ソーシャルイノベーション

場所起点のモビリティが描く、より良い都市のかたち

対岸に高層ビルの建つ川辺を走る、2台の自転車とそれに乗る人。地域に根差したモビリティが、高速道路や運河を市民資産へと変革しています。

地域に根差したモビリティが、高速道路や運河を市民資産へと変革しています。 Image: Parks Canada

Thomas Alexander Selby
Lead, Davos Baukultur Alliance, Urban Transformation, World Economic Forum
Stanislas Hillen
Specialist, Davos Baukultur Alliance, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 アーバントランスフォーメーション
  • 都市がモビリティを設計する方法は、人々のつながり方やコミュニティの進化を定義します。一方、数十年にわたる自動車中心の計画は、居住性を犠牲にして速度を優先し、多くの地域を分断、汚染してきました。
  • モビリティへの投資は、2035年までに1.1兆ドルに達すると見込まれます。今、効率性を超え、社会的・文化的・経済的・環境的リターンを捉える広範な価値を包含する機会が生まれているのです。
  • コロンビアのメデジン、カナダのモントリオールの事例は、地域社会への信頼、広範な利益、創造的な資金調達に基づく場所性を生かしたモビリティが、公共的な目標を持続的な変革へと導くことを示しています。

モビリティは都市生活の基盤です。都市の交通システム設計は、人々の移動方法だけでなく、近隣地域間の交流のあり方や、それらの地域の間で起こる事象にも大きな影響を与えます。

一方で、何十年もの間、交通設計は場所に基づいた多面的な利益よりも、速度と輸送量を優先してきました。より広い道路とより速い流れを追求する中で、多くの都市は分断され、汚染されたまま放置されています。

2035年までに世界のモビリティ投資が3倍の1.1兆ドルに達すると予測される中、都市は現行の慣行を強化するか、あるいは人々に奉仕し活気あるコミュニティを育む交通システムを構築するかという、大きな選択に直面しています。

場所性を生かしたモビリティは、説得力のある解決策を提供します。交通をコミュニティの生活から切り離して扱うのではなく、このアプローチでは交通計画を地域の社会的、経済的、物理的構造に組み込みます。

その第一歩は、新たな一連の問いを投げかけることから始まります。このモビリティは誰のためのものでしょうか。定義される場の特性はどのようなものでしょうか。また、どのような未来の成果を生み出すのでしょうか。

問いに答えることで、サービスを行う場所に合ったシステムの設計を始めることができます。例えば、公共空間を兼ねた大通り、コミュニティの拠点となる乗り換え駅、近隣地域を結び緑地を提供する歩行者専用通路などです。

コロンビアのメデジンとカナダのモントリオールという二つの先駆的な都市が、この手法の実例を示しています。

メデジンにおける高速道路の再利用

ここ数年、メデジン市は自動車中心のモビリティインフラを見直すための重要な取り組みを進めてきました。数十年にわたり、7車線のアウトピスタ・スール(南高速道路)がメデジンを貫通しており、メデジン川に沿って都市の東部と西部を分断するコンクリートの障壁となっていたからです。

課題の解決に向けて、同市は野心的な都市再生プロジェクト「パルケ・デル・リオ」を開始。2016年から2019年にかけ、アウトピスタ・スールの約400メートルの区間が地下化され、約2,000本の在来樹木が並ぶ細長い公園に生まれ変わりました。

単なる幹線道路以上の役割を担うよう設計されたこの公園には、遊び場、スポーツゾーン、文化施設、スケートパーク、噴水などが統合され、人々が通り過ぎるだけでなく、ゆっくりと過ごせるようになっています。

同市はこの構想をさらに拡大し、川沿いのより多くの区域を連続した公共空間へと変容させています。次の段階として、川の北側で開発が進められているのが「パルケ・プリマベラ・ノルテ」です。現在建設中で、2027年の完成を予定しています。

住民と川を再び結びつけるプロジェクト、メデジンのパルケ・デル・リオの緑豊かな公共空間。
住民と川を再び結びつけるプロジェクト、メデジンのパルケ・デル・リオの緑豊かな公共空間。 Image: Ruta N Medellín

同市のフェデリコ・グティエレス市長は、次のように述べています。「プリマベラ・ノルテは単なる建設プロジェクトではありません。私たちの街を、特に、最も脆弱なコミュニティの多くが位置する北部地域と街を再接続する方法なのです」。

同市長にとって、このプロジェクトはより広範な理念を体現するものです。「これこそが私たちが信じるメデジンです。近隣地域と共に成長し、川との絆を取り戻し、公園を通じて自らを再発見する都市なのです」。

モントリオールのウォーターフロント再生

モビリティで場所性を生かすということは、都市が交通インフラとして見過ごしてきた既存の自然要素を活性化することでもあります。

カナダのモントリオールにあるラシーン運河は国指定史跡ですが、20世紀後半には使われなくなり、周辺の工業地帯は新たなアイデンティティを模索する状況にありました。

2002年にレクリエーション航行用に再開されて以来、14キロに及ぶ歴史遺産として再構築。開通200周年を迎えた現在、同運河には多くの自転車利用者、歩行者、ボートが訪れ、カナダ公園局の管理下でカヤック施設や文化プログラムが整備されています。

