公共サービス新時代の鍵を握る、エージェント型AIの信頼構築

シンガポールはパブリックセクター向けエージェント型AIの導入に成功した、数多くの国の一つです。 Image: Unsplash
- 公共機関には企業並みのスピードが求められており、従来のモデルでは市民の需要と期待に応えることができません。
- AIエージェントの速度と規模に、人間の経験と共感力を組み合わせることで、高い能力を持ち、市民から信頼される国家を構築することができるでしょう。
- 2026年世界経済フォーラム年次総会では、リーダーたちが集結し、AIやその他の新興テクノロジーの倫理的な活用が現実の課題解決にどう結びつくかを探ります。
私たちは、ほぼすべてのサービスが迅速かつシームレス、直感的に利用可能な世界に生きています。銀行アプリで数秒で本人確認を行う、ライドシェアを即座に呼び出すなどが可能な現代において、人々は政府にも同等のスピードと効率性を求めています。基本的な行政サービスに数日、数週間も待たされることは、もはや合理的な対応とは感じられません。遅延する窓口、重複する書類、機能不全のワークフローは、政府が市民の期待するサービス水準に追いついていないことを示す信号です。このギャップは人々の不満を招くだけでなく、信頼を損ないます。
こうした信頼のギャップは、理論上の課題ではありません。最新版『エデルマン・トラスト・バロメーター』の調査結果は、国民の信頼に著しい拡大傾向のあるギャップが存在することを示しており、人々の期待が政府の対応能力を上回る速度で高まっていることを明確に示しています。
公共機関は、レガシーシステム、断片化されたデータ、固定化されたリソースを抱えながらも、民間企業並みのスピードで運営することが求められています。業務量の爆発的な増加に対して、ツールは追いついていません。この不均衡が構造的課題を生み出しています。つまり、政府は従来のモデルでは、市民の需要と期待に応えきれないのです。
英国の行政内部調査によると、年間10億件の市民取引のうち約1億4,300万件が「複雑な反復処理」であり、その約84%はAIによる「高度な自動化」が可能とされています。
この規模をテクノロジーで管理する実例は、すでに出現しています。シンガポールでは公共部門向けバーチャルアシスタントの導入に成功。同国政府の「Ask Jamie」は、80の政府ウェブサイトで1,500万件以上の問い合わせに対応し、それまでコールセンターを圧迫していた課題の半数を解決しました。
同様にスペインのバルセロナ市は、顧客関係管理(CRM)ソフトウェア「Salesforce」を活用した集中型プラットフォームを導入。公務員が市民とのやり取りを360度全方位で把握できるようにしました。これにより、サービス提供状況の追跡や部門横断的な情報共有が可能となり、市民一人ひとりに合わせた個別対応サービスが実現しています。分断されていたデータを連携させることで、同市は受動的な官僚主義を能動的なサービスへと転換し、より迅速かつ個別化された支援を通じて、地域社会の活性化を図っています。英国でもSalesforceのAIを活用した自律型AIエージェント「Bobbi」が導入され、3つの警察機関において、24時間体制でよくある質問への回答を提供。市民自身による事件の記録も支援しています。導入初週において、Bobbiは人間の担当者にエスカレーションすることなく、82%の問い合わせを解決しました。
エージェント型AIによるパブリックセクター支援
各国政府や公共機関がエージェント型AIを活用することにより、この信頼のギャップを埋めることができます。この先進技術は、自律型知能システム、すなわちAIエージェントを駆動します。AIエージェントは独立してタスクを完了し、多段階の課題を推論し、特定の目標達成に向けてリアルタイムで行動を適応させることが可能です。
エージェントには、単なる指示を与えるのではなく、「この許可証更新を処理せよ」といった目標を提示します。AIエージェントは自律的に手順を計画し、必要なデータベースにアクセスし、規制に照らして情報を検証し、取引を実行する能力を有しているからです。
例えばエストニアでは、省庁の枠を越えて連携可能なエージェント群「ビュロクラット」の試験運用を進めています。市民がパスポート更新を申請すると、エージェントが直接国境管理当局と連携し、業務を遂行します。政府は分断された部門の集合体ではなく、一体となった組織として機能するのです。
そして市民はこの変革を明らかに受け入れる準備ができています。セールスフォース社の最近の調査では、世界の回答者の90%が公共部門とのやり取りにAIエージェントの利用を希望していることが明らかになりました。ブラジル、スペイン、シンガポール、イタリアなどが特に積極的ですが、この関心は世界的なものです。また、米国とドイツでは、回答者の20%が、税務申告のような複雑な業務の支援にAIエージェントを「非常に利用する可能性が高い」としています。市民は政府との新たな関わり方を求めているのです。
「ガラス張り」のガバナンスとは
AIエージェントへの移行は、行政を「ブラックボックス」のガバナンスから「ガラス張り」のガバナンスへと導き、透明性向上への道筋を示す可能性があります。ただし、この透明性が得られるかどうかは、ある重要な原則に依存します。それは、人間が設計者であり続けることです。
従ったあらゆるルール、実行したあらゆる行動の完全な監査ログを生成することにより、エージェント型AIのサービス提供プロセスへの絶対的な可視性を得ることができます。結果を明確に検証、確認する手段を得た公務員は、システムの倫理的かつ信頼できる管理者としての役割を強化することができるでしょう。「ガラス張り」にすることにより、AIが事務処理を実行する一方で、人間が倫理観を保ち、安全装置と最終結果に対する完全な指揮権を保持することを保証します。
複雑なワークフローを自律的にナビゲートできるエージェントの導入により、市民の質問に答えるだけでなく、実際に課題を解決する段階へと移行することができるのです。
人間とエージェントの協働
次世代の政府というビジョンは、公務員を置き換えることではなく、ハイブリッドな労働力によって強化することにあります。
人間だけの官僚機構が単独で処理できる限界に、私たちは到達しているのです。セールスフォースでは、公共サービスの未来は「人間+AI」モデルにあると確信しています。エージェント型AIが書類の仕分け、コンプライアンス確認、エスカレーション処理といった機械的な「トリアージ」業務を担うことで、単に未処理案件を解消するだけでなく、人間同士のつながりを実現する道が開かれます。公務員は、真の共感と判断力を必要とする複雑、感情的かつ重大な案件に専念できるようになるでしょう。これらはアルゴリズムでは再現不可能な性質を持つものです。
今こそ、企業ですでに成果を上げている手法を政府に拡大する機会です。信頼性、責任、効率性という目標は、新たな仕組みを構築することなく達成可能です。AIエージェントの速度と規模に、人間の持つ経験と共感能力を組み合わせることにより、市民から信頼され、高い能力と善意を兼ね備えた社会を構築することができるでしょう。
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