産業クラスターが推進する、ASEANの低炭素な未来

組織化された産業クラスターが、協働のエコシステムを構築します。 Image: Getty Images/iStockphoto/primeimages
- 急速な成長により、東南アジアのエネルギー需要は2050年までに倍増すると予測されており、多様で手頃な価格かつレジリエンスが高く、クリーンなエネルギーでこれに対応する必要があります。
- 発表された白書では、この需要増加と地域のエネルギー転換の最中における、東南アジアの急速な産業成長について検証しています。
- 2026年世界経済フォーラム年次総会では、競争力を強化すると同時に持続可能な経済成長を支援する方法について議論が行われます。
東南アジアは決定的な10年を迎えようとしています。6億7,000万人以上の人口と3.8兆ドル規模の経済を有する東南アジア諸国連合(ASEAN)の急速な成長は、2050年までに2倍以上になると予測されるエネルギー需要を牽引しています。ASEANがこの需要急増にどう対応するかが、今後数十年にわたる地域の経済、産業のレジリエンス、雇用創出、環境の未来を形作るでしょう。
断固たる対策が講じられなければ、エネルギー需要の増加は、ASEANが産業競争力と経済成長を持続させるために、より多様化され、手頃で、レジリエンスの高いエネルギー経路を必要としているまさにこのタイミングで、化石燃料への依存を深めるリスクがあります。この課題に対処するには、大規模かつ迅速に効果を発揮することのできる解決策が求められています。
エネルギー転換を推進する産業クラスター
東南アジアは、主要なグローバル生産拠点へと成長する中で、世界でも最も強力なエネルギー需要の牽引役の一つとなりつつあります。ASEAN諸国には、マレーシア、シンガポール、ベトナムの電気・電子機器製造から、タイの自動車、化学、先端製造業、インドネシアの資源ベース産業や新興の電気自動車用バッテリー・バリューチェーンに至るまで、多様なエネルギー集約型産業クラスターが存在します。
同一産業地域内の企業は、信頼性の高いエネルギー、近代的なインフラ、新たなテクノロジー、資金調達へのアクセスなど、しばしば類似のニーズを共有しています。組織化された産業クラスターは、これらのニーズを満たすための協働のエコシステムを構築します。同一地域に立地する企業は、単独では困難な資源の共有、計画の調整、エネルギー転換の機会追求が可能となります。
世界経済フォーラムとマレーシア第四次産業革命センターの白書『Industrial Transformation in ASEAN: A Cluster-Driven Model for Regional and Global Collaboration(ASEANにおける産業変革:地域およびグローバルな連携のためのクラスター主導モデル)』は、こうした拠点が各国のエネルギー転換目標を、低炭素産業変革の具体的な実現へと導く過程を示しています。同報告書は、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイの産業クラスターが、パートナーシップ、政策、技術、金融を活用して成長と競争力を強化する手法を検証しています。
1. パートナーシップと共通ビジョンの構築
単一の企業だけでバリューチェーン全体の脱炭素化や低炭素インフラ構築を実現することはできません。ただし、企業が業界や国境を越えて連携することにより、リスクを共有し、需要を集約し、新技術の採用を加速することができます。
インドネシアでは、インド太平洋ネットゼロ・バッテリー材料コンソーシアム(INBC)が、鉱業、加工、電池製造の各企業を結集し、スラウェシ島に統合型低炭素電池ハブを構築しています。2030年までに生産を大幅に拡大する計画のもと、INBCの共通ビジョン、共有インフラ、調整された計画は、グローバルなクリーンテック・サプライチェーンにおけるASEANの地位を強化するものとなるでしょう。
2. 明確かつ長期的な政策指針
各国政府が一貫した規制、明確なロードマップ、予測可能なインセンティブを設定することで、不確実性が軽減され、民間資金の低炭素プロジェクトへの投資が促進されます。効果的な政策枠組みは、官民の優先事項の整合性確保、インフラ決定の指針、産業クラスター全体でクリーンエネルギー・ソリューションを拡大するために投資家が必要とする信頼の醸成に寄与します。
