学校再開を、教育の目的を見直す機会に
学校再開?パンデミックは教育を見直す機会となる Image: REUTERS/Ali Hashisho
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COVID-19
- パンデミック(世界的大流行)の影響で、世界中の学校は遠隔授業に移行せざるを得なくなりました。
- これにより、オンライン授業と対面授業、双方の欠点が明らかになりました。
- 平常の生活に戻っていく中で、2つの長所を組み合わせることにより、従来よりも効果的な教育モデルを作ることができるかもしれません。その方法をご紹介します。
新型コロナウイルスの感染拡大は、世界中の人々に劇的なインパクトを与えました。その多くは、従来の状態にすぐ戻ることはないだろうと考えられる中、教育に関しては「ニューノーマル」が早急に必要とされています。
世界の大半の国において、そして、ほぼすべてのレベルで、教育は試験を中心に据えて展開されています。試験の必要性と価値についての複雑な議論はさておき、学習に不可欠な要素であるエンゲージメントは必然的に後回しにされています。実践的で深い学習のためには、ディベート、ディスカッション、プロジェクト、コーチング、批評やフィードバックが必要ですが、これは達成が難しい上に評価は更に困難であるため、軽視されることが多いのです。
新型コロナウイルスの感染拡大により、世界の多くの国では遠隔学習への移行を強いられました。講義にアクセスするためのネットワークとパソコン環境が学生側にあれば、オンラインへの移行は比較的容易であるということを多くの教育機関が認識しました。しかし、円滑に移行できたことによって、在宅教育に潜むより深い問題が露呈したのです。また、現在実施されているZoom講義は、最先端のオンライン教育でもありません。多くの国では、そもそも社会的距離がとられていたともいえる一方的な教育システムと、オンライン学習に関する現在の教訓を活かすことができていない遠隔学習という2つの世界の間で、板挟みとなっています。双方の欠点が露呈する形となっているのです。
今こそ、再構築の時であり、考慮すべき領域は、教育学、モダリティ(様式)、構造の3つです。学習の科学、急速に進化する技術力、変化していく仕事の未来はすべて、向かうべき方向を示しているのです。
1. 教育学
自然の摂理によって人間同士のふれあいを取り戻せたとき、教育者や学生は必然的に「これからどうすれば?」と問うでしょう。実際、世界各地の教室で行われている対面授業については、Zoomで配信すれば済むような講義が多すぎて、無駄になっています。そうではなく、「反転授業」を大規模に導入していく必要があります。反転授業とは、オンライン講義と予習を一方向の授業として活用し、対面の授業は双方向の活動にとっておくというアイディアです。これは、新しい考えではありません。人文学など多くの分野や、マサチューセッツ工科大学(MIT)など多くの教育機関では、学生が学習にどっぷりと浸ることが大切だと理解しています。学習の科学によると、生徒が好奇心を持ち、脳内でドーパミンが放出されているとき、学習は最も効果的ということです。また、苦戦しながらもタイムリーなコーチングを受けたとき、そして、ある概念を発見し何かに適用できたときに、学生はよりよく吸収できることも分かっています。これは、公式または非公式のディスカッションや実践、そしてロボット、解剖、ソフトウェア、自主研究、作曲、コミュニティー活動といったプロジェクトを通じて達成することができますが、実用的な効率性を追求するあまりに失われてしまうことも多いのです。小規模な私立大学の教養学部の多くは、議論にもなっている経済的な側面のため、新型コロナウイルス感染拡大がもたらした逆境期を乗り越えることができないでしょう。皮肉なことに、このような大学は教育学について正しく理解しており、それらが消滅してしまうことは憂慮すべき事態です。
2. モダリティ(様式)
