグラムとアマゾンのユーザーの目に触れるようになる。さらに、最も有利な価格・サービスを提示するデリバリー業者を選ぶことができるだろう。
巨大テクノロジー企業が出店企業・サービス事業者から徴収しているウンザリするほどの手数料が、雀の涙ほどに引き下げられるとしたら、どうなるだろうか。
こうしたことは、新しいオープンアクセス型のデジタル・インフラストラクチャーである「Beckn」を使えば理論的には可能になる。Becknは消費者サイドと事業者サイドが単一のプラットホームに支配されることがないよう、どのようなオンラインサービスにおいても、両者の間を切り離すインフラとなる。
世界各国の監督当局は巨大プラットホームが蓄積する支配力について懸念を強めている。そうした中で、Becknは、もっと自由で公正なウェブ経済という魅力的な展望を掲げている。
同時にそうした機能は、大物アプリにもビジネス拡大のチャンスを与える。インドで事業展開する西側諸国のテクノロジー企業は大きな野心を抱いている。アマゾンは食品宅配サービスを試験運用しているし、ワッツアップは決済サービスを展開している。
すでに、Becknベースで食品やモビリティにフォーカスした試験的プログラムは静かに進行している。中には、都市当局や、飲食店50万店以上の利害を代表するインド全国レストラン協会など強力な業界団体が支援しているものもある。
また、マヒンドラ・ロジスティクス、グーグル傘下のダンゾ、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資するデリーバリーなど、既存企業から支援を受けているプログラムもある。
こうした試験的プログラムについてはあまり報道されていないが、ほとんどがパンデミック(世界的な感染大流行)の期間中に開始されたものだ。今回の危機がステークホルダーに切迫感を与えたためである。2021年、Becknはテクノロジー界における「ロビン・フッド」級のスーパースターになる可能性がある。
ニレカニ氏と、共同創業者のプラモド・バルマ氏、スジト・ナイール氏は2016年に開始されたインドの決済システムを足場に、革新的な事業展開を進めている。
いわゆる「統合決済インターフェース(UPI)」によって、金融機関とテクノロジー企業は、オープンアクセス型の相互運用可能なシステムに基づいてアプリを開発する能力を獲得し、複数の銀行の別々の口座のあいだで、低コストかつリアルタイムに資金を直接移転できるようになった。
現在UPIは20億件の取引を扱い、取引額は月間で最大520億ドル(約5兆3800億円)に達している。
UPIはあらゆるスマートフォンを銀行同然の存在に変え、インドの人々は、道端の屋台で玉ねぎを買うときも、オンラインで購入した商品の未払い分の決済も、友人や会社とのお金のやり取りも、スマートフォンで済ませられるようになった。それと同じように、Becknはどのようなアプリにも卓絶した能力を与えることができる。
アイデアを次の段階へと進めていこうとすれば、新たな課題が生じる。決済は規制対象となる分野であり、市場において取り引きの両サイドを突き合わせる仕組みを実現する非営利団体として、インド決済公社という現実の機関が存在する。このような場合は、業界団体や地方自治体が主導権を握らざるをえないかもしれない。
一方、グーグルマップやワッツアップのような人気アプリが、テンセントの運営する「微信(ウィーチャット)」が中国でやっているような外部サービスのキュレーションではなく、(Becknに)参加することを選択するならば、多種多様な事業者をユーザーフレンドリーな形で取り扱えるインターフェースの採用方法を見つけなければならないだろう。
もちろん、大手企業は様子を見ようとするかもしれない。インドの決済システムにしても、当初は資産330億ドル規模のインドステイト銀行やアントが出資するペイトムなどの大企業は関心を示さなかった。いずれも現在は参加しているが、UPI上で最も人気のあるアプリの1つは、この新しいインフラでの機能に特化して作成されたウォルマート傘下の「フォンピー」である。
ウォルマートは2018年に電子商取引サイトのフリップカートを評価額210億ドルで買収した後、思いつきのように追加でフォンピーを取得した。だが現在、フォンピーの想定上の単独評価額は最大で200億ドルにも達している。
Becknはまだ誕生から日が浅く、急成長するには何度か回り道や見直しが必要になるかもしれない。だがこのイニシアチブは、デジタル決済に向けた独自のアプローチと並んで、米国や中国で確立されたモデルの模倣ではなく、ウェブ経済の形成に向けて自力で道を切り開こうとするインドの決意を裏付けるものである。
また、インド国民の多くが今も政府からの食糧配給その他の補助制度に依存していることを思えば、より公平な社会主義的アプローチも意味があるだろう。
インド最大の資産家であるムケシュ・アンバニ氏の企業リライアンス・インダストリーズは、新たな食品事業であるジオマートを通じて、中小企業によるオンライン進出を支援する役割を担うことを絶えず強調している。だが最終的には、インドは中小企業をインターネットに適応するよう変えていくのではなく、インターネットを中小企業に使いやすいものに変えていくことになるのかもしれない。
*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです。
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