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新型コロナウイルス感染拡大からの回復は、気候変動のワクチンになるか

Clean air in New Delhi as a result of India's lockdown. Can we sustain these benefits?

インドのニューデリーではロックダウンにより空気がきれいになりましたが、このような利点を継続することは可能なのでしょうか。 Image: REUTERS/Adnan Abidi

Jose Siri
Independent Consultant on Urban Health, World Health Organization (WHO)
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  • パンデミック(世界的大流行)が環境にもたらした恩恵は、私たちに何ができるかを示しています。
  • 私たちの今の行動、または行動しないことが、これから何世代にもわたる人間のあり方を決定していくのです。
  • 私たちが必要とする未来を構築するために、政策立案者や意思決定者が注目すべき点は以下の通りです。

新型コロナウイルスの感染拡大は、単に予測可能な危機であっただけではなく、実際に予測されていました。世界保健機関(WHO)などによるパンデミックへの備えと対応に関する公式ガイドラインの数々を見ると、脅威がどれほど深刻に受け止められていたかが明らかになります。現在、他のどの国よりもはるかに多くの感染者と死者を出しているアメリカでは、オバマ政権が次期政権のために69ページに及ぶパンデミックの「ゲームプラン」を作成していましたが、これが使用されることはありませんでした。一方、世界的なパンデミックについての想像は何十年にもわたってフィクションで描かれ、人々の意識の中で繰り広げられてきました。

このような警告があったにもかかわらず、新型コロナウイルス感染拡大による危機への備えと当初の管理に大きな失敗があったことは、許容できるものではないとしても、理解することはできます。その理由としては、特定の年にパンデミックが発生する可能性が低いこと、リスクと機会がせめぎ合っていること、緊迫した初期の段階ではデータが限定され、不確実であったことなどが挙げられます。新型コロナウイルスの感染拡大を制圧し、収束させるための道は危険で、難しい選択が数多くあるものの、希望の兆候もあります。グラフの曲線を平坦にして、場合によってはウイルスの根絶に向けて歩みを進めることが可能であることが各国で証明されています。人類は力を結集し、創意工夫を生かして突破するでしょう。しかし、それには途方もない困難が伴います。

しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大について最も懸念されるのは、ウイルスそのものではなく、それがこれから起きることの前兆であるのではないかという点です。人間が作り出した難問である気候変動は、現代の最悪の危機になる兆しを見せています。私たちが集団的な脆弱性とそれに応じて行動する責任を正しく認識しないようであれば、その結果は何千年にもわたって人類の生活と文明のあり方を決定づけることになるでしょう。

新型コロナウイルスと気候

新型コロナウイルスの感染拡大と気候危機の間には明確な関連性があります。まず、気候変動は病気を媒介する動物の生息地を変化させ、森林伐採による種間の接触を増加させることで、コロナウイルス型パンデミックの可能性を増大させます。

さらに重要なのは、災害が連鎖的に発生する可能性が非常に高くなるということです。新型コロナウイルスの場合、健康への影響は感染に留まらず、広範な経済的・社会的な影響によって増幅されます。短期的に私たちはより多くのリスクにさらされることになるのです。昨年は、ヨーロッパでの破壊的な熱波、オーストラリアでの空前の山火事、数千人の死者を出したアフリカ南東部沿岸沖のサイクロン・イダイなど数多くの異常気象が発生しました。社会は現在、パンデミックの経済的な影響によって打撃を受け、危機管理能力は限界の一歩手前となり、医療システムはパンク寸前の状態ですが、2020年は同じような異常気象の衝撃を受けないと考える理由はないのです。より長い時間枠で考えると、新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済、世界や地域の食料システム、災害対応や社会保護のための利用可能な資源に影響を与え、これは人類に身体的・精神的健康に深刻な影響を及ぼすことになるでしょう。世界銀行は現在、2020年に4,000万人から6,000万人が極度の貧困に追い込まれ、貧困削減の進展には約3年分の遅れが出ると予測しています。

かすかな希望の光はあります。新型コロナウイルスによる危機が教訓的な物語であるとすれば、それはこれから起こり得ることについての特訓コースでもあるのです。

マリア・メンディルース氏&ホセ・シリ氏

同じように、複数の穀倉地帯の破綻から気候に起因する紛争や難民危機に至るまで、気候変動が生み出す事象は拡大・増殖していくでしょう。新型コロナウイルス感染拡大は多くの点で前例のないものですが、IPCCの特別報告書「1.5℃の地球温暖化」で強調されているように、気候変動によって、これまでよりも大きな衝撃がより長い時間枠で発生する恐れがあります。十分な対策を講じなければ、気候危機が健康や経済に及ぼす長期的な影響は毎年のように繰り返されることになります。例えば、「暑さ」だけをとっても、2030年までに世界経済が被る損害は2兆ドル以上となり、一部の国ではGDPの6%以上の損失が発生する可能性があります。身近なところでは、気候危機の大きな原因ともなっている発生源からの大気汚染によって、1年間(2018年)で世界のGDPの3.3%に当たる2.9兆ドルの損害が発生し、約18億日の労働日が失われる結果につながったとWHOは警告しています。

新型コロナウイルスと気候は複雑な形で交差しています。例えば、人口が大気汚染にさらされている地域における感染症の結果がより深刻であるなど、気候変動を引き起こすのと同じ要因の一部はパンデミックを悪化させています。これは驚くべきことではありません。WHOによると、大気汚染は年間700万人が早死にする原因となっており、他の疾患の危険因子となっていることも多いのです。実際、気候変動の根底にある要因の多くが健康に広範囲な影響を及ぼすことは、長い間知られてきました。

