気候変動対策

従業員の健康管理を、企業戦略の中核に据えるべき理由

気候変動による健康リスクと従業員の健康に関する課題は、2050年までにグローバル経済に1.5兆ドルの生産性損失をもたらす可能性があります。

気候変動による健康リスクと従業員の健康に関する課題は、2050年までにグローバル経済に1.5兆ドルの生産性損失をもたらす可能性があります。 Image: REUTERS/Phil McCarten

Eric White
Head, Climate Resilience, World Economic Forum
Elia Tziambazis
Managing Director & Partner, Global Lead for ESG in Healthcare, Boston Consulting Group (BCG)
本稿は、以下会合の一部です。持続可能な開発インパクト会合2025
  • 気候変動による健康リスクは、現在から2050年までの間に、食料・農業、建造環境、医療・保健分野において、少なくとも1.5兆ドル相当の労働力不足を引き起こすと予測されています。
  • 従業員向けの健康保障制度など、健康レジリエンス対策に投資する企業は、従業員と事業を効果的に守ることができます
  • 暑さに強い医薬品や革新的な保険モデルといった気候変動対応型ソリューションを拡大することは、市場の需要増加に対応すると同時に、新たな成長機会の創出に役立ちます。

現在、極端な高温はグローバルな労働者の70%に影響を与えており、年間約19,000人の死亡、2,300万件の労働災害の原因となっています。

地球規模で気温が上昇するにつれ、熱中症や呼吸器疾患などの健康リスクが、人々の健康と経済にとって重大な脅威となりつつあります。インフラ整備が不十分かつ医療アクセスが限られている地域は、特に脆弱な立場に置かれています。

世界経済フォーラムがボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の協力を得て作成した新たな報告書は、気候変動による従業員の健康への影響を、食料・農業、建造環境、医療・健康、保険の4セクターにおいて評価。気候変動による健康リスクから従業員と地域社会を守ることが企業にとって必須の課題である理由を明らかにしています。

最も深刻な影響を受けるセクター

農業、建造環境、医療など労働集約型の現場は、最大のリスクに直面しています。気候変動が健康に及ぼす影響により、食料安全保障、医療システム、経済安定性に連鎖的な影響が生じるためです。

食料・農業では、気候変動が従業員の健康に影響を及ぼし、2050年までに7,400億ドルの生産損失と60万人以上の死亡が発生する可能性があります。これにより、このセクターに大きな負荷がかかるとともに、グローバルな食料サプライチェーンが脅かされる恐れがあります。

サハラ以南のアフリカやアジアなど、小規模農家が農地の80%を管理する地域では、特に収穫期に影響を受けやすくなっています。例えばナイジェリアでは、マラリアに感染した農家は作物の60%を収穫できず、収量が減少し、地域の食料安全保障が脅かされています。

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建造環境では、気候変動が健康に及ぼす影響により、2050年までに5,700億ドル相当の生産性損失と最大12万人の労働者死亡が発生すると予測。このセクターは、2030年までに暑さによるグローバルな労働時間損失の19%を占めると見られており、極端な高温の影響を最も受けやすいセクターの一つとなるでしょう。都市部のヒートアイランド現象やインフラ不足が、課題をさらに深刻化させています。

一方、医療では、気候変動に起因する疾病の増加により、負担が増大。2050年までに医療従事者の生産性損失が2,000億ドルに達すると予測されています。

また、患者の増加により、今世紀半ばまでに1.1兆ドルの追加治療コストが見込まれ、働く人の負担も増大し、特に既存の医療資源が不足している地域で、医療提供体制が圧迫される危険性があります。

気候変動による健康リスクは、保険業界にも影響を及ぼすと予想されます。医療保険、生命保険、損害保険の請求件数が急増することにより、資本が圧迫され、保険料が上昇し、既存の保険カバー範囲のギャップがさらに拡大する可能性があります。

リスクは甚大ですが、早期に対策を取れば、遅れた場合よりも低コストで健康レジリエンスを構築することができ、従業員の健康を守り、事業の長期的な安定を図ることができます。

健康レジリエンスの強化が大きな成長機会をもたらす

気候変動が従業員の健康に及ぼす影響に対処するには、四つの主要セクター全体で大胆かつ的を絞った行動が求められますが、適応策の利点は損失軽減をはるかに超えた範囲に及びます。革新的な気候変動対応型健康ソリューションを推進する企業は、新たな市場ニーズに応えると同時に、成長機会を創出することができるでしょう。

また、気候変動に対応した作物の栽培、再生型農業や精密農業の実践、脆弱な立場にある労働者の保護に投資することで、収量と収益の増加を図り、グローバルな食料サプライチェーンを保護することができます。

建造環境では、熱対策装備の導入や勤務スケジュールの見直しなどにより、労働者の健康と生産性を保護する必要があります。一方、気候変動に強い都市設計やグリーンインフラソリューションへの投資は、不動産の気候適応力を高め、成長著しい市場のニーズに応えることが可能です。

医療・保健では、気候変動に対応した医薬品の開発、予防医療の拡充、施設の改修などにより、医療システムを強化し、気候変動下における疾病負荷を軽減することができます。

また、カスタマイズされた保険商品、高度なリスクモデリング、予防行動へのインセンティブ付与などは、既存の保険カバー範囲のギャップを埋め、脆弱な地域社会を保護するとともに、保険会社にとっての成長機会を創出するのに役立つでしょう。

四つの重要セクター(食料・農業、建造環境、医療・保健、保険)における気候関連リスクと機会。
四つの重要セクター(食料・農業、建造環境、医療・保健、保険)における気候関連リスクと機会。 Image: World Economic Forum

費用対効果の高い、セクター共通の対策

報告書で重点的に取り上げた4セクター以外に、サプライチェーンや運輸、小売・消費財、エネルギーなどにおいても、多様なリスクと機会が存在します。あらゆる業界の企業は、以下の3種類の対策を通じて、気候変動と従業員の健康に関するリスクを軽減し、成長の可能性を引き出すことができます。

  • 従業員保護のための取り組み - 職業衛生対策、熱中症対応の医療保険、労働時間の調整による熱ストレスや疾病リスクの低減など
  • システムの気候耐性強化 - 重要インフラの保護や、健康被害の予測、軽減を目的としたリスク監視システムと早期警戒システムの導入など
  • 製品、サービスと地域社会との連携 - 健康保護機能を備えた製品の普及、従業員や地域住民への教育、緊急時対応計画の策定など

これらの対策は幅広く適用できますが、リスクと機会の現れ方はセクターごとに異なります。各セクターの特有の課題や経済的役割に合わせて対策をカスタマイズすることが、効果的なレジリエンス戦略を構築する上で不可欠です。

各セクターにおける、気候変動が健康に及ぼす影響の現れ方。
各セクターにおける、気候変動が健康に及ぼす影響の現れ方。 Image: World Economic Forum

持続可能な成長を実現する、決定的瞬間とは

今すぐに、ビジネス戦略に健康レジリエンスを組み込む経済的意義は明らかです。適応策の実施が遅れれば、生産性の低下、サプライチェーンの混乱、財務的負担が増大する可能性があるからです。

したがって、健康レジリエンスへの早期かつ積極的な投資は、長期的な安定、イノベーション、成長につながるでしょう。

すべての経営者と投資家は、従業員、そして従業員を含む地域社会や経済を守るという、独自の機会を有しています。従業員と消費者の健康を守ることは、温暖化が進む世界で繁栄するための戦略的要請であり、不可欠な事業基盤なのです。

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