デジタルの信頼と安全性

変わり続けるデジタルの未来、安全なシステムをどう作るか

スマホを操作する手のクローズアップ。設計段階からの安全性確保を意味する「セーフティ・バイ・デザイン」原則は、規制当局や機関がデジタル分野の安全性を考える上で、ますます重要な概念となっています。

設計段階からの安全性確保を意味する「セーフティ・バイ・デザイン」原則は、規制当局や機関がデジタル分野の安全性を考える上で、ますます重要な概念となっています。 Image: Jonas Leupe/Unsplash

Julie Inman Grant
eSafety Commissioner, Office of the eSafety Commissioner
David Sullivan
Executive Director, Digital Trust and Safety Partnership
Cathy Li
Senior Director, Centre for AI Excellence, World Economic Forum
Agustina Callegari
Senior Manager, Technology Governance, Safety and International Cooperation, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 AIエクセレンス
  • 「セーフティ・バイ・デザイン」原則は、オンライン環境の安全性やAIに関する議論においても、その重要性を増しています。
  • このアプローチでは、オンラインサービスや製品の開発においてユーザーの安全性と権利を最優先とし、潜在的なリスクを事前に予測、対処することに重点を置いています。
  • 世界経済フォーラムの報告書『Preparing for the Future: The Pillars of Digital Safety Foresight(未来に備える:デジタル安全性に関する先見性の柱)』は、組織がより先見的な思考を身につけるための指針を提供し、先見性に基づくアプローチと具体的な行動との橋渡し役を果たすでしょう。

「セーフティ・バイ・デザイン」、つまり「設計段階からの安全性確保」の原則は、デジタル安全性の基本的な枠組みとして広く認知されるようになりました。もはやこれは単なるベストプラクティスの問題ではなく、規制当局や機関がオンライン環境の安全性やAIについて考える際の重要な指針として定着しつつあります。

この原則は、オンラインサービスや製品の設計・開発プロセスにおいてユーザーの安全性と権利を中核に据え、後から安全対策を追加するのではなく、潜在的な危害を事前に予測、防止することに重点を置く考え方です。

オープンAI、アマゾン、アンソロピック、グーグル、メタ、ミストラルAIをはじめ多くの企業が、生成AI技術の開発において、子どもに対する性的危害を防止するための取り組みの一環として、「セーフティ・バイ・デザイン」原則へのコミットメントを公に表明しています。

デジタル安全性に向けたグローバルな関心が高まり、特に子どもの保護が重視される中、企業は自社の現行システムや新製品リリースが、設計上の選択によってどのように危害の発生を容易化、迅速化し、あるいは逆に検出を困難にする可能性があるかを把握しておく必要があるでしょう。

ただし、「セーフティ・バイ・デザイン」における最も重要な要素は「予測」にあります。予測とは、単に新製品や新機能のリリースがどのようにして危害を引き起こす可能性があるかどうかという観点だけでなく、将来の技術動向や規制の変化、ユーザー行動の変化、さらには敵対的適応の可能性など、より広範な視野で検討することを意味します。また、技術の進歩、規制の変更、ユーザー行動の変化、敵対的適応などによって周囲の環境がどのように変化しているかを理解し、これらの変化が製品、サービス、システムを取り巻く新たな危害の経路を生み出す可能性についても考慮する必要があります。

関連記事を読む

進化するデジタル環境

デジタル環境の変化は加速しており、特にAIの影響が大きく現れています。生成AIの登場により、特定の種類の危害がより大規模に、個人向けにカスタマイズされ、さらに巧妙に偽装される可能性が高まっているのです。2026年に開催された「国際詐欺サミット」では、ディープフェイク動画、合成音声、チャットボット、関連ツールの普及により、犯罪者が信頼できる人物になりすまして被害者を欺くことが容易になっていると警告されました。

モデル自体の進化も加速しています。機能が高度化するにつれて、安全性を確保するためには現実世界における適切な保護策がますます重要になっているのです。オープンAIが2026年3月に開始した「セーフティ・バグ・バウンティ(Safety Bug Bounty)」プログラムは、研究者や倫理的ハッカー、セキュリティ専門家コミュニティからの報告を受け、同社製品における悪用リスクや安全性上の課題を特定することを目的としています。

これは、組織が新たな脆弱性や誤用の可能性を積極的にテストする方法の一例ですが、同時に、リスク自体が進化し続けているために、デジタルセキュリティが一度限りの対策で済ませられるものではないことも示しています。

言い換えれば、デジタルセキュリティは固定されたチェックリストではなく、常に変化し続けるターゲットなのです。利便性の向上や意思決定の自動化を目的とした機能は、安全性を改善する一方で、別の側面では新たな盲点を生み出す可能性があります。今日有効な安全対策も、明日には回避されてしまうかもしれません。悪意ある行為者は今あるところに留まることはなく、危害が発生するシステム、インセンティブ構造、環境も同様に変化し続けています。

これこそが、先見性が重要である理由です。先見性とは、より準備を整え、変化を予測することを意味することから、「セーフティ・バイ・デザイン」の自然な延長線上にある概念なのです。

