気候レジリエンスに万能な答えがない理由―日本とペルーの事例から

日本とペルーの事例が示すように、効果的な気候変動対策は、人々の実体験と文化的価値観によって形作られます。 Image: via Reuters
Shinnosuke Komiya
CEO / Design Engineer; Project researcher; Former Hoffmann Fellow, SERINUS LLC, University of Tokyo- 極端な降雨、洪水、熱波といった気候変動に起因する気象現象は、今や世界中の地域社会に影響を及ぼしています。
- 一方、気候災害が大陸を越えて類似しているように見えても、地域社会がそれらをどのように経験するかは、地域の状況によって大きく異なります。
- 日本とペルーの事例が示すように、地域社会と協働で設計されたスマートテクノロジーこそが、地域の実情に即した将来の気候レジリエンス構築において重要な役割を果たすでしょう。
異常気象は、国境や地政学的境界を無視して起こります。近年、洪水、集中豪雨、熱波、干ばつ、台風などが、大陸を越えて広がる地域社会に、年々激化する強度と深刻さをもって影響を及ぼしています。
国連防災機関(UNDRR)のデータによると、2000年以降の20年間で、世界中で7,348件以上の大規模災害が発生。42億人が被災し、推定2.97兆ドルの経済的損失が発生しています。
ただし、気候災害が国を超えて類似したものに見えても、地域社会がそれらを経験する条件は異なります。実際に効果を発揮する気候対策は、文化的価値観、人々の実体験、インフラの歴史的経緯、維持管理能力、そして各地域の制度的適応能力によって形作られるのです。
早期警報システム(EWS)は気候適応の重要な手段の一つですが、こうした気候技術に関する議論では、高所得国で効果が実証された解決策を、わずかな修正を加えるだけでグローバル・サウスの状況に適用できると仮定することがよくあります。
危険な事象が発生する24時間前に警報を発することにより、EWSは被害を最大30%軽減することが可能です。ただし、このようなシステムの恩恵は均等に分配されているわけではありません。
災害早期警報システムのモデル事例、日本
極端な猛暑に加え、甚大な被害をもたらす暴風雨や洪水の経験を持つ日本は、災害リスクを軽減するEWS技術とシステムにおいて、最も説得力のあるモデルの一つを提示しています。このシステムの3つの基本理念は、以下のとおりです。
- 技術的先進性
- 強固な組織間連携
- 高いレベルの地域社会の関与
日本のEWSを支えるのは、IoTデバイス、センサー、衛星、モデリング技術、スーパーコンピュータ、水文気象観測ネットワーク気象庁、地方自治体、その他の関連機関の間で緊密な連携が図られています。これにより、情報の迅速な伝達が可能となると同時に、防災プログラムによって地域に根ざした備えが推進されています。
ただし、日本の包括的システムに組み込まれた前提条件は、ペルーのようなグローバル・サウスの状況下では必ずしも成立しない場合があります。ペルーでは、エル・ニーニョ現象に伴う異常気象、森林破壊、急速な氷河後退など、特有の気候課題に直面しているためです。
2026年初めに、在ペルー日本大使館は日本の防災に関するビジネスセミナーを開催。日本の企業、機関と、ペルーの関係者が集まり、日本の災害リスク軽減に関する知見と技術について議論しました。この議論では、地域のインフラ状況、地域の能力、環境条件、運用上の実態を考慮しなければ、気候変動のレジリエンス向上に向けた取り組みは効果を発揮できないことが明らかになりました。
例えば、日本で効果的に機能する洪水警報システムをそのままペルーに導入しても、必ずしも同じ効果が得られるとは限りません。その理由は、水に関する課題そのものが基本的に異なるからではなく、それを取り巻くインフラの状況、維持管理の状態、制度的枠組み、社会的現実が異なるためです。
テクノロジーの有効性は背景次第
日本の事例は、EWS技術が原理的には有効であることを示しています。より難しい課題は、リスクに最も大きくさらされ、インフラが最も脆弱な地域で、これらの技術が実際に効果を発揮できるかどうかという点です。
日本では、多くの河川が比較的強固な堤防で囲まれており、広範な公共インフラによって支えられています。また、監視装置は、既存の通信ネットワークに接続可能な安定した場所に設置できることが多く、維持管理を行うための確立されたシステムがあります。
ペルーの一部地域では、河川の堤防がより脆弱で、防護インフラが不足していたり、日本のような監視装置の設置に適していない場合があります。これらの違いは、グローバル・サウス地域におけるEWSの実用性がどのように変化するかを明確に示しています。
ある国では問題なく展開、運用できるセンサーが、別の国ではメンテナンスに多大な労力を要するか、あるいは安定した通信環境に依存しすぎて実用性に欠ける場合があります。また、遠隔地では、データを送信し、分析するための信頼性の高い公共ネットワークや商用ネットワークが存在しない可能性があります。過酷な環境下では、センサーの耐久性確保がさらに困難になることもあるでしょう。
