• 今年のエネルギー転換指数(ETI)の調査結果は、緩やかながらも確実な前進が示されました。2015年以降、80%以上の国々が指数のスコアを上昇させています。
  • 新型コロナウイルスがもたらした危機は世界のエネルギーシステムを不安定にし、その脆弱性を浮き彫りにしました。
  • 波乱が予想される未来を乗り切るため、エネルギーシステムのレジリエンスを高める必要があります。

2020年の「ブラック・スワン」

2020年は世界のエネルギー転換のターニングポイントとなるはずでした。人間の活動に起因した温室効果ガスの年間排出量を世界全体で見ると、エネルギーの生産と消費が3分の2を占めています。このためパリ協定の誓約を実現するためには、エネルギー転換を中心に据える必要があります。

各国は、パリ協定の目標を達成するための「自国が決定する貢献」について評価し、世界の気温上昇を2度以下に、さらに言うと、野心的には1.5度以内に抑えるための取り組みを強化できる可能性があると期待されていました。世界は目標を実現する10年に突入し、その勢いを結集するという意識のもとで2020年という年を迎えました。

ところが、ここ数カ月の間に私たちが直面したのは、起こる確率は低くとも影響力の強い、世界規模の惨禍でした。新型コロナウイルス大流行のスピードと規模、激しさは、まさに寝耳に水であり、被害を軽減するための資源の再配分と信念の共有、そして正常な経済と社会への早急な回復が必須となっています。

新型コロナウイルスが「ブラック・スワン」事象であることはもはや明らかで、史上最長の景気拡大がもたらした利益を帳消しにする恐れがあります。

脆弱なエネルギーシステム

新型コロナウイルスに起因した混乱により、エネルギーシステムの脆弱性が明らかになりました。このため、エネルギー転換の短期的な見通しはリスクにさらされています。エネルギー需要の落ち込みが過去に例をみないスピードと度合いで進み、それに伴う価格変動と地政学的な影響は、世界のエネルギーシステムを不安定化させています。

エネルギー転換の経済的側面が示しているのは、極端な価格変動が各国の財政に影響を与え、エネルギー分野に携わる数百万の労働者の生活にも影響するということです。価格変動は再生可能エネルギー技術の競争力をも変化させ、エネルギーの効率化に対するインセンティブを低下させます。市場やインフラだけでなく、政策と連携の仕組みにおいてもレジリエンスを高めることが、エネルギー転換の回復を加速させるために重要になるでしょう。

エネルギー需要は少しずつ好転しており、回復の兆しがみられます。とはいえ、経済が勢いを取り戻すには、さらに長い時間がかかると思われます。不透明な経済見通しを考えると、自動車や家電製品の購入が先延ばしされたり、インフラ開発が中断されたりと、重要度の低い産業活動の再開に時間がかかる可能性があります。

動揺を増す「ニューノーマル」

エネルギー消費が減少した影響はすぐさま環境に表れており、最も大気汚染の深刻な中国やインドですら、空の汚染が緩和されています。環境の持続可能性というアジェンダにとっては不幸中の幸いといえるかもしれませんが、これが進展と誤解されることがあってはなりません。この状況は、効果的なエネルギー転換のために、私たちがコストを支払わなければならないことを示しているのです。

G20 countries’ Energy Transition Index 2020 ranking and share of global total energy supply, 2017
G20各国の2020年エネルギー転換指数の順位と、世界のエネルギー供給(2017年)全体に占める割合
イメージ: World Economic Forum and IEA、World Energy Balances 2019

未来の世代のためには、持続可能で繁栄するエコシステムが必要です。加えて、経済成長と社会開発にとっても、効果的なエネルギー転換が絶対に欠かせません。激動を続けるグローバルなパラダイムにおいては、混乱が新たな常識となります。エネルギー転換のロードマップには、こうした混乱に対する強靭さを取り込む必要があります。エネルギー転換のレジリエンスとは、長期的にみて、不測の、または外因的な混乱から回復できるシステムを備えた、強力で実現可能な環境を意味します。これには強力な政治的コミットメントの存在や、安定した資本市場、投資へのアクセス、一定したイノベーションのパイプライン、インフラの近代化、未来のエネルギーシステムに携わるヒューマンキャピタル(人的資本)の育成なども含まれます。

世界経済フォーラムのエネルギー転換指数(ETI)は、エネルギー転換のためのこうした基礎的条件について各国を評価したものです。さらに、経済成長、環境の持続可能性、エネルギーアクセスやエネルギーセキュリティの指標からそれぞれのエネルギーシステムの成果を評価しています。このほど2020年の指数に対する分析が完了。その結果、エネルギー転換が徐々に進んでいる確たる証拠が得られました。

80%以上の国で2015年以降、ETIのスコアが上昇しています。新興国と先進国の格差の縮小がみられることも朗報です。ただ、なすべきことはまだたくさんあります。

過去6年の間に、毎年ETIが上昇し続けた国はごくわずかしかありません。この事実は、エネルギー転換の複雑さとその課題を明らかにしています。この前進をグローバルなレベルで実現するために、規制や政治的コミットメント、資本と投資、技術開発の各水準を引き上げることが非常に重要になります。

新型コロナウイルスがもたらした世界的惨禍から苦労の末に立ち直ることができたとき、幾つかの貴重な教訓が得られるかもしれません。エネルギー転換が抱える課題には、パンデミックと似通った点があります。その規模や、社会経済システム全体に段階的に影響を及ぼす点、脆弱な人口にとってより過酷であること、タイムリーで協調的な断固とした対応が必要な点などです。ステークホルダーが意識しなければならないのは、新型コロナウイルスとの闘いが、グローバルなエネルギー転換という社会経済上の重要問題の解決を妨げるものではない、ということです。さもなければ、新型コロナウイルス大流行による損失が人類にもたらす被害は、一層大きくなってしまうでしょう。