水を経済の原動力に変える投資の視点

現在、水関連インフラへの投資のあり方を再定義しようとする動きが広がっています。 Image: REUTERS/Molly Darlington
- 水は、単なる環境課題の解決策ではなく、社会経済の発展を促す戦略的かつ緊急性の高い投資対象として位置付けるべきです。
- 水市場における規模、構造、潜在的な機会を明確に定義することで、資本を引き寄せ、従来とは異なる分野の企業を参入させ、イノベーションを促進することが可能になります。
- 実証済みの枠組みや消費データ、標準化されたビジネスモデルを確立、共有することで、不確実性を低減し、規制体系を近代化すると同時に、金融機関の融資が可能なプロジェクトの創出が期待できます。
水は今や、重大な地政学的リスク要因となりつつあります。水資源の不足や不平等な分配が、政治的緊張の高まりに拍車をかけているからです。需要が供給を上回る状況では、国境を越えて利用される河川や貯水池、地下水資源をめぐる競争が激化し、すでに脆弱な地域にさらなる圧力がかかっています。
一方で、水資源へのアクセスが公平かつ透明性をもって管理されれば、社会経済の成長、協力関係の構築、平和構築の強力な推進力となり得ます。国境を越えた連携を促進し、長期的な安定に貢献するでしょう。
2025年7月14日、スイス、ジュネーブにおいて、世界経済フォーラムのグローバル産業部門によるハイレベルワークショップが開催され、水分野のトップリーダーたち30名以上が参加しました。
この対話には、水道事業者、テクノロジー事業者、金融機関、政策決定者が一堂に会し、水インフラシステムに関する根強い誤解を解消し、ベストプラクティスを共有。同時に、2026年にダボスで開催される世界経済フォーラム年次総会や国連水会議、国連気候変動会議といった国際的な節目に向け、業界の戦略的優先事項について合意形成を図りました。
レジリエンスが高く公平な水インフラシステム構築に向け、世界的な連携が進む中で、水インフラへの投資促進方法についても議論が集中。同会合は、大きな変革期を迎えている水バリューチェーンの新たな役割を浮き彫りにするものでした。
水は経済のほぼあらゆる側面と、人々の日常生活の基盤であるにもかかわらず、これまで優先的に扱われることがほぼありませんでした。
”これらの議論から浮かび上がった3つの重要な知見は、水と資源管理をめぐるあらゆるグローバルな取り組みや議論の最前線に据えられるべきものです。
1. 緊急性と社会経済的影響
同会合は、水分野のリーダーたちが新たな視点について考察し、方向性を一致させる絶好の機会となりました。すなわち、水は戦略的投資対象であると同時に、環境的、運用上の課題としても認識されなければならないということです。水は、経済成長と地政学的安定にとって極めて重要な要素なのです。
従来、政府支出や開発資金は「緊急性の高いニーズ」に優先的に配分されてきました。一方で、水は経済のほぼあらゆる側面と、人々の日常生活の基盤であるにもかかわらず、これまで優先的に扱われることがほぼありませんでした。この不一致により、水需要の増加と気候変動リスクの高まりにもかかわらず、慢性的な投資不足が生じています。
水は健康、気候変動に対するレジリエンス、経済的繁栄にとって不可欠な存在であるにもかかわらず、迅速な資金配分を必要とする危機的状況として認識されることは稀です。水のレジリエンスと、それに伴う社会経済的影響の緊急性を訴えることは、投資ギャップを埋めるための最初の重要なステップとなります。
矛盾しているように見えますが、水は農業からエネルギー、デジタル・インフラに至るまであらゆる分野を支えているにもかかわらず、グローバルな投資戦略の中ではほとんど注目されていません。
さらに、ほぼすべての産業にとって不可欠な存在であるにもかかわらず、水関連企業の世界規模の売上高や時価総額は、上位を占めるものではありません。世界銀行によれば7兆ドルもの投資不足が存在し、経済協力開発機構(OECD)のデータでは、料金収入でまかなわれているのは水道サービス費用の70%に過ぎず、残りは公的資金で補填されている状況です。
一方、世界水評議会の報告によると、水および衛生分野におけるブレンデッド・ファイナンスの取引量は全体のわずか5%。民間資金に占める割合も1.5%未満にとどまっています。
水に対する見方や政策、金融面での注目が現状のままでは、必要性に追いつかない状況が続くでしょう。
さらに深刻だと考えられるのは、水が持つ社会経済的価値が著しく過小評価されていることです。OECDによる2021年の『産業連関表(Inter-Country Input-Output、ICIO)』に関するアセア・リサーチ・アンド・スタディーズ(Acea Research & Studies)の詳細分析によれば、投資1ドルあたり少なくとも2.50ドルの生産効果が生まれ、建設、サービス業、製造業などの関連産業を活性化させることが示されています。