一方で、パンデミックへの対応は、大気汚染の急激な減少をもたらしました。コロナ危機の間に空気がきれいになったことで、ヨーロッパでは11,000人の死が回避されたという推算もあります。世界的に見ても、30億人の人々が自宅待機したこととその経済的な影響によって、今年の温室効果ガスの排出量は今年5.5%減少すると予測されています。それにもかかわらず、明らかに一時的なものとはいえ、このような大規模な削減を行ったとしても地球温暖化を1.5℃に抑えることはできないでしょう。最新の科学によれば、そのためには年間7.6%の削減が必要となります。本当に途方もない変化が必要なのです。

Emissions have been cut back - but we're still not on track yet
排出量は削減されましたが、まだ軌道に乗ったとはいえません。 Image: BBC

楽観的になれる理由とは

それでも、かすかな希望の光はあります。新型コロナウイルス感染拡大が教訓的な物語であったとすると、それはこれから起こり得ることについての特訓コースでもあるのです。私たちは、個人または集団で創意工夫を凝らし、その体験を共有することでこの危機に対応し適応していくでしょう。そして、おそらく最も重要なのは、健康を私たちの心の中心に据えることによって新たな道が次第に実現可能となり、可能性も広がっていくということです。

新型コロナウイルスの感染拡大は、あらゆる次元での実験につながりました。人の暮らし方、働き方、移動の方法や、政府・雇用との関係が変わり、従来の傾向が促進されたケースもあります。いくつか例を挙げると、テレワークが標準になったこと、より多くの消費者の購買がオンラインに移行したこと、歩行やサイクリングに対応するために道路を整備する実験が市当局によって実施されていること、そして、一時的ではあるものの海外旅行が事実上停止したことなどです。

これらの進展はこのままの勢いで続くわけではありませんが、その痕跡は予測もできない形で私たちの生活と私たちのポストコロナの世界に残っていくことでしょう。

より直近では、パンデミックの経済的影響に対処するための刺激策が、将来に向けてより健全な道筋を描くものになるよう求める総意が急速に台頭しており、それは、私たちが従来とは異なる方法で対処していく責任があることを示しています。重要なのは、この立場は経済界の大半が受容しているものであり、従来通りのやり方を続けることや、これまでのようにビジネスを継続することはできないこと、そして「ニューノーマル」のあり方は人々と地球の健康を中心としたものでなければならないことを認識していることです。

これまでに、世界の700社以上の企業が世界のリーダーたちに向けた公開書簡に署名し、経済刺激策によって新型コロナウイルス感染拡大の影響と現在進行中の気候危機の両方に確実に取り組むことを求めています。一方で、世界全体で少なくとも4,000万人の医療従事者を代表する4,500人以上の医療専門家と、350以上の組織が、G20のリーダーたちにグリーン・リカバリーを確実に実施するよう求めています。

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新型コロナウイルス感染拡大は、痛烈な痛みを伴うものですが、このおかげで、半年前には想像もできなかった気候変動対策のための政策的な窓が作られたのです。来年には、復興計画、景気刺激策、企業救済に何兆ドルもの資金が投入されるでしょう。この歴史的瞬間に、各国政府は、気候変動を含むシステミックリスクを防止する技術に投資し、排出量を大幅に削減し、社会的レジリエンス(適応、回復できる力)を向上させることで、未来の方向性を変えることができます。企業は、革新的な能力、解決策へのフォーカスや財務的洞察力をこの問題に適用することで、重要な役割を果たさなければなりません。今日私たちが直面している劇的な人間的・経済的状況が繰り返されないようにするには、政府、企業、社会が協力し、以下の取り組みを実施する必要があります。

1. 科学に基づいたネットゼロエミッション戦略を採用する。企業も政府も、2050年までに温室効果ガス実質排出量をゼロにするための、明確な科学的根拠に基づいた道筋を採用することで、健康リスクと気候リスクに対処することができます。その過程で、100%クリーンなエネルギーシステムを構築し、炭素排出がないモビリティへの移行を加速させ、将来のゼロカーボン重工業を構築し、自然を活用した気候変動対策の可能性を活用することができます。気候危機への取り組みに加えて、これらの道筋はまっとうな雇用を生み出し、健康と福祉を守ることにもつながります。新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済刺激はこのような道筋を整備することに専念すべきです。

2. 現在と将来の健康リスクをこれまで以上に考慮し、対処する。地球規模の健康安全保障の枠組みは、気候変動に起因するものも含め、あらゆる危険が網羅されていなければなりません。これらのリスクに備えて対処するためには、世界のすべての国とすべての利害関係者の領域にまたがるグローバルな脅威に対して、共同体として責任を持って計画と予防策を実施することが必要となります。

3. より良い生活のために都市を再設計する。新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの都市や都会的な生活様式に非常に多く蔓延している、深い脆弱性と不公平を浮き彫りにしました。ポストコロナの時代には、都市の設計・計画・管理、そして、都市のシステムと人間の関係を再考する必要があります。新型コロナウイルスの感染拡大に対応した刺激策は、以前よりも健康にいい空気やモビリティ、仕事や遊びなどを促進するものでなければなりません。また、刺激策はすべての市民が安全と機会を享受できるような都市に至る道筋を示し、健康を都市生活の中心に据えるものである必要があります。

アメリカの哲学者・詩人である、ジョージ・サンタヤーナ氏の言葉を借りると、私たちが現在の教訓を認識し、覚えておくことができれば、問答無用で現在と同じことが繰り返されることはないのです。つまり、すべきことは明確です。私たちは、科学を無視すること、眼をそらすことをやめなければなりません。私たちにはより健康的な生活を取り戻す責任があり、そしてそれを取り戻すことは明日のため、引いては未来のためとなるのです。

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