例えばマレーシアのサラワク州では、ビントゥル工業クラスターが同州の「Post COVID-19 Development Strategy 2030(ポストCOVID-19開発戦略2030)」と「サラワク州エネルギー転換政策」の恩恵を受けています。ビントゥルではさらに、水素生産、カーボンキャプチャー(二酸化炭素回収)、再生可能エネルギーといったプロジェクトを推進しており、これらを「サラワク・カーボン・ロードマップ」に基づく州レベルの炭素課税(導入予定)などの施策が支援。一貫した政策シグナルが投資誘致に貢献し、ビントゥルはマレーシアにおける新興の低炭素産業ハブの一つとしての地位を確立しつつあります。
3. 革新的な低炭素テクノロジーの拡大
再生可能エネルギーシステムやデジタル最適化ツールから、クリーン燃料や高度な自動化に至るまで、新たなテクノロジーによって排出量を劇的に削減すると同時に、競争力を高めることができます。
これらが産業クラスターレベルで導入されることで、各企業はインフラを共有し、規模を活かした運営が可能になります。個々の企業では単独では達成不可能な効率化を実現する、技術革新を促進することができるのです。産業クラスターにより、デジタルシステムの統合、クリーンエネルギー・ソリューション、先進的な産業プロセスなど、テクノロジーコンバージェンス(技術融合)がもたらす利点も実現可能です。
例えば、シンガポールのトゥアス港は、水素やアンモニアなどのクリーン燃料の将来的な利用を支えるべく、未来を見据えた低炭素ハブとなるべくテクノロジーを活用。完全電動化かつ高度に自動化された同港では、デジタルシステムとスマートエネルギー管理により、排出量を削減し、効率性を向上させています。
4. 産業変革のための資金調達
重工業の脱炭素化には多額の資本が必要です。なぜならば、多くの新興テクノロジーの初期費用は、依然として高額だからです。ブレンデッド・ファイナンス、官民連携、リスク軽減メカニズムは、低炭素ソリューションの拡大に必要な民間投資を呼び込む上で役立つでしょう。こうした金融イノベーションが産業クラスターに向けられることで、野心的な移行戦略を、銀行融資の可能な、投資対象となるプロジェクトへと転換することが可能です。
例えば、タイでは、官民連携プロジェクト「サラブリ・サンドボックス」を、国内セメント生産量の約80%を占める地域で実施。国際パートナー主導のブレンデッド・ファイナンスを活用し、低炭素セメント、代替燃料、バイオマス、太陽光発電プロジェクトに加え、地域コミュニティの取り組みを支援しています。明確な国家気候目標に裏打ちされ、的を絞ったこの金融支援は、同地域のセメント産業における脱炭素化計画の推進に貢献しています。
ASEANの産業クラスター支援
東南アジアのエネルギー転換を加速させるには、政策、産業、金融の緊密な連携と産業変革が不可欠です。各国政府は、基準の調和、明確な長期的規制の提供、化石燃料補助金の段階的な見直しを通じて、そのペースを設定することが可能です。また、より強力な炭素価格設定と開示枠組みも、投資家の信頼構築に寄与するでしょう。
同時に、産業クラスターは、透明性のあるガバナンスと長期的なオフテイク契約に支えられ、クリーン技術の試験導入、インフラの共有、投資の調整を行う理想的な環境を提供します。大規模な資金動員も不可欠です。ブレンデッド・ファイナンス、リスク軽減メカニズム、グリーン融資により、有望なアイデアを資金調達可能なプロジェクトに変え、重工業の脱炭素化を支援することができるでしょう。
ASEANのエネルギー需要は2050年までに倍増する可能性がありますが、二酸化炭素排出量を倍増させる必要はありません。政策の整合、協調的な産業クラスター・エコシステム、革新的な資金調達により、この地域は野心を行動に移し、持続可能な工業化のグローバルモデルとして台頭することがきるでしょう。
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Morten Wierod
2026年1月15日