また、社会的観点では、水インフラは雇用創出の原動力でもあり、100万ドルの投資につき16件以上の雇用を生み出しています。このように、水を緊急性の高い高リターン投資対象として認識することが、変革を推進するための鍵となるでしょう。
2. 市場と主要プレイヤーの定義
水関連投資市場の規模、重点分野、主要プレイヤーを明確に把握することは、公的資本と民間資本を動員し、地域のニーズに応じた社会経済的、気候的効果を最大化する優先投資を推進するために不可欠です。
これは特に重要な課題です。なぜなら、水インフラ企業と新興テクノロジー分野との接点は一層増加しており、従来のモデルを超えた新たな投資機会が開かれているからです。
水分野の本質をより良く理解することで、この分野を単なる補助的な役割から、より広範な経済における持続可能な成長、イノベーション、レジリエンスの主要な推進力へと転換することが可能になります。
”不動産セクター向けの分散型循環型水ソリューションから、AIを活用して最適化された冷却システムに至るまで、水は今や新たに参入する企業にとっても競争力の源泉となりつつあります。
これらの事例が示すように、水分野と、従来これを扱わないまったく新たな企業との連携は、革新的なビジネスモデルの創出、および追加的な資本源の獲得につながる可能性を秘めています。
実際に、水、衛生、感染予防のソリューションとサービスを提供する企業であるエコラボと、マイクロソフトが、水関連データの高度化で協力し、持続可能な事業を支援する事例や、イタリアの銀行であるインテーザ・サンパオロとアセアが研究、インフラ資金調達、人材開発で連携している事例がすでに存在します。
同様に、単一企業が水、エネルギー、ガスなど複数の基幹サービスを一つのガバナンス体制の下で管理するマルチユーティリティモデルは、異業種間の相乗効果を促進し、資本アクセスを向上させ、優秀な人材を引き付け、技術導入を加速させるとともに、地域社会との連携を強化する魅力的な機会を提供します。
3. 世界的ベストプラクティスの明確な提示
特に産業用途や農業用途における水消費量に関する信頼性の高いデータがなければ、政策立案者は水のレジリエンスに関するデータ駆動型の枠組みを容易に策定することはできません。
同時に、老朽化したインフラ、気候変動への耐性、需要の増加といった要因によって緊急に必要とされるインフラ投資を促進するためには、水分野における投資、イノベーション、適切なパートナーシップを育む規制環境を整備することが不可欠です
水バリューチェーンに関わる企業は、世界的なベストプラクティスの特定と共有、さらには標準化されたビジネスモデルを推進する実現可能なプロジェクトの開発において重要な役割を果たすことができます。
成功要因を明確にし、業界内の曖昧さや分断を解消することで、これらの企業は政策立案を導き、規制枠組みの近代化を支援し、より予測可能な投資環境の構築に貢献します。
これらの取り組みをさらに発展させ、大規模な資本誘致を実現するためには、水インフラプロジェクト特有のリスク、スケジュール、リターン特性に合わせた、専用の金融手段を整備する必要性が高まっています。
水分野における新たなストーリーの構築
ジュネーブで開催されたワークショップは、水システムの再考とその投資価値の再定義において、重要な一歩を踏み出したものです。同ワークショップにより、これまで以上に水システムに関する課題の緊急性が高いことが強調されました。
水分野の本質をより良く理解することで、この分野を単なる補助的な役割から、より広範な経済における持続可能な成長、イノベーション、レジリエンスの主要な推進力へと転換することが可能になります。
この転換を支援するため、世界経済フォーラムは、水関連投資市場の評価、スマート政策と資金調達の主要な推進要因の特定、水バリューチェーン全体にわたる世界的なベストプラクティスの顕在化に向けた取り組みを主導していきます。
この取り組みにより、地理的地域ごとのインフラ投資ギャップの初期的な全体像が明らかになり、優先すべき解決策が提示され、水レジリエンスを拡大するための標準化された投資ツールキットの基礎が築かれるでしょう。
本寄稿文には、アセアの最高変革責任者であるマルコ・パストレッロ氏の協力も得ています。
このトピックに関する最新情報をお見逃しなく
無料アカウントを作成し、パーソナライズされたコンテンツコレクション(最新の出版物や分析が掲載)にアクセスしてください。
ライセンスと転載
世界経済フォーラムの記事は、Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International Public Licenseに基づき、利用規約に従って転載することができます。
この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。
最新の情報をお届けします:
水
アジェンダ ウィークリー
世界の課題を読み解くインサイトと分析を、毎週配信。
もっと知る 食料と水 すべて見る
Naoko Tochibayashi and Mizuho Ota
2025年7月9日