世界人口の半分超の人々は主要都市部に住んでおり、国連の推定によると、その数は2050年までに世界人口の70%に達するとの見通しです。都市はネットワークへのアクセスが容易なことから、何世紀にもわたってイノベーションの原動力として機能し、貧困から繁栄への明確な道筋を多くの人々へ示し続けてきました。

また、都市は伝統的な地方部に比べて、移民やマイノリティの人々、女性により大きな自由を与え社会的流動性を高めてくれる場としても機能してきました。現在では、人口1,000万人以上のメガシティが33都市もあり、そのうち8都市には少なくとも2,000万人が住んでいます。大都市の成長に伴い、難民の移住や地球温暖化等、都市はあらゆる喫緊の地球規模課題に関する議論の中心となってきています。

革新的な対応

世界の都市では、市長や地方自治体が、設計者や建築家、都市計画立案者、地元のコミュニティ等と協働して、誰も取り残す事のない、安全で持続可能な都市空間のための、革新的で具体的なソリューションを提案・実施するための取り組みを行っています。

オランダの海岸沿いの都市、ロッテルダムでは、2025年までに100%の気候耐性を備えた都市となる旨の都市戦略に、市長が着手しました。面積の90%が海抜ゼロメートル以下であるこの市では、気候変動への適応が優先課題となっており、水と安全に共存するため、都市の風景に水と緑の回廊を融合させる等のインフラを取り入れている一方、生物多様性を向上させる他、実験的な住宅や公共空間、プログラムの導入等、社会的一体性を高める取り組みも行っています。

また、スペインのバルセロナでは、市の意思決定にあらゆる人々の声を取り入れようとしています。市が設立したダイナミックな参加型プロセスでは、市議会が600を超える市民団体と協働しています。組織化されたアクション・ネットワークの中で、それぞれが労働、住宅、教育、移民の受け入れ、といったトピックに注力しています。合意した戦略に関して政府と協力したり、知識やリソースを共有したりと力を合わせることで結果を出しています。

都市設計に関する交流

世界中で多くの地方自治体が、インフォーマルな居住地に移住してくる人々の増加に直面しており、その数は2030年までに20億人に達すると推定されています。こうした状況には、革新的なアイデアによる住宅やサービのの提供を通じて課題解決に取り組んでいます。

チリでは、資金力の限られた地方自治体が、時を経ても価値が下落せずむしろ上昇するような公営住宅の設計を、建築家に依頼しました。居住地のコミュニティとの協力のもと建築家が造り上げたのは、家の半分、つまり骨組み構造やバスルーム、台所、屋根等の、住民にとって資金的負担の大きい部分のみが建築された公営住宅。残りの部分の増築は、住民側に任されました。

他の地方自治体は、非公式な仕事に従事する労働者の声を都市計画や設計プロセスに活かすことで、よりインクルーシブな都市を目指そうとしています。世界の労働者の60%以上は非公式経済に属しており、まっとうな労働条件や労働者としての権利が与えられないまま働いています。南アフリカ共和国のダーバン市では、市の委託を受けた建築家が、公式および非公式な企業、居住者、通勤者と相談の上、偏見を乗り越えるべく、活気のある輸送拠点で働く5,000人の非公式な商人のために、より安全な市場を設計しました。

また、スラム住居国際ネットワーク(SDI)のような、都市の貧困層で構成された国境を越えたネットワークでは、自分たちの手でよりインクルーシブな都市を実現するための再開発ツールを構築し、互いの都市を直接訪れてツールを共有しています。

全ての子どもたちに教育を

能力、人種、言語、宗教、性別、経済状況に関わらず、子どもたちに質の良い教育を提供することは、インクルーシブで繁栄した都市コミュニティを構築する上で不可欠です。急速に拡大を続けているインドの都市部では、さまざまな現場を渡り歩いて暮らす労働者が新たな開発地域の建設を担っており、その子どもたちは基礎教育を受けることが難しい状況です。

プネー市では、このような移動生活を送る子どもたちのために、ドア・ステップ・スクールが移動式の学校を運営し、小さなバスに子どもたちを乗せて基礎的な読み書き・計算を教えています。また、ニュージーランドでは、子どもを持つ難民がコミュニティに移住してくるにあたり、英語を学び、幼児教育に関する情報を得られるよう、多文化プレイグループが支援活動を行っています。

誰も取り残す事のない、インクルーシブな街へ

データとテクノロジーのイノベーションが急速に集約されていく今日、その影響は世界中の都市に及んでいます。スマートシティ化が一層進めば、より安全で多様性に富んだインクルーシブな街並みがもたらされ、高齢者や、人口の15%を占める身体障害や認知障害のある人々にとって、移動手段の利用の面でも優しい都市になります。

手話を認識できたり、認知障害のある人々向けにシンプルなディスプレイで忘れ物を知らせたり、といった機能を備えた自動運転のシャトルバス、アクセシブル・オリーや、コミュニティの人々が投稿したデータを基に、視覚障害のある歩行者をバス停の乗車位置まで案内する、スマートフォン用アプリBlindways等、テクノロジーの進化により、新たな移動の自由がもたらされつつあります。

人間中心の価値観

とはいえ、機械倫理の世界的な行動規範の整備や、データやアルゴリズムの中に潜む、性別や人種に関する偏見の検討など、都市が真にインクルーシブでスマートになるために乗り越えるべき障害はまだまだ多いのが現状です。

国連の持続可能な開発目標(SDGs)の11番では、2030年までに「都市と人間の居住地を、インクルーシブ、安全、レジリエントかつ持続可能にする」ことを目指しています。地球環境を保全しながら、全ての人々が平和と繁栄を享受できる、そのような世界を実現すべく行動を呼びかける、この世界的な目標にとって、インクルーシブな都市の実現は、まさに中核となるものなのです。