Economic Growth

「デフレ的な世界」が終わる2つのシナリオ

8月7日、MCPチーフストラテジストの嶋津洋樹氏は、デフレ的な世界が終わりに近づいているものの、それはハッピー・エンドではない可能性があると指摘。写真は飛行する気球から見たロンドン市街。2019年6月撮影(2019年  ロイター/Simon Dawson)

飛行する気球から見たロンドン市街。MCPチーフストラテジストの嶋津洋樹氏は、デフレ的な世界が終わりに近づいているものの、それはハッピー・エンドではない可能性があると指摘。 Image: ロイター/Simon Dawson

Hiroki Shimazu
Chief Strategist, MCP Asset Management Co. in Tokyo
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デフレ的な世界、つまり世界的な低インフレの時代が終わりに近づいている。米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)に続き、日銀までもが金融政策のスタンスを変える中で、世界的な低インフレの時代が終わると言われてもにわかには信じられないだろう。

しかし、筆者にはそう感じられてならない。しかも、それは残念ながらハッピー・エンドではない可能性がある。

筆者がそうしたことを考え始めたのは、次の金融危機に思いを巡らしているときである。先に断っておくが、筆者が何か具体的な兆候を見つけたわけではない。世界的なインフレを、正しいマクロ経済政策によって終わりに導くことは可能だとも考えている。

しかし、最近の出来事を見ていると、その可能性が徐々に低下しているのではないかと心配にならざるを得ない。キーワードは「信頼の喪失」である。

市場が失った世の中の動きを数値化する機能

まず、投資家が自身の腕前に対する信頼を喪失している可能性がある。ブルームバーグは7月、「ファンドマネジャーのキャリア脅かす『みんなで渡れば怖くない』心理」という記事をウェブサイトに掲載。今のファンドマネジャーは「『うまく行っているものを買う』、『人と違うことはしない』、『バリュエーションは気にしない』の3つの標語に基づいて動いている」と指摘している。

投資家が自身の腕前に対する信頼を失うのは、無理もない。ここ数年の金融市場は、ファンダメンタルズよりも突発的なイベントに振り回されることが多いからだ。とくにトランプ米大統領に代表される政治家の場当たり的ともいえる言動は、経済や企業のファンダメンタルズに基づく取引を一瞬にして無駄にすることがしばしばである。上述の3つの標語に基づいて動くことには一定の合理性があるだろう。

筆者は昨年末の本欄で、市場参加者の横並び意識が高まっていること、同時にリスクに対して敏感になっていることを指摘。その結果として、金融市場の振れ幅が大きくなり、金融市場の機能を揺るがしかねないと警鐘を鳴らした。つまり、世の中の様々な出来事を数値化して映す鏡としての役割が損なわれる可能性だ。それは金融市場に対する信頼を喪失させかねない。

タイミングが悪いことに、世の中の様々な出来事を文字や映像で伝えるはずのニュースにはフェイクが混じり、やはり十分な機能を果たしていない。報道に対する信頼が失われているのだ。そのことは、政治家の場当たり的な言動を助長することはあっても、抑制することはないだろう。結果として、不可能なことをあたかも可能なこととして約束する政治家が人気を集めることになる。世界中でポピュリズム的な風潮が強まるのは当然だろう。それは、既存の政治に対する信頼が失われたことを意味する。

こうしたポピュリズム的な風潮の強まりは、政策担当者の意思決定にも大きな影響を及ぼす。たとえば、最近の金融当局に対する政治家からの圧力は典型的だ。

政策担当者にとって悩ましいのは、低成長、低インフレという世界では政策の効果をはっきりと示すのが難しいことだ。筆者は、金融政策を含む適切なマクロ経済政策こそが、リーマン・ショック以降の景気回復をもたらしたことを疑っていないが、成長率もインフレ率も低い中では、成し遂げたことより成し遂げられなかったことに焦点が当たりがちだ。景気が悪化する中で緊縮財政に舵を切ったり、金利を引き上げることに一定の支持が集まるのは、正しいマクロ経済政策への信頼が失われつつあることと無縁ではあるまい。

仮想通貨が選ばれる時代

経済政策が大きく間違えれば、金融市場を混乱に陥れるだろう。価格発見という本来の機能がすでに侵されているとすれば、投資家は金融資産を一斉に現金化することで、自分の資産を守ろうとするはずだ。リーマン・ショック後の金融市場はまさにそうしたことが起こったのである。

しかし、リーマン・ショック時とは異なり、マクロ経済政策への信頼は低下している。その際、投資家が求めるのはドルやユーロ、日本円など既存の通貨だろうか。筆者は仮想通貨が選ばれる可能性があると考えている。そこまで極端ではなくとも、金や不動産などの現物資産に資金がシフトすることはあり得るだろう。

実際、近年、通貨が大幅に下落するなかで、外貨への交換も制限されたトルコでは、高級ブランド品に資金が集まったという。中国で不動産投資が盛んな理由として、資産の海外への持ち出しが制限されるなかで、その保全手段として消去法的に選択されているという話も聞く。政策当局への信頼が極端に失われれば、物価には上昇圧力がかかる。

こうして、低インフレの時代は終わりを告げるだろう。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。景気循環学会監事。共著に「アベノミクスの真価」。*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。景気循環学会監事。共著に「アベノミクスの真価」。

*この記事は、Reutersのコラムを転載したものです

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