金融と通貨システム

インクルーシブな経済成長の実現~トークン化が公共事業投資を変革する方法~

2010年11月15日、フィリピン、マニラ近郊のパラニャーケ市の南高速道路沿いで、フィリピン人労働者が「スカイウェイ」の建設に従事する様子。トークン化は、インフラ投資の参入障壁を低減します。

トークン化は、インフラ投資の参入障壁を低減します。 Image: REUTERS/Erik de Castro

Harry Yeung
ECP Spring 2025 - Financial & Monetary Services, Tech & Innovation, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 金融、通貨システム
  • トークン化によって債券に必要な最低投資額が小さくなり、インフラ投資の参入障壁が低減されます。
  • インフラの改善や、透明性の向上による腐敗の削減といった利益がもたらされるため、その恩恵は財務的リターンを超え、コミュニティレベルにまで及びます。
  • ただし、トークン化の実現可能性とアクセスに関する課題は残ります。すべての公共事業が収益を生むわけではなく、リターンは不確実であり、アクセスにはデジタルに関する十分な知識とインフラが必要だからです。

あらゆる世代において、インクルーシブな成長を促す次なる金融イノベーションが模索されています。かつて革命的ツールと称賛されたマイクロファイナンスは、2006年にムハマド・ユヌス氏がグラミン銀行での活動でノーベル平和賞を受賞したことで、世界的に大きな注目を集めました。

しかし、その後の研究によりその限界が明らかになりました。借り手は高金利や、時には搾取的な貸付慣行に苦しむことがあるからです。

今日、金融システムが進化する中で、有望な代替手段として「トークン化」が台頭しています。トークン化とは、不動産やインフラといった実世界の資産をブロックチェーン上でデジタル表現化すること、あるいはデジタル形式のみで存在するネイティブ資産を発行することを指します。

公共事業プロジェクトのトークン化は、投資家と地域社会の双方にとって「双方に利益のある」解決策を提供するとされています。

このプロセスにより分割所有が可能となり、投資家は資産全体ではなく一部を購入できるため、グローバルな個人投資家の参入障壁が低下します。世界経済フォーラムが最近発表した資産のトークン化に関する報告書は、このテクノロジーが金融市場と経済的インクルージョンにもたらす変革の可能性を指摘しました。

特に有望な分野の一つが、公共事業です。本寄稿文では、道路や橋から公園や公共施設に至るまで、トークン化された公共事業プロジェクトが、特に新興国においてインフラ開発を加速し、インクルーシブな成長を促進する可能性について考察します。

公共事業プロジェクトへの投資方法

道路、橋、公園などの公共事業プロジェクトは、インフラ開発に不可欠です。従来、これらのプロジェクトには税金、政府予算、場合によっては民間投資を組み合わせた資金調達が行われてきました。これには高額な初期費用や、最低投資額が設定され、個人投資家は参加が困難でした。

トークン化は個人投資家に主に次の二つの道を提供します。

  • トークン化された地方債の購入:公共事業の資金調達のために発行される、政府保証の債務証券を購入することができます。地方債には通常、高額な最低額面が設定されています(例:米国では5,000ドル)が、これらの債券をトークン化することで最低投資額が引き下げられ、より幅広い投資家が利用しやすくなります。
  • トークン化された公共事業プロジェクトへの直接投資:政府やプロジェクトスポンサーは、ブロックチェーン上でトークンを発行する特別目的事業体を設立することができます。発行されたトークンは、プロジェクトの収益(道路の通行料や公共施設の料金など)に対する持分所有権や権利を表しており、インフラ投資へのアクセスを民主化し、地域社会の関与を促進します。

トークン化された公共事業の例

いくつかのパイロットプロジェクトが、トークン化による公共事業の資金調達が成功につながる可能性を示しています。

2018年、米国カリフォルニア州バークレー市は、米国初のトークン化地方債を発行し、地域住民がコミュニティプロジェクトに直接投資できる仕組みを構築。2024年にはサンフランシスコ大学が同様のモデルに基づき「ブロックチェーン・マイクロボンド・プロジェクト」を開始しました。

アジアでは、フィリピン政府が2023年に、タイ政府が2025年にトークン化国債を発行。こうした取り組みは、個人投資家によるインフラ投資へのアクセスを拡大し、ブロックチェーン技術に基づく公共財政の実現が可能であることを示しました。

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メリットとトレードオフ

公共事業プロジェクトのトークン化は、投資家と地域社会の双方にとって「双方に利益のある」解決策を提供するとされています。投資家の日常生活に直接的な影響がほとんどない株式投資とは異なり、公共事業プロジェクトへの投資は、身近な環境を具体的に改善するインフラを支援することを意味します。

例えば、地元の公園や道路のトークンを購入することにより、投資家は財務的リターンを追求するだけではなく、自身や近隣住民が利用する公共施設に貢献することにもなるのです。

トークン化による主なメリットは、以下のとおりです。

  • 参入障壁の低下:トークン化により、より多くの人々が高価値資産へ投資可能となり、金融包摂が促進されます。
  • 地域への直接的な影響:投資家が自身の居住地域に利益をもたらすプロジェクトの資金調達を支援することにより、所有意識と共有価値が醸成されます。
  • 財務的リターン:有料道路などの収益事業では、投資家に収入が還元されます。また、公園などの非収益事業では、税制優遇措置や支援に対する社会的評価が得られる場合があります。
  • 透明性の向上:ブロックチェーン技術により、資金使途の追跡が可能となり、汚職の削減と公共支出への信頼構築に寄与します。
  • 流動性の向上:トークン化により、従来流動性の低かった公共事業資産の売買が容易になり、投資家は保有資産の取引をより迅速に行い、必要時に資本を回収できるようになります。

公共事業プロジェクトのトークン化は、インフラ開発のための新たな資金源を開拓し、経済成長への参加層を拡大する可能性を秘めています。

一方で、重要な課題とトレードオフも存在します。

  • すべての公共事業プロジェクトが収益を生むわけではなく、特に可処分所得が限られている投資家にとって、魅力が制限される可能性があります。
  • 収益を生み出すプロジェクトであっても、収益が保証されるものではありません。例えば有料道路の利用が予想を下回った場合、投資家は期待した利益を得られない可能性があります。
  • トークン化された投資へのアクセスには、デジタルリテラシーと安定したインターネット環境が求められることが多く、誰もが利用できるわけではありません
  • ブロックチェーン技術は通常、インフラ(ブロックチェーンを支えるコンピュータネットワーク)を構築するための初期費用が高額です。
  • 各国政府は、投資家を保護し、その信頼を維持するために、支払いとプロジェクト成果をどのように保証するかを明確に開示する必要があります。

全体論的な取り組み

公共事業プロジェクトのトークン化は、インフラ開発のための新たな資金源を開拓し、経済成長への参加層を拡大する可能性を秘めています。

このテクノロジーはアクセシビリティと透明性の面で明確な利点をもたらしますが、その真の可能性を十分に発揮するためには、規制面、技術面、教育面における課題への対応が必要です。

トークン化された公共事業プロジェクトが包摂的かつ持続可能な成果をもたらすためには、各国政府、企業、市民社会を含むマルチステークホルダーの連携によるアプローチが不可欠となるでしょう。

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