ヘルスとヘルスケア

薬剤耐性対策に、喫緊の取り組みが必要な理由

感染症の診断に使用される、赤いペトリ皿を二つ持った手の写真。薬剤耐性(AMR)は敗血症の治療を著しく困難にし、特に脆弱な層において死亡リスクを大幅に高めます。

薬剤耐性(AMR)は敗血症の治療を著しく困難にし、特に脆弱な層において死亡リスクを大幅に高めます。 Image: National Cancer Institute/Unsplash

Judith Moore
Head, Healthcare Access & Outcomes, World Economic Forum
Lora du Moulin
Lead, Global Health and Security, World Economic Forum
本稿は、以下会合の一部です。世界経済フォーラム年次総会2026
  • 抗生物質は社会の基盤となる重要なインフラであり、私たちの健康、食料システム、経済の安全保障は効果的な抗菌薬に依存しています。このため、薬剤耐性(AMR)対策は緊急を要します。
  • 最近のモデル予測によれば、AMRは、現状維持シナリオと比較して、グローバル経済を2050年までに約1.7兆ドル縮小させる可能性があります。
  • 50以上の組織が「AMRに関するダボス・コンパクト」に署名しており、2026年世界経済フォーラム年次総会にリーダーたちが結集する中、このグローバルな健康への脅威に対する取り組みに、さらなる参加が求められています。

炭素や清潔な水と同様に、抗生物質はすべての人々と将来の世代のために保護すべき不可欠な基盤です。私たちの健康、食料システム、経済の安全保障は、効果的な抗菌薬に依存しています。

一方で、治療薬という武器を巧みに回避する耐性菌の数が増加しており、私たちはグローバルな健康危機に直面しています。信頼できる抗菌薬がなければ、臓器移植、がん化学療法、その他の医療処置は、許容できないリスクを伴うことになります。また、単純な切り傷や外傷、尿路感染症、性感染症さえも、生命を脅かす事態となり得るのです。

世界的に主要な死因である敗血症は、このリスクを顕著に示しています。敗血症は、感染に対する身体の過剰反応が生命維持に必要な臓器の損傷を引き起こすことにより発生し、命を落とす原因となることが多い疾患です。薬剤耐性(AMR)は敗血症の治療を著しく困難にし、特に脆弱な層において死亡リスクを大幅に高めます。

例えば、がん患者は一般の人々に比べて敗血症の発症確率が最大10倍高く、敗血症はがん患者が集中治療室(ICU)に入る主な原因となっています。耐性菌による感染症がより一般的になるにつれ、現在も医療上の緊急事態である病状は、さらに致命的になり得るでしょう。

このため、AMRは医療上の課題であるだけでなく、マクロ経済的な課題でもあると言えます。この課題はすでに各分野で労働力参加率と生産性を低下させており、その経済的影響はさらに拡大する見込みです。最近のモデル予測によれば、 現状維持シナリオと比較してAMRは、グローバル経済を2050年までに約1.7兆ドル縮小させる可能性があるからです。

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AMR対策に必要なグローバルアクション

AMRに対する協調的なグローバルアクションの必要性は、これまで以上に増大しています。

2024年9月に国連総会で開催された薬剤耐性に関するハイレベル会合を受け、世界経済フォーラムの「グローバル・フューチャー・カウンシル - AMR」は、AMRに関する四者合同事務局によるレビューを経て、「AMRに関するダボス・コンパクト」を策定しました。

これは公的な声明であり、本コンパクトが掲げるAMR対策の強化という目標への支持を、署名をもって表明するものです。

2026年の年次総会の時点で、50を超える世界の主要組織がこの行動要請を支持しています。これは、素晴らしいことです。署名組織は世界各国および地域にわたり、保険、製薬、バイオテクノロジー、医療、市民社会、アカデミア、動物医療、金融、慈善活動などの分野のリーダーたちが名を連ねます。

この結束したコアリションは、以下の4つの重点分野における協調的な行動を呼びかけます。

  • イノベーションとアクセス - 新たな抗菌薬、診断法、ワクチンの研究開発を加速させると同時に、特に低・中所得国において、公平かつ責任あるアクセスを確保する。
  • 啓発と提唱 - 各国政府や業界のリーダーたち、コミュニティとの連携を通じ、グローバルな認識の向上と行動変容を推進する。
  • 持続可能なアグリフードシステム - 農業分野で使用する抗菌薬の削減、適正使用の促進、代替手段への投資を通じ、人間、動物、環境の健康を守る。
  • 多分野連携と資金調達 - 市場ベースのインセンティブと持続可能な資金メカニズムを構築し、企業によるAMR対策への投資を促進する。

この取り組みは極めて重要です。なぜなら、誰がどこに住んでいようと、どのような活動をしていようと、AMRの脅威の増大は必ず影響を及ぼすからです。地政学的な緊張、気候の温暖化、さらには観光活動までもが、AMRの拡散に関与しています。

ウクライナでは、戦争とそれに伴う死傷者、患者数の増加が、多剤耐性菌の拡散を加速。一部の病院では、AMRの割合が80%を超える状況にあります。

一方ベネズエラでは、同様の課題に直面する多くの国々と同様に、AMRが重大かつ増大する健康脅威として浮上。

事実として、2025年から2050年の間に、AMRは直接的に3,900万人以上の死亡を引き起こし、さらに広範な1億6,900万人の死亡と関連すると予測されています。特定の細菌に対して新たな抗生物質を開発する代替シナリオでは、2050年までに1,110万人のAMRによる死亡が回避されると推計されます。

AMR対策への協力体制

「AMRに関するダボス・コンパクト」への署名組織には、AMRアライアンス・ジャパンビオメリュースウェーデン公的年金基金倫理委員会スイス・リーが名を連ねており、署名を通じ、AMR対策におけるグローバルなリーダーシップを示しています。一方、あらゆる分野において、引き続き啓発と提言を推進することが、極めて重要です。

オープンフォーラムでは、「The Fragile Future of Antibiotics(抗生物質の脆弱な未来)」セッションが開催されました。

また、世界中の組織に対し、AMR対策における資源動員と体系的な変革を推進する共同の取り組みとして、「AMRに関するダボス・コンパクト」への署名が呼びかけられています。

同コンパクトは、「Unified Coalition for the AMR Response (UCARE)(AMR対策統一コアリション)」のもと、同フォーラムがパートナーと継続的に進める活動によって支援。2026年第1四半期に開始される新たなワーキンググループでは、供給不足、監視体制、適正使用(診断の適切な活用を含む)といった医療システムの構造的課題への対応に焦点を当て、取り組みを推進します。

署名により、各国、各分野の組織がAMR対策における構造的な変革を推進する、グローバルな取り組みに参加することになります。

2029年に国連総会で開催される、AMRに関するハイレベル会合の時点までに、このグローバルな脅威であるAMR対策の進展が必要です。これは、私たち全員の課題なのです。

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