自然と生物多様性

大胆なビジョンで、ネイチャーポジティブな港湾エコシステムへ

港で停泊するタンカーを岸壁につなぎとめる作業員の写真。港湾は生態系の保護において重要な役割を担っています。

港湾は生態系の保護において重要な役割を担っています。 Image: Getty Images/iStockphoto

Ruth Boumphrey
Chief Executive, Lloyd's Register Foundation
Alfredo Giron
Head of Ocean, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 自然と気候
  • 港湾がグローバルGDPの2.6%貿易量の80%を支える一方で、港湾エコシステムは気候変動の影響により多大な圧力にさらされています。
  • 報告書『Nature Positive: Role of the Port Sector(ネイチャーポジティブ:港湾セクターの役割)』は、港湾が自然保護戦略を統合した場合に、540億ドルの経済機会が生まれることを明らかにしました。
  • 多くの産業が集まるハブとして、港湾は共通のビジョンのもとに結束し、ネイチャーポジティブかつ人々に優しい存在となることで、ブルーエコノミー、グリーンエコノミーの成長に向けた新たな機会を創出する必要があります。

気候変動はインフラシステムに前例のない影響を与えており、港湾はその最前線にあります。

港湾は、グローバルGDPの2.6%貿易量の80%を支える一方で、その86%が沿岸洪水、暴風雨、熱波、海面上昇などのうち3つ以上の自然災害リスクにさらされています。大規模な対策が講じられなければ、海面が40センチ上昇するだけでも、ヒューストン(米国)、上海(中国)、ラサロ・カルデナス(メキシコ)など、世界で最も混み合う港湾の一部が水没する恐れがあるのです。

気候変動に関連する港湾機能の混乱は、すでにグローバル経済に年間70億~100億ドルの損失をもたらしています。適応策を講じなければ、この損失は2050年までに250億~300億ドルに達し、グローバルなサプライチェーン全体に波及効果が生じ、損失が3倍から5倍に増幅される可能性があります。

ネイチャーポジティブかつ人に優しい港湾とは

ネイチャーポジティブな港湾エコシステムとは、自然に対抗するのではなく自然環境と力を合わせ、港湾区域の設計、運営を通じ、環境への悪影響を軽減し、生態系を回復させ、レジリエンスを促進するものです。具体的には、クリーンエネルギーや持続可能な資材の使用、汚染の削減、外来種の抑制、サーキュラー・エコノミー原則を運営、計画に組み込むことが挙げられます。

これにより、港湾は沿岸生息地を再生し、グリーンファイナンスを誘致し、長期的な競争力を強化することができます。

また、人に優しい港湾エコシステムとは、労働者と地域社会を海事変革の中心に据えるものです。安全、技能、包摂性に焦点を当て、将来を見据えた魅力的な雇用を創出し、意思決定への公平な参加を確保します。

ウェルビーイングと地域の発展機会を創出することにより、港湾はソーシャルライセンス(社会的操業許可)を得ると同時に、その環境改善の成果が人々に真の利益を確実にもたらすようになります。このモメンタムを基盤として、港湾は設計と運営のあらゆる側面に自然と人に有益な原則を組み込み、さらなる進展を図ることができるでしょう。

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コラボレーションが鍵となる理由

港湾は、インフラ、エネルギー、食料、土地および海洋の利用と密接に関連しているため、官民連携の複雑な構造の上にあります。私たちは港湾関係者に、共通のビジョンを構築し、真のレジリエンスを築くための協働を呼びかけます。これは、港湾に依存するコミュニティを強化すると同時に、生態系と再生を支援する取り組みです。

気候変動やグローバルな貿易パターンの変化という新たな現実に港湾が適応し、新たな港湾システムが設計、建設される中、この変革の中心にあるのは自然と人でなければなりません。

これは自然と人を、経済活動が生態系を回復させ、労働者とコミュニティを向上させる経済的繁栄の触媒としてとらえることを意味します。これにより、港湾は積極的に自然を回復させ、排出量を削減し、循環型テクノロジーを推進することができます。

