新型コロナウイルス感染拡大で加速した、インドの「デジタル・リセット」
10億人以上の携帯電話ユーザーを抱えるインド Image: REUTERS/Francis Mascarenhas
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技術的変革
- 新型コロナウイルスの感染拡大は、インド全域で非接触型デジタル技術の活用を促しました。
- デジタルファーストのリセットは、ガバナンス向上に向けた基盤を確立しました。
- インドの各州では、ロボットおよびドローンの活用が増加しています。
3月下旬、インドでは新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウンが始まりました。その際、優先的に支援が必要な国民に対し、総額約50億ドルの現金給付を行いましたが、その作業は全て、デジタルプラットフォーム上で完結しました。
パンデミック(世界的大流行)に見舞われた時、既にインドでは世界有数の規模でデジタル取引が行われており、デジタルファースト化への歩みが軌道に乗っていましたが、インドのとった次の施策は、非接触型デジタル技術の活用をさらに推進することでした。
中央銀行であるインド準備銀行(RBI)のデータによれば、現在インドでは、1日に約1億件のデジタルト取引が絶え間なく行われ、その金額は5兆ルピー(670億ドル)にのぼります。これは、2016年時点と比べると5倍の急成長です。1日あたりの取引は、さらに15億件、金額にして15兆ルピー(2,000億ドル)にまで成長するとRBIは見込んでいます。このうち多くは、インド決済公社が開発し、RBIが監視するリアルタイム決済システムの統一支払いインターフェース(UPI)による取引です。
この人口13億人を抱える国におけるデジタルファーストのリセットは、単なるテクノロジーの進歩ではありません。より重要なのは、それが国家から給付などを行う際の新しいメカニズムの基盤となるということです。国によるこの計画的なテクノロジーの使用によって、これまでインドでは実現が難しかったスピードと漏洩防止が保証されます。インドは、デジタル技術の活用により約230億ドルの節約に成功しましたが、このうち98%は正当な受益者以外を除外することにより実現されたものです。
インド経済の「デジタル・リセット」は、生活のほとんどの側面に浸透しています。現在、ほぼすべてのインド人はデジタル認証されたアドハー識別番号を所有しています。アドハーと、ジャン・ダンと呼ばれる金融包摂スキームの銀行口座、そして携帯電話(インドでの携帯電話契約数は10億台以上)の一体的活用(JAM)は、このリセットの基盤として大きく貢献しています。
ロックダウンが社会の一部の家計に大きな負担をかける中、JAMはセーフティネットの役割を果たし、即時に金銭的援助を必要としている何百万という人たちを公的給付のユビキタスな直接送金により助けることができました。アドハーは、開発者がアプリの基盤として活用できるオープンAPI(アプリケーション・プログラム・インタフェース)をまとめたインディア・スタックのベースにもなっています。
施策はこれに留まりません。新型コロナウイルスの感染状況を効果的に追跡し、監視するため、インドの国家情報学センター(NIC)は、「アーロギャ・セツ」というアプリを開発。その累計ダウンロード数はすでに1億2,700万回を超えています。市民参加とフィードバックのプラットホームである「MyGov.in」のユーザー数は約950万人で、投稿数は1週間に1万件にのぼります。
アーロギャ・セツ、インドeヘルス局、新しい遠隔医療ガイドラインなど、連携した取り組みが一体となって目指しているのは、「ナショナル・ヘルス・スタック」の2022年までの完成です。遠隔地の医療ニーズの充足から、データ駆動型の健康に関する公共政策の実現まで、テクノロジーの活用は多くの役割を果たしていますが、その中でも最も重要なのはインドの最僻地における役割です。
インドの各州は、新型コロナウイルスの感染拡大を契機として、テクノロジーの活用をさらに普及させました。ジャールカンド州東部の政府による協働ロボット(コボット)の活用や、インドのテックハブと言われるベンガルール市による、ドローンを使用した消毒剤の散布、地域の調査、封鎖ゾーンの監視、公共の連絡などは、その一例として挙げられます。
テランガーナ、カルナータカ、グジャラートなどのインドの他の州や、ワーラーナシーなどの都市も、パンデミックにより生じる問題に対処する上で同様の方法を活用しています。州政府は、人口呼吸器などの機器やN95マスク、個人用防護具(PPE)などの必須医療用品の需要、入手可能性、使用の管理にもテクノロジーを活用しています。
テクノロジーの活用は、意思決定の分散化を実現し、各都市や町の枠を越え、コミュニティと地方自治体の懸け橋となります。テクノロジーやデジタルツールを活用したこれらの革新的なソリューションは、生計手段、サービスや教育へのアクセスといった生活の様々な領域に影響をもたらしています。例えば、アグリゲーターアプリを活用することで、近所で野菜を売ったり、Eリキシャ(電子タクシー)をひいたりしているような超地域密着型の売り手も、毎月まとまった支払いを受けながらドアツードアのサービスを提供できるようになり、安定した収入を得ることができます。同様に、教育においても多くの学校がオンライン授業に移行しており、インターネット接続環境に制限のある学生や教師も携帯電話で学習を行っています。
国の技術インフラにおけるこの急速な展開は、民間事業においても同様の対応が普及するきっかけとなりました。インド政府が学校教育のプラットホーム、「ディクシャ」を推進し、中学校レベルでコーディングのトレーニングを導入する中、インド生まれの教育アプリ、「Bjyu’s」は、その分野で世界最高額となる約10億ドルの資金を調達しました。また、インドで最も株式時価総額の高い企業であるリライアンス傘下のオールサービス型技術プラットホーム「ジオ」は、すべてのインド国民にデジタルなライフスタイルを提供するという約束のもと、パンデミックの最中でフェイスブックをはじめとする多くの投資家から150億ドルを調達しました。
最終的な消費者に対する技術のラストマイル接続を急ぐため、グーグルは、インドの全言語でのインターネットアクセスの提供と、農業、教育、医療における技術の活用の促進を目指し、今後5~7年間でさらに100億ドルをインドに投資することを発表しました。
10億人以上の国民の基本的な生活経験と願望をリセットし、インドをデジタルファーストの国へと生まれ変わらせているのは、この官民共同の力です。
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