テレワークのあり方を変える、低炭素デジタル・コラボレーション

テレワークにもカーボンフットプリントが存在します。これをどのように軽減すべきでしょうか。 Image: Sigmund
- 通勤削減による排出量削減はあるものの、テレワークやコラボレーションを支えるデジタル・インフラにはカーボンフットプリントが伴っており、その量は増加の一途をたどっています。
- 組織は、ビデオ会議の解像度を落とす、または常にカメラオフにするなど、様々な対策を通じてデジタル作業からの排出量を最大半分まで削減することができます。
- ハイブリッドワークとデジタルサービスが拡大する中、企業は環境・社会・ガバナンス(ESG)レポートや気候戦略にデジタル排出量を組み込む必要があります。
テレワークとハイブリッドワークは、グローバル経済において広く定着するようになりました。職場へ通勤する代わりに、 何百万もの従業員が自宅オフィスからログインしています。この変化は都市の様相を変え、企業の不動産戦略を再構築し、チームが共同作業をする方法を変革しました。
テレワークは地球環境にとって有益であると広く考えられています。道路を走る自動車が減れば、排出量も減少するはずだからですが、現実はもっと複雑です。テレワークは、ビデオ会議、クラウドストレージ、常時稼働のコラボレーション・ツールなど、膨大なデジタル・インフラに依存しており、これら自体に隠れたカーボンフットプリントが存在します。
各国政府や企業が気候変動対策の決定的な10年を迎える現在、テレワークは絶対的にサステナブルであるとは言い切れません。リーダーたちには、デジタル・コラボレーションが柔軟性と真の低炭素性を両立させるための枠組みが必要です。
「リモート=環境に優しい」という前提への疑問
通勤削減のメリットは確かに存在します。米国では交通部門が温室効果ガス排出量の29%を占めており、毎日の通勤をなくすことで年間数百万トンの二酸化炭素削減が可能です。
しかし通勤にのみ焦点を当てると、以下のような別の側面を見逃すことになります。
- ビデオ会議:1時間の高解像度(HD)ビデオ通話では、データセンターを稼働させる電力網で150~1,000グラムの二酸化炭素を排出する可能性があります。カメラをオフにすることで、これらの排出量をほぼ完全に削減することができます。
- クラウドストレージとファイル同期:ドキュメントの絶え間ないバージョン管理とバックアップが、継続的なエネルギー需要を生み出しています。データセンターの電力消費量は、2022年に約460テラワット時(グローバルな電力使用量の約1.5%)に達し、AIやデジタルサービスにより、2030年までに需要が2倍以上になると予測されています。
- サービスとしてのソフトウェア(SaaS):常時稼働プラットフォームは、実際の使用状況に関わらず継続的に動作します。
大規模化に伴い、これらの排出量が通勤削減による気候メリットを相殺する可能性もあります。ただし、テレワークの影響は、デジタル・コラボレーションを設計する方法によっては、違ったものにできるはずです。
低炭素コラボレーションの設計
今後の道筋は、テレワークを放棄することではなく、持続可能性の目標に沿ってデジタル慣行を再構築することです。組織は、対象を絞った以下の対策を採用することで、デジタル業務のカーボンフットプリントを最大半分まで削減することができるでしょう。
1. 映像の最適化
- 鮮明な映像が不要な場合は、高精細(HD)から標準精細(SD)に切り替えることを推奨します。
- ウェビナーや大規模な更新情報共有では、「カメラオフ」会議を標準にしましょう。
- 例えば、ビデオ解像度をHDからSDに下げることで、会議の排出量をほぼ完全に削減できることが研究により分かっています。
2. 非同期ワークフローへの移行
- 一部のリアルタイム会議を、文書による通知、録音メッセージ、共同編集のドキュメントに置き換えます。
- これによりストリーミング需要が減少し、追加の二酸化炭素排出を削減して、グローバルな参加が可能になります。
3. クラウドの持続可能性評価
- クラウドコンピューティングは莫大なエネルギーを消費しますが、再生可能エネルギーの導入状況は業界によって異なります。