遠隔教育が必ずしもオンライン教育というわけではありません。適切に設計されたオンラインコンテンツには、人間の脳の集中力に合わせ、進行速度をよく考慮した短い(5~10分)動画が必要です。オンラインコンテンツにはシミュレーション、ゲーム、オンライングループによる文書注釈などを含めてもよく、これらは、大半の対面講義よりも生き生きしたものとなります。学生は、自分の都合に合わせてコンテンツの一時停止、巻き戻し、スピードアップを行うことができます。それぞれの動画の後に短い自動採点式の小テストを実施して、コンテンツを直ちに思い出すことが記憶の定着つながりますが、これは認知科学では「テスト効果」として知られているものです。時間の経過とともに、オンライン機能はシミュレーションやゲーム、バーチャルリアリティーによってさらに洗練されていくでしょう。オンラインで学ぶ学生は、一つの課題をマスターしてから次の課題に進みます。これは「習得学習」と呼ばれ、より確実な学習の進歩につながるものです。オンラインフォーラムは、ピアツーピアや専門家との交流に驚くほど向いています。オンラインではZoomが果たせる役割もあり、学生はビデオ会議を利用して他の学生や教育助手、教授、コーチと交流することができます。しかし、ロックダウンが終了したとき、このようなオンライン様式は、主に、教育の最も重要な側面である対面でのエンゲージメントの時間を作るために使用されるべきです。オンラインは、優れた対面学習の代わりには決してなりませんが、それを強化し、理解力やニュアンスを向上させることはできます。ただ、間違えてはいけないのは、優れたオンラインコンテンツは、迅速に、また決定的な形で、学生を惹き付けられない授業に取って代わるだろうということです。そして、オンライン教育が平凡な大学よりも費用対効果が高いことは確かな事実です。
3. 構造
今日の教育の構造は脆弱です。新型コロナウイルスの感染拡大により、労働市場の全体像が不確実な状況にある中、教育にはこれまで以上の柔軟性をもたせる必要があります。学生が自分の将来をカスタマイズできるようにするためには、労働界の状態を把握できること、働く人の世界とのつながりを多く持てること、そして、より細分化された選択肢が必要です。2年制や4年制の学位だけが唯一の選択肢であってはいけないのです。どの国の高校生も、現在スイスで実施されているように、見習いで仕事を体験してみたいと思っているかもしれません。学生が、仕事に即したより高いスキルを身につけられるようにするため、職業専門学校の数を増やすべきかもしれません。会計の準学士号や学士号取得に向けて勉強している間に、金融工学のマイクロマスターズのような別のオンライン修了証書を取得したいと思う学生がいるかもしれません。そこで登場するのが、「マイクロクレデンシャル」です。これは、カリキュラムを調整するオプションを学生に提供する制度です。新型コロナウイルス感染拡大が労働界に与えた教訓を一つ挙げるとすると、社会人は新しいスキルを迅速に、そしておそらく継続的に習得できなければならないということでしょう。これは継続的な成人教育のための新しい選択肢が必要ということを示しています。その大半は、世界各地にあるエデックスやコーセラのようなオンラインコースになるでしょう。機器の操作方法を学ぶ場合など、一部の学習はどうしても対面で行う必要がありますが、長期に渡って仕事を休むことは困難です。1週間以上の集中的な対面体験、または数回にわたって週末を利用した体験が必要となります。いずれにせよ、現在の教育システムの構造は画一的で自由がないため、きめ細やかな対応が必要です。
改革の必要性
新型コロナウイルスの感染拡大は人間社会から近接距離での接触を奪いましたが、それによって現在の教育制度の欠陥の一部が露呈する形となりました。1.6兆ドルに上る学生の負債、教育機関への信頼低下、苦境に陥った大学といった多くの症状は、病気であったら既往症ともいえる、既に存在していた問題です。そして、恐らくそれ以上に明確になっているのは、公共の場での対話において微妙なトーンが消えたこと、グレーの濃淡が必要な時に白か黒かの立場がとられてしまうこと、そして、思いやりやクリティカルシンキング、分別のある議論が衰退したことではないでしょうか。教育システムがあらゆるレベルで改革されない場合、市場経済学の冷酷な計算はそのほとんどを押しのけ、教育の最も貴重で繊細な側面ともいえるエンゲージメントも失われてしまうでしょう。ウイルスによるこの自然との闘いが終わった暁には、私たちはその埃をゆっくりと払い、2021年以降の教育におけるエンゲージメントを再活性化していかねばなりません。
サンジェイ・サルマ氏は、MITの機械工学教授であり、オープンラーニング担当副代表を務めている。先駆的なオンライン教育に加えて、オープンラーニングには、教育の未来について世界中の大学と連携する「ジャミール教育研究所」が含まれている。サルマ氏は近刊『把握力:学習方法を変革する科学(Grasp: The Science Transforming How We Learn)』の著者である。
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