一杯の水の価値~資金が高める世界の水レジリエンス~

水の真の価値は多面的であり、計り知れないものがあります。 Image: REUTERS/Punit Paranjpe
Tania Strauss
Head of Sustainable Growth and People Agenda, Member of the Executive Committee, World Economic Forum- 水の真の価値は多面的であり、計り知れないものがありますが、投資判断においてその価値は見過ごされがちです。
- 慢性的な投資不足、資金調達の断片化、企業の参加制限が、水システムが持つ経済的、社会的、環境的な潜在的可能性の実現を妨げています。
- ステークホルダーが水の価値を測定し、トレードオフを導き、影響力の大きい投資を優先することができるよう、水の真の価値を評価するツールや枠組みが登場しています。
たった一杯の水に、しばしば見過ごされる計り知れない価値が込められています。水は健康、疾病予防の象徴であり、生命維持の象徴でもあります。また、水分を十分に補給した健康な人々は、最高の状態で働けるため、生産性も象徴しています。さらに経済成長も表します。農業からエネルギーに至るあらゆる産業は、安定した水供給に依存するためです。
気候変動の激化と淡水不足の深刻化に伴い、水の価値の再評価と資金調達の見直しは、もはや選択の余地のない課題であり、あらゆる分野におけるリーダーシップの責務だと言えます。
セネガル共和国とアラブ首長国連邦が共催する2026年国連水会議は、協調行動による成果の加速に向けた、重要な国際的節目です。
国連持続可能な開発目標(SDGs)達成まで残り5年となった今、水システムの変革と、SDG目標6「安全な水とトイレを世界中に」の達成において、イノベーションと資金調達が果たす極めて重要な役割を強調する機会となるでしょう。
水の真の価値を認識することが、投資障壁を克服する第一歩です。
”水に秘められた富
水の価値は市場価格をはるかに超え、飲用、灌漑(かんがい)、工業利用などの直接的利用と、浄化、洪水調節、炭素貯留などの間接的便益、そして文化的遺産や将来の安全保障に結びつく非利用価値までを含みます。
2021年における淡水の総利用価値(直接的、間接的利用を含む)は、58兆ドルと推定。これは世界の国内総生産(GDP)の60%に相当します。また、浄化、洪水緩和、炭素固定といった間接的価値は直接的利用の7倍に上るにもかかわらず、経済モデルではほとんど考慮されていません。
水道システムへの慢性的な投資不足は、処理済み水の約40%が漏水により失われている都市部において、より顕著です。ただし、すべての分野において、効率性の向上が大きな経済的、社会的価値を創出する可能性があります。
例えば、グローバルな淡水使用量の約70%を占める農業分野では、灌漑や管理手法の改善により、生計向上を図ると同時に、食料と水資源の安全保障を確保することができます。
水資源の評価と資金調達の一体化
水の真の価値を捉えることが、持続的な大規模投資の根拠を大幅に強化することにつながります。水資源への資金調達は、単なるインフラ整備ではなく、レジリエンス、公平性、そして長期的な繁栄への投資なのです。
一方、現在の資金調達モデルは断片化しており、不十分です。経済協力開発機構(OECD)と国連のデータによると、2022年に給水と衛生分野に向けられた投資額は、世界の公式開発援助(ODA)総額のわずか3.1%、約85億ドルでした。
企業の出資も依然として控えられる傾向にあり、水セクターへの総投資額の2%に満たないと推定されています。
水の真の価値を認識することが、投資障壁を克服する第一歩です。その経済的、社会的、環境的重要性の十分な理解を促進し、その多面的な価値を反映するように資金調達システムを進化させなければなりません。
この原則を投資戦略に組み込むことにより、ブレンデッド・ファイナンスなど柔軟な資本の動員、気候基金との統合、インセンティブの調整、制度的能力の構築、そして公平性の確保につながるでしょう。
水の真の価値を見極める3つの視点
水の価値を認識することが第一歩であるならば、次の段階はそれを測定し、具体的に適用することです。
意思決定において水の価値を可視化するため、これまでに多様なアプローチが生まれました。隠れた便益を定量化する枠組み、トレードオフを導くツール、共同管理を促進するモデルなどです。それぞれ独自の視点を提供する以下のようなアプローチを組み合わせることにより、原則を行動に移すことが可能となります。