また、安全、技能、地域社会の包摂性に投資することにより、港湾のソーシャルライセンスが強化されます。自然と人々に有益な戦略に取り組むことで、港湾は2030年までに年間540億ドルのビジネス機会を創出することができると推定されています。

さらに、クリーンエネルギーの強化、持続可能な資材、先進的な運用システムなどの実践を通じて、港湾と海運の脱炭素化は2050年までに1,330万人の新たな雇用を支える可能性があります。

ネイチャーポジティブかつ人に優しい港湾プログラム

ネイチャー・アンド・ピープル・ポジティブ」プログラムは、世界経済フォーラムの「産業クラスターの転換」イニシアチブと「オーシャン・アクション・アジェンダ」イニシアチブの一環として、ロイドレジスター財団の協力を得て開発されました。

同プログラムは、港湾当局、業界リーダーたち、科学者、金融関係者、地域コミュニティを結集し、自然を再生し、人々に利益をもたらす港湾への移行を加速します。

今後1年間で、世界各国の港湾リーダー、イノベーター、政策立案者からなるグローバルコミュニティを形成し、「自然と人々に有益な港湾」の定義を確立するとともに、これらの原則を事業戦略に組み込むことを目指します。

一連の重点的な活動と協働を通じて、知識の交換を促進し、地域との関わりを深め、測定可能な生態学的、社会的便益をもたらす港湾の実践例を広く取り上げます。

すでに多くの港湾が、自然と人に良い影響を与える以下のような取り組みを効果的に実施しています。

オランダ、ロッテルダム港

ロッテルダム港は、包括的な「ネイチャー・ビジョン」を公表した世界的先駆者であり、海事インフラにおける生態学的リーダーシップを再定義しています。ナチュラリス生物多様性センターとの連携により、港湾内およびライン・マース川デルタ地域における持続可能な成長を支えながら自然を回復させる「ネットポジティブ」の実現を目指しています。

陸上25キロメートル、海上60キロメートルに及ぶこの枠組みは、干潟や砂丘の回復から、カキ礁パイロットプロジェクトに至るまで、多様な生態系回復イニシアチブを統合。2030年までに劣化した生態系の30%を保護、回復するというグローバルな目標に向けて、ロッテルダムは再生可能かつネイチャーポジティブな港湾のベンチマークを確立しています。

ベルギー、アントワープ港

アントワープ港は、欧州有数の産業拠点の一つを生き生きとした生態系ネットワークへと変革。生態系インフラプロジェクトを通じて、港湾は「緑の回廊」で連結された新たな緑地を創出し、産卵や生息地の再生を可能にして、90種以上の保護対象動植物の管理と保全を実施しています。

65万平方メートルに及ぶこの取り組みは、水質の改善、生物多様性の拡大、新たなレクリエーション空間の創出を実現。港湾と周辺コミュニティの関係強化に貢献しています。

ブラジル、アス港

操業区域の半分にあたる4,000ヘクタールをカバーするアス港は、カルアラ保護区を生態系回復と社会再生の触媒へと変貌させました。かつてはマングローブ、草原、湿地、潟湖からなる危機的状況にあった生態系でしたが、現在では22種の絶滅危惧種を含む880種の動植物を保護しています。

これに加え、同港は教育と機会創出を通じて地域コミュニティの自立を支援。60の地元学校と連携した45以上の研究プロジェクトを推進し、自然を基盤とした取り組みにより、女性の新たな生計手段を創出しています。

ネイチャーポジティブかつ人に優しい港湾へ

こうした変革を実現するには、アフリカ、東南アジア、ラテンアメリカ、中国など、高成長地域における機会をとらえることが鍵となります。2050年までに必要となるインフラの75%がまだ建設されていない現状において、新たな開発にグリーンデザインや自然に基づく解決策を統合することは、非常に大きな影響力を持つ可能性を秘めています。

これは環境上の要請であるだけでなく、経済的、社会的機会でもあります。

イノベーション、金融、政策の分野で協力することにより、自然を守り、人々に力を与え、より持続可能なグローバル経済を推進する港湾を構築することができるでしょう。

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