- 組織はクラウド利用の背景にある持続可能性への取り組みを考慮し、再生可能エネルギー目標を支援する道筋に沿って内部慣行を調整すべきです。
4. カーボンダッシュボードの統合
- 企業が生産性やコストを追跡するように、コラボレーションの炭素強度も監視すべきです。
- 職場分析にダッシュボードを組み込むことで、チームが低排出の選択肢を選ぶよう促すことができます。
こうした対策はコラボレーションを制限するものではなく、効果的かつ気候に配慮した形に設計するためのものです。
テクノロジーの役割
テクノロジーそのものが、デジタル業務のカーボンフットプリント削減において決定的な役割を果たす可能性もあります。業界全体で、AI駆動の最適化技術の進展が模索されており、データを再生可能エネルギーで稼働するデータセンターにルーティングする、ネットワークの状況に基づいて動画解像度を自動調整するなどが検討されているところです。
また、エッジコンピューティングを利用することで、長距離データ転送への依存を減らし、エネルギー強度を低減します。一方、グリーン・ソフトウェア・エンジニアリングという新たな基準は、開発者がより少ない計算サイクルで動作するコードを書くことを奨励するものであり、それによって大規模な排出削減を実現。さらに、ビデオの自動ミュート、低電力モードの有効化、共有ファイルの圧縮といった簡単なことを初期設定にしておくだけでも、数百万のユーザー全体では大きな省エネルギー効果をもたらします。
ツールやプラットフォームの設計に持続可能性を組み込むことで、テクノロジー業界は気候に配慮した協業を例外ではなく、当たり前の状態にすることができるでしょう。
ESG戦略への広範な影響
長い間、仕事における持続可能性の議論は主に通勤、オフィス、出張に焦点が当てられてきました。しかし、デジタルファースト経済においては、コラボレーションにもカーボンフットプリントが存在します。
- 企業は物理的な事業運営に加え、デジタル・コラボレーションの排出量も環境・社会・ガバナンス(ESG)開示に含める必要があります。
- 持続可能性報告の枠組みは、排出量削減におけるコラボレーションの重要性増大を反映し、デジタル実践を包含する方向へ拡大しています。
- 投資家は、ハイブリッドワークが気候目標を阻害するのではなく、支援できるようにすることを企業に求めています。排出量が管理されなければ、長期的な価値に直接影響する、財務的、規制的、評判上のリスクが生まれるからです。
テレワークを二酸化炭素排出の課題の一環として再定義することで、リーダーたちは持続可能性において、これを負債ではなく資産のままにしておくことができるでしょう。
なぜ今なのか
今が喫緊のタイミングだからです。AI、自動化、チームのグローバル化により、デジタルワークのパターンは急速に拡大しています。カーボンフットプリントを意識した設計を行わない場合、リモートによるコラボレーションに隠されているカーボンフットプリントが抑制されずに拡大し、通勤の削減によって得られるメリットを相殺する恐れがあります。
今後5年間で、テレワークが持続可能な変革の礎となるか、気候戦略の盲点となるかが決まるのです。
仮説から行動へ
テレワークは世界中の経済と働き方を再構築しました。一方で、その気候への影響は当然のようにポジティブであるとは限りません。組織がデジタル協働を設計する方法が、それが地球規模の持続可能性目標を支えるかどうかを決定するのです。
「リモート=環境に優しい」という前提に疑問を投げかけ、ビデオの最適化から持続可能なクラウド利用までのコラボレーションの低炭素化設計を採用することで、企業や政策立案者は、デジタル・ワークプレイスの排出量を最大50%削減することができます。
課題は、テレワークを続けてよいのかどうかではなく、ネットゼロ達成に向けた進捗をいかに推進できるかです。その答えは、未来の働き方を支えるシステムをいかに慎重に設計するかにかかっているのです。
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Eric White and Elia Tziambazis
2025年9月24日