製造業における、AI導入による生産性向上施策・課題に対する考察

製造業全体にAIを適用することには、特有の課題と機会が存在します。 Image: Photo by Homa Appliances on Unsplash
- 製造業全体にAIを適用することには、特有の課題と機会が存在します。
- AIは強力なツールであり、製造業を変革し生産性を向上させる可能性を秘めると同時に、社会や人類にも良い影響を与えることができます。
- 世界経済フォーラム年次総会2026において、イノベーションを大規模かつ責任を持って展開する方法が探求される中、本寄稿文ではAIが他のツールと同様に、思慮深く責任ある手によって扱われなければならないことを考察します。
AIは、あらゆる産業界の運営に変化をもたらし、世界中のほぼすべての企業に影響を与えています。しかし、今日の議論のほとんどは、LLM(大規模言語モデル)と、LLMがホワイトカラーの仕事のプロセスや雇用、組織に与える影響に焦点が当てられています。
製造業におけるAIの活用についての将来展望はやや異なります。生産性向上に向けての大きな可能性がある点は共通していますが、製造業のような業種においてAIを適用する場合、特有の課題が生じます。人々の生活を支える重要なインフラを構築する際に、結果をどれだけ信頼できるか、企業秘密を顧客やサプライヤーとどれだけ安全に共有できるか、といった課題です。
三菱重工業(MHI)は、これらの課題の解決に取り組んでおり、すべての大手メーカーやテクノロジー企業が、その事業のみにとどまらず、社会全体が利益を享受できるよう取り組んで行くことが重要だと考えています。
生産性向上における可能性
AIはこの1年半ほどの間、人々の想像力をかき立てましたが、誰にとっても新しいものではないというのが実態です。AIの使用によって大規模なデータを収集し、アルゴリズムを介した推定により洞察を得ることについては、ほとんどの先進的な大手メーカーは、すでに何年も前から導入していると考えられます。当社では、生産性を最適化し、顧客が購入した機器をより効率的に運用できるようにするため、AIを活用しています。
具体的には、工場や製造現場においてAIを活用した製造工程の自動化や工作機械・ロボットの高度化、製品検査の精度・一貫性の向上に取り組んでいます。
ここでは、さらなる拡大の余地があります。ガスタービン、船舶、原子炉機器、その他の多くの製品を組み立てるために使用される共通の技術は、溶接です。単純そうで、実際は高度な技術を必要とするプロセスです。訓練を受けた作業者は、実際の五感を使うとともに、より高度な作業をするための第六感を時間をかけて培っていきます。現在、溶接作業者の作業を撮影して記録し、こうした作業工程にAIを適用するための十分なデータを収集できるかどうかを確認しています。これが実現すると、人間の技術力と機械ならではの一貫性を融合し、危険性のある仕事を自動化することにより、人間の作業者はより安全でクリーンな作業に従事することができるようになります。
同時に、品質検査プロセスを改善するために、一部の製品ラインに人為的な欠陥(わずかな凹凸、傷、変色など)を意図的に作り出し、将来的に本物の欠陥をより賢く検出できるよう、AIシステムを訓練しています。
一方、私たちが構築するインフラを運用するOT(Operational Technology Control)システムのアルゴリズムは、すでに社内で開発しています。当社が販売するすべてのガスタービンにはOTシステムが搭載されており、タービンの挙動のごくわずかな異常を検出できるため、顧客は故障の数日前または数週間前に部品の交換が必要であることを予測できます。
より広範囲では、ビジネス開発を支援するためにLLMを活用しています。優秀な営業担当社員であっても、当社の多種多様な製品群の中でどの製品が潜在顧客の問題を解決するかを迅速かつ容易に判断することはできません。AIがまずその関連性を発見し、それを手がかりに人間が追求します。
セキュリティ保護における課題
AIは究極的には単なるツール、技術に過ぎず、特定の部品の製造に使用される3Dプリンターと変わりません。他のツール同様にAIにも短所があります。ひとつは、誰もが利用できるため、競争上の優位性は半年から1年以内に急速に失われる可能性が高いということです。これを防ぐためには、他の技術や人間の技術力や経験と組み合わせ、パッケージ全体を再現し難くする必要があります。これは製造業においては、他の、例えば金融サービスやコンサルティング事業よりも容易に達成できると考えます。
より大きな懸念としては、少なくとも現時点では、アルゴリズムの出力が信頼できない場合があるという事実です。第三者によるデータ(他のAIモデルからのデータを含む)でトレーニングされたAIモデルは、常に信頼できる、または再現可能な結果を生成するとは限らないことが判明しています。完全に自社の情報だけで訓練すれば、より良い結果が得られますが、十分な自社情報を有していない場合もあります。
これは、AIシステムやLLM内部で、機密データの安全性がどの程度守られているのかという、より広範な疑問を引き起こします。MHIは業界、日本国内でも、そして世界的にも、AIを積極的に活用している企業の一つであり、顧客やサプライヤーと可能な限り多くの知識や経験を共有したいと考えています。
同時に、私たちは知的財産と商業的地位を守る必要があり、パートナーのそれはさらに重要です。機密データを双方向で共有する上で、AIを活用したサプライチェーンを確立するという課題が、解決されているとは思えません。
これは、ハイパースケール企業がこれまで以上に大規模なデータセンターを構築するために莫大な投資を行っているにもかかわらず、多くの企業は実際には自社の機密データを比較的厳格に管理し続けたいと考えていることを示唆しています。
まさにこうした理由によって、より小規模な「エッジ」データセンターの需要が高まっており、顧客の敷地内に設置される可能性もあります。これら小規模なデータセンターにも、電力、冷却、OTシステムが必要になります。競争の激しい市場ですが、MHIは既存製品と新規投資を組み合わせることで、魅力的なワンストップ・ソリューションを提供します。
ヒューマンスキルの維持
最後に、この業界に特有の懸念があるとすれば、現在のAIとデータセンターのブームによって、新しい製造技術の開発からリソースが奪われていることです。どの国を訪れても、アルゴリズムやソフトウェアを学ぶ学生が増えており、「ハードウェア」に焦点を当て、日本で言うところの「ものづくり」のスキルを身につけるコースや実習は少なくなっています。
AIは、製造業をはじめとする多くの産業を変革する可能性を秘めた強力なツールであり、生産性を向上させ、社会や人間の生活に大きなプラスの影響を与えることが期待されています。しかし、どんな道具でもそうであるように、思慮深く責任感のある人間が使いこなして初めて、その真価を発揮します。
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