グローバル・コモン・グッド・フレームワーク
水の経済学に関するグローバル委員会(Global Commission on the Economics of Water)が提唱する「グローバル・コモン・グッド・フレームワーク」は実践的な立場を取ります。水は単なる地域の公益事業ではなく、地球規模の共有財(コモンズ)の一部であるという考え方です。
水循環を共有財産と捉えることで、上流での行動が下流のコミュニティ、さらには地球規模の気候システムに影響を与えることが分かります。
また、これにより水という課題に関して、断片的な地域管理から、水の安全保障とレジリエンスに対する集団的責任へと焦点を移すことができるのです。
水への価値評価は水レジリエンスの基盤であり、水への投資はその価値を引き出す鍵です。
”総経済価値(TEV)フレームワーク
「総経済価値(TEV)フレームワーク」は、直接利用、非利用や洪水防止、炭素貯蔵、文化的意義といった広範な社会的価値を含む、水の恩恵の全範囲を捉えるものです。
トルコのベイシェヒル湖は、TEV評価でその価値を2億7,100万トルコリラ(現地小流域GDPの13%)と推定されました。この調査では、飲料水や衛生設備などの自治体用途に割り当てられた水が、灌漑用途に比べて1立方メートルあたり9倍以上の価値を生み出していることが判明。非効率な配分がもたらすコストが浮き彫りとなりました。
水価値フレームワーク
コンサルティング企業のBCGと、米国スタートアップのオーシャンウェルが開発した「水価値フレームワーク(Water Value Framework)」は、抽象的な数値ではなく、情報に基づいた取捨選択を支援します。このフレームワークは、水の社会的役割全体を捉える「総価値」と、使用量が一単位増えるごとに加わる便益を示す「限界価値」を考慮。
例えばイスラエルでは、海水淡水化の限界価値は1立方メートルあたり約4ドルと推定されており、これは水不足を回避することで防ぐことのできる経済的損失を反映しています。このアプローチにより、一滴一滴が最大の影響をもたらす領域を明確化することで、配分判断が明確になります。
水影響評価ツールの役割
2025年にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会において、エコノミスト誌は「水影響評価ツール」を発表。グルンドフォス財団の支援を受けて開発されたこのツールは、安全な水へのアクセス投資がもたらす社会的便益を定量化し、抽象的な価値を実践可能な指標に変換するものです。
経済効果、健康増進、生産性向上のモデル化を通じて、政府、投資家、その他の関係者が水投資の収益性を明確なデータ駆動型指標で理解することを支援します。同ツールは、以下の機能により、評価と資金調達を結びつけます。
- インフラと政策における、エビデンスに基づく意思決定
- 戦略的水プログラムへの影響測定
- 特にサービスが行き届いていない地域における、影響力の高い介入策の優先順位付け
水の社会的便益を定量化することで、本ツールは持続可能な水管理に沿ったガバナンスと投資判断の指針となります。
水の価値評価を実践化するその他の取り組みとしては、以下があります。
- オランダに拠点を置く「バリューイング・ウォーター・イニシアチブ(VWI)」は、意思決定を導くための価値マップとシステム変革ツールを提供しています。
- 米国のNGO、セレスによる「バリューイング・ウォーター・ファイナンス・イニシアチブ」は、企業の水リスクをベンチマーク化し、スチュワードシップへの期待を設定し、企業が水を財務リスクとして扱うよう働きかけます。
- 世界自然保護基金(WWF)の「WWF水リスク・フィルター」は、事業活動やバリューチェーン全体における水関連リスクの評価と優先順位付けを支援します。
これらのツールは技術的解決策を超え、水の価値管理における協働、透明性、アカウンタビリティの確保に役立つでしょう。
グローバルリーダーたちへの呼びかけ
2026年の国連水会議が近づく中、イノベーションと金融が中心的な役割を担う必要があります。各国政府、金融機関、企業は、共通の理解と実践的かつ野心的なロードマップを必要としています。
水の真の価値を認識することにより、連携が可能になります。水への価値評価は水レジリエンスの基盤であり、水への投資はその価値を引き出す鍵なのです。
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