• 世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルス感染症にはパンデミックの可能性があるが、現状ではパンデミックには当たらないとの認識を示しています。
  • その一方で、この認識に異を唱える専門家や、すでにパンデミックに近い状態ではないかと考える専門家もいます。

新型コロナウイルス感染症は、少なくとも現状では、パンデミックには発展していない――これは、2月26日に世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長が会見で示した見解です。

さらに、一部の政治家やジャーナリストからパンデミックを宣言するように要請されたことに言及した上で、「パンデミックの宣言で意気込みすぎるのはよくない。事実を冷静かつ慎重に分析するのが先決だ」と述べました。

この発言を聞くと、ある重要な疑問が浮かびます。それは「どのような状況なら専門家は感染症がパンデミックであるとみなすのか」という疑問です。

WHOの定義では、パンデミックと、は新しい感染症が世界的に大流行する状態を指します。新しい感染症には免疫がない人が多いため、予想以上に感染が拡大するおそれがあります。

また、一部の専門家が指摘するように、パンデミックは感染症の重症度ではなく地理的な拡大範囲のみが考慮される言葉です。

WHOによれば、地域的なエピデミックから世界的なパンデミックへの移行は、「急速に起こることもあれば徐々に起こることもあるが、これは主にウイルス学的、疫学的、そして臨床的なデータに基づいた総合的なリスク評価で明らかになっている」とのことです。

2月26日の時点では、WHOは、新型コロナウイルスの「コミュニティレベルでの継続的かつ集中的な感染」すなわち大規模な感染者の発生は認められないと述べています。

中国では、人口14億人に対して感染者数は8万人未満にすぎないとWHOは説明しています。中国を除く世界全体でも、人口63億人に対して感染者数はわずか2,790人となっています。

Characteristics of the past four influenza pandemics.
過去に発生した4つのインフルエンザのパンデミックの特徴
イメージ: WHO

すでにパンデミック?

そうかもしれません。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のジミー・ウィットワース教授は、BBCに対して次のように語っています。「現況をパンデミックだとする見方は多いのではないか。世界の複数の地域で感染が拡大しつつある」。

現在、新型コロナウイルスの感染は、南極大陸を除く全大陸で報告されており、最新の情報ではブラジルとギリシャで新たに感染者が確認されました。

イギリスの国立衛生研究所、ナタリー・マクダーモット博士は、医療システムが弱体化している国でのウイルスへの対応能力を非常に危惧しているとBBCに対して語っています

「現在の状況は、パンデミックになるかどうかの瀬戸際。おそらく、あと数週間もすれば各地で感染者が増加するはず。もしそれが複数の大陸で起きたとすれば、パンデミックが目前に迫ったことを意味することになるだろう」。

ただし、中国では1月末に感染の流行がピークに達し、それ以後は新規感染が減少しています。WHOのテドロス事務局長の発言にあったように、中国が講じた措置が感染拡大の阻止に貢献し、「感染者の大幅な増加を食い止めた」結果となっています。

テドロス事務局長は次のようにも述べています。「すべての国に希望と、勇気と、自信を与えるであろう重要なメッセージがある。それは、このウイルスの封じ込めは可能だということだ」。

Where has coronavirus been confirmed around the world.
新型コロナウイルスの感染者が確認された国と地域
イメージ: Statista

今後の見通し

結局のところ、パンデミックを宣言するかどうかはWHOの事務局長次第です。そして、その判断材料となるのは、感染がどの程度の速度で拡大しているのか、どの集団が高い危険にさらされているのか、治療にはどの程度の効果があるのかといった、さまざまな要素です。

また、症状と合併症の評価、感染者数、医療従事者への影響や世界の医療システムの対応能力も勘案することになります。いずれにせよ、厳密な基準というものはなく、事務局長個人の判断に委ねられています。

WHOは、警戒心から「パンデミック」という言葉を使用することに慎重になっています。テドロス事務局長は、この言葉を使用することに「明白なメリットはまったくなく、むしろ不当な恐怖心や偏見をいたずらにあおり、さまざまなシステムを麻痺させる大きなリスクがある」と述べています。

この警戒心の原因のひとつは、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)の世界的流行へのWHOの対応にあるのかもしれません。このときWHOは、当時の基準に基づいてパンデミックを宣言しました。ちなみにその基準は、そのパンデミックを契機に廃止されています。パンデミックが宣言された後に、実際の致死率は予想されていたほど高くはなかったことが判明し、WHOは過剰な反応を示したとして一部から非難を浴びることになりました

無用なパニックを防ぐのは、もちろん大事なことです。パンデミックという言葉は「ウイルスの封じ込めはもう不可能だという合図になりかねない。それがまったくの事実ではないにもかかわらず」とテドロス事務局長は語っています。「この闘いには勝算がある。行動さえ誤らなければ」。

その一方で、テドロス事務局長は「事態を適切に表現する」状態になれば、WHOはパンデミックという言葉を使用するのに躊躇はしないとも語っています。

それでも、2月26日の時点では、新型コロナウイルスには「パンデミックの可能性がある」だけであり、準備することが肝要だと殊更に強調するにとどめました。

テドロス事務局長はこうも発言しています。「誤解しないでいただきたい。事の深刻さを軽視しているわけではない」。