デジタルセキュリティにおける先見性の柱

先見性を実現するためには、どのような兆候が現れているか、技術、政策、市場動向、あるいはユーザー行動の変化が、リスクの再定義をもたらす可能性があるか、既知の危害と新たな機能が組み合わさった場合、どのような影響が生じるか、といった問いを立てる必要があります。

このような視点に立って、世界経済フォーラムが発表した報告書『Preparing for the Future:The Pillars of Digital Safety Foresight(未来に備える:デジタル安全性に関する先見性の柱)』を読む必要があるでしょう。同報告書は、組織がより先見的に考えることを促し、先見性と具体的な行動を結び付ける役割を果たします。

そこには、デジタルセキュリティの先見性に関する6つの柱が提示されています。

  • 枠組みとガバナンス:分析結果を実際の行動に反映できるよう、検討すべき課題、分析範囲、意思決定権を明確に設定します。
  • 感知:広範な状況把握を行い、新たな条件、新たな機能、変化するインセンティブの兆候を検出します。
  • モデル化:変化の兆候を、危害がどのように発生し、拡大し、適応していくかについての説明へと転換します。
  • 準備態勢:組織がデジタルセキュリティ上の危害を、予防、検知、対応、学習する能力を、実際に備えているかどうかを検証します。
  • 早期警戒:モデル化の結果を、組織の準備態勢を確保するための継続的な意識向上と支援活動へと転換します。
  • 統合:他の各柱から得られた成果を統合し、意思決定に活用できる一貫した見解としてまとめます。
デジタルの安全に向けた先見性とは
デジタルの安全に向けた先見性とは

「先見性」を「行動」に転換する4つの経路

先見性が意味を持つのは、それが組織の実際の行動を変える場合に限られます。対応方法は、危害の性質がどの程度理解されているか、そして組織がその問題に対処する準備がどの程度整っているかの両方によって決定されなければなりません。

同報告書は、組織が先見性を具体的な行動へと転換する際の4つの対応経路について説明しています。

  • 経路1:既知かつ対策済みの場合(強化と徹底)
  • 経路2:新規性/不確実性を伴う対策範囲の場合(検証と準備)
  • 経路3:対策が未整備の場合(重点的な強化)
  • 経路4:予測不能/未知の場合(警戒ラインと監視システム)
対応経路マトリックス
対応経路マトリックス Image: 世界経済フォーラム

具体的には、リスクがすでに十分に認識されており、既存の安全対策が強固である場合には、最初から対策を検討し直すのではなく、技術の進化や人々の行動パターン、脅威の傾向の変化に合わせて、保護措置の有効性を維持することが優先されます(経路1)。

一方、被害が発生しているかもしれない場合や、証拠が不十分なケースもあります。このような場合には、前提条件の検証、現状の可視化の改善、そして可能な緩和策を準備して迅速に展開できる体制を整えることが焦点となるでしょう(経路2)。

次に、被害の実態は把握されているものの、現行の安全対策が脆弱であるか、適用範囲が狭すぎる場合があります。このような状況では、組織は特定の安全対策を強化し、既知の脆弱性ポイントに対処する必要があります(経路3)。

最後に、脅威の性質がまだ十分に理解されていない場合については、最初のステップは正確な解決策ではなく、代理観測可能な指標の設定、事前に合意した警戒ラインとエスカレーション権限の決定、そして是正措置の経路定義など、より強固な準備体制の構築です(経路4)。

このように考えると、対応経路とは、不確実性と準備レベルに応じて適切な対策を講じるための枠組みと言えるでしょう。

「セーフティ・バイ・デザイン」は引き続き不可欠であり、これは被害が発生してから後付けで対応するのではなく、予防的、予見的な対策を講じることを重視するものです。ただし、デジタル環境が変化し続ける中で被害が大きくなり、規制が変更され、テクノロジーが融合し、悪意ある行為者が適応していく状況に備えるためには、この原則と先見性と組み合わせて考える必要があります。

デジタル安全性において主導的な役割を果たす組織とは、単にさらに安全なシステムを構築する方法を問うだけでなく、それらのシステムが備えるべき将来像についても問いかける組織なのです。

このトピックに関する最新情報をお見逃しなく

無料アカウントを作成し、パーソナライズされたコンテンツコレクション(最新の出版物や分析が掲載)にアクセスしてください。

会員登録(無料)

ライセンスと転載

世界経済フォーラムの記事は、Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International Public Licenseに基づき、利用規約に従って転載することができます。

この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。

最新の情報をお届けします:

Data Policy

関連トピック:
デジタルの信頼と安全性
グローバルリスク
シェアする:
大きな絵
調さしモニターする Data Policy は、経済、産業、グローバルな問題に影響を与えています。
World Economic Forum logo

「フォーラム・ストーリー」ニュースレター ウィークリー

世界の課題を読み解くインサイトと分析を、毎週配信。

今すぐ登録する

もっと知る デジタルの信頼と安全性
すべて見る

Children’s Safety and Well-Being in the Age of AI: Best Practices and Incentives

ASEAN Digital Economy Outlook 2026

世界経済フォーラムについて

エンゲージメント

リンク

言語

プライバシーポリシーと利用規約

サイトマップ

© 2026 世界経済フォーラム