モントリオールの再生されたラシーン運河で、人々が運動を楽しんでいます。ここは今や、アクティブな移動手段と地域生活の中心地となっています。
モントリオールの再生されたラシーン運河で、人々が運動を楽しんでいます。ここは今や、アクティブな移動手段と地域生活の中心地となっています。 Image: Parks Canada

ケベック・ウォーターウェイズの管理者、リサ・カーティス氏は次のように説明します。「この運河は歴史、自然、コミュニティが交わる場所です。その未来は、貴重な遺産を尊重すると同時に進化させる、私たちの能力にかかっています」。

移動とコミュニティの場として再生した運河は、次章となる「ラシーン運河4.0」への礎を築きました。モントリオール市のこの計画は2023年に始動し、5つの隣接区を「メトロポリタン・イノベーション・ゾーン」へと変革することを目指しています。指針となるのは、土地利用、質の高いデザイン、共創を結びつける開発枠組みです。

変革の条件

両都市の成功は、三つの重要な要素が連携した結果です。

第一に、真のコミュニティ参画です。従来の交通プロジェクトでは最小限の協議しか行われないことが多くありました。一方、メデジンは社会的公平性の是正を主とする社会都市主義の伝統を基盤とし、デザインコンペやワークショップを通じてコミュニティが計画プロセスに参画。モントリオールでは、ビジョン策定作業や相談窓口を設置し、現在は「ラシーン運河4.0」プロジェクトに向けたワークショップなどの共同設計手法を取り入れています。

第二に、価値の定義を再構築したことです。交通プロジェクトは従来、車両数の増加と移動時間の短縮に重点を置いてきました。一方で、メデジンは、環境的、社会的、経済的リターンを包括的に評価する国際的枠組みを採用。これにより、「パルケ・デル・リオ」プロジェクトは30年間で投資額1ドル当たり1.67ドルの収益を生み出すことが明らかになりました。洪水防止から不動産価値向上、社会的結束強化に至る多様な便益を考慮すると、約4億7,500万ドルに相当します。

財務指標以外にも、メデジンは地域変革を通じて成功を測定しています。プリマベラ・ノルテ拡張計画について同市長は次のように強調しました。「7万平方メートルの都市環境変革を実現し、90万人以上に恩恵をもたらし、地域雇用を創出し、住民一人当たりの公共空間を大幅に増加させます」。

モントリオールの「ラシーン運河4.0」計画も同様に、レジリエンス、公平性、健康などの6つの柱から成る枠組みで進捗を追跡しています。

こうした価値基準は、公的資金と民間資金が投資家の目的に沿ったリターンを生み出すという信頼を裏付けるものであり、同時に地域住民に対しても、具体的な地域利益が実感できる効果をもたらします。

これこそが私たちが信じるメデジンです。近隣地域と共に成長し、川との絆を取り戻し、公園を通じて自らを再発見する都市なのです。

フェデリコ・グティエレス、コロンビア、メデジン市長

第三に、投資家のリスクを軽減する資金調達構造が組み込まれていることです。メデジンは市の予算を活用し、建設業者と契約する一方で公共の管理権を維持。これにより、地域社会の利益と要望が最優先されるようにしています。

モントリオールの運河再開プロジェクトでは、各レベルの政府から1億カナダドルが拠出され、2億5,000万カナダドル以上の民間投資を誘発。これは、適切な公共支出がはるかに大きな民間投資の相互効果を引き出したことを示しています。「ラシーン運河4.0」計画は、この基盤を協働ガバナンスによって発展させ、多様な投資家を動員し、継続的な共同資金調達を実現します。

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今後の道筋

これらの事例は、場所性を生かしたモビリティが、人々の移動を高速化するのではなく、テンポを形成し、人々の注意、時間、関心を捉える場所を生み出すことで、より良い場所を創出することを示しています。

メデジンとモントリオールでは、変革への当事者意識を育むための地域参加が鍵となり、価値の再定義と創造的な投資がこれを補完しました。

この勢いを他の都市に広げるため、世界経済フォーラムのダボス・バウクルトゥール・アライアンスは「パイオニアリング・プレイス・プログラム」を開始。コロンビアのメデジン、カナダのモントリオール、ケニアのナイロビ、マレーシアのクアラルンプール、オランダのユトレヒト、米国のサンフランシスコの6都市から着手します。

同プログラムは、都市開発の核心に「質」を据えるべく、協働、知識の交換、共同行動を通じて各都市と連携するものです。これにより、建設、設計が現在のニーズに応えると同時に、持続的な地域価値を確実に生み出せるようにします。この取り組みは、同アライアンスのグローバルネットワークに属するパブリックセクター、企業、市民のリーダーたちによって支えられ、構造的な変革を実現し、都市の目標を現実のものとすることを目指します。

今必要なことは、規模の拡大です。地域に根差した「質」を組み込んだ調達、初期段階のリスクを軽減する公的資金、短期的な収益と長期的な価値を両立させる民間資金が求められているのです。

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