この経験から得られる教訓は、気候変動への耐性は単なる工学的課題としてではなく、社会学的、技術的、環境的課題として捉えるべきだということです。
課題は、より高精度なセンサーを開発することではなく、不均一なインフラ環境、ネットワークカバー率の不足、限られたメンテナンス能力、過酷な環境曝露など、さまざまな条件に耐えられるセンシングシステムを設計することにあります。
このような視点の転換は、洪水耐性プログラムの設計方法にも影響を及ぼすでしょう。この考え方は、ペルーにおける洪水リスク監視の取り組みにも反映されています。具体的には、最適化されたシステムよりも適応性と耐久性に優れたシステムを優先すること、頻繁な現地訪問やリソース制約を減らすための長寿命バッテリーを採用すること、運用継続性を確保するために遠隔診断システムを導入すること、従来の通信インフラを補完、拡張するメッシュネットワークを構築することなどが挙げられます。
ソリューションは地域の適応能力に依存
日本とペルーの比較分析から、地域に根ざした気候変動耐性を構築するための3つの重要な教訓が得られました。
- 先進技術は、それを支えるインフラと切り離して考えることはできません。接続性、電源供給、設置環境、メンテナンス能力などが、EWSが導入後も正常に機能し続けるかどうかを決定付ける要素となるからです。
- レジリエンスは、機器そのものだけでなく、それを運用する機関の能力にも左右されます。様々な種類の機器やセンサー、モデリング機能、ダッシュボードも、信頼できる意思決定プロセスと連携することで初めて真の価値を発揮するからです。
- 適応策は単なる模倣ではなく、共同設計のプロセスとして取り組むべきです。これは本質的に、技術能力を地域の実情や実践に適合させる翻訳作業と言えます。目指すべきは、ある国で実証済みのシステムを別の国にそのまま輸出することではなく、その地域の環境的、制度的、社会的現実に最適化されたシステムを構築することです。
この教訓はペルーに限ったものではなく、インフラ環境が多様な多くの地域でも同様の知見が得られています。高度に整備された環境で開発された技術は、経済状況、社会構造、技術水準、インフラ環境が異なる地域に導入されると、期待通りの性能を発揮できないことが少なくありません。
このことは、新興テクノロジーに価値がないという意味ではありません。むしろ先進的なセンサーからAIを活用した予測システムに至るまで、新興テクノロジーは各国における環境モニタリングと意思決定能力を大幅に向上させています。
例えば、量子センサー技術は、地下水や土壌水分の微妙な変化を検知する新たな手法を提供し、将来の洪水予測に役立つ可能性があります。ただし、最も高度なセンサーであっても、より大きな脅威に直面している地域で効果的に展開できなければ、その効果は限定的なものになってしまいます。
気候変動へのレジリエンスを実現する未来は、単により高度なテクノロジーを開発するだけでなく、地域の実情に合わせてテクノロジーを共同で設計できるかどうかにもかかっています。
適応型共同設計が気候変動対策を成功させる鍵
こうした新たな方向を目指す上では、二国間あるいは多国間の技術移転という従来の枠組みを超え、適応型共同設計のアプローチへと移行する必要があります。
共同設計においては、技術提供者、公的機関、組織、そして地域社会が、センサーやデータシステム、モデリングツールや予測ツール、早期警報システムなどの技術を、それらが実際に運用される地域の社会的、インフラ的現実に合わせて再構築することが求められます。
目指すべきは、日本のシステムをペルーで模倣することではなく、その地域に合った固有のシステムを設計、構築することです。
異常気象の激しさが増すにつれ、高度EWSテクノロジーの必要性が高まるのは確かです。最も重要な課題は、単に技術を国境を越えて輸出するのではなく、各地域の実情に真に適合した解決策をどのように構築するかという点にあるのです。
このトピックに関する最新情報をお見逃しなく
無料アカウントを作成し、パーソナライズされたコンテンツコレクション(最新の出版物や分析が掲載)にアクセスしてください。
ライセンスと転載
世界経済フォーラムの記事は、Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International Public Licenseに基づき、利用規約に従って転載することができます。
この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。
最新の情報をお届けします:
Strategic Foresight
「フォーラム・ストーリー」ニュースレター ウィークリー
世界の課題を読み解くインサイトと分析を、毎週配信。






