長寿経済の柱として、文化的統合を推進すべき理由

健康的な長寿社会の実現には、文化への配慮が不可欠です。 Image: Ali Mkumbwa/Unsplash
- 健康に年を重ねることにおいて見過ごされがちな要素の一つが、経済的安定と健康状態の関連性です。
- 医療資源が限られた低所得国や高所得国では、自己負担や断片的な保険制度に依存する医療システムにより、個人が脆弱な立場に置かれるケースが少なくありません。
- 公的ケア以外の非公式なケアを担う人々の保護、包摂的な年金制度の拡充、地域に根ざしたモデルへの投資は、老後の尊厳ある生活を支えるエコシステムを構築する上で欠かせません。
世界で高齢化が進み、平均寿命は2050年までに77.2歳、人口の6人に1人が65歳以上になると予測される中、医療システムは資源配分、ケア提供体制、財政面において一層大きな圧力に直面しています。この人口動態の変化は、それぞれ異なる加齢観や世代間役割への期待を持つ、多様な文化的文脈の中で進行しています。
健康に年を重ねる上で見過ごされがちな要素の一つが、経済的安定と健康状態の関連性です。医療資源が限られた低所得国や高所得国では、自己負担や断片的な保険制度に依存する医療システムにより、貯蓄が十分でない人々が脆弱な立場に置かれるケースが少なくありません。保護策がなければ、高齢者は受診を遅らせ、慢性疾患に苦しみ、寝たきりになる可能性があります。レジリエンスの高い長寿経済を支える仕組みを構築するには、健康と経済的保護を統合し、不安定さが健康状態の悪化や尊厳の喪失につながらないようにすることが不可欠です。この点において、経済的な備えは医療へのアクセスと同様に重要です。
一方、医療システムの持続可能性は、財政面だけでなく文化的側面にも依存しています。なぜならば、地域の価値観や規範を反映したシステムは、より信頼され、持続的に機能する傾向があるからです。逆に、文化的慣習を無視したモデルは、非効率性や抵抗に直面することが多いものです。例えば、従来は共同体によって行われてきた高齢者ケアを施設型モデルに置き換えると、家族のつながりが分断され、公的システムへの依存度が高まり、コストが増大する可能性があります。文化は、長寿戦略が受け入れられるかどうかを決定する重要な要素なのです。
グローバル・サウス地域では、医療制度が未整備であることと、近代化、移住、都市化によって伝統的なモデルが衰退していることから、ケアが断片化し、格差が拡大する傾向があります。伝統的な知識を政策や財政システムに認識、統合することで、より強靭で地域に根ざし、費用対効果の高い高齢化モデルを実現することが可能になります。
晩年期における構造的要因としての文化
健康的に年を重ねられるようにするためには、経済的な持続可能性だけでは十分ではありません。感情面のウェルビーイング(幸福)、ソーシャル・インクルージョン、そして生きる目的の感覚を支える必要もあるのです。このために、世代間の絆や社会的つながりを強化するシステムは、より大きな信頼とより良い成果をもたらす傾向があり、一方で、文化的な期待を無視したシステムは、政策の信頼性や結束力を損なうリスクがあります。
地域を問わず、加齢の概念はそれぞれ異なる文化的論理によって形作られています。西洋のモデルでは自律性、イノベーション、経済的自立が重視される一方、アフリカの伝統では、共同責任と社会的レジリエンスが中心的な価値観となっています。例えば、南部アフリカに伝わる思想で、ズールー語やコサ語などに由来する「Ubuntu(ウブントゥ)」というものがあります。これは「私があるのは、私たちがあるからこそ」といった概念で、高齢者を道徳的存在として捉え、そのケアには支援や指導、物語の共有といった要素を含みます。こうした価値観の枠組みが、高齢化をどう経験し、どう理解するかに大きな影響を与えているのです。
形式的な制度と地域の実情の橋渡し
平均寿命の延伸に対応するために、多くの国が欧米型の制度をモデルとした公的な退職者、高齢者ケアシステムを導入しています。こうした取り組みは、経済的な安心やケアへのアクセス向上を目的としていますが、非正規労働が主流で、家族やコミュニティによる支えが中心となっている地域においては、必ずしも十分に機能していないのが実情です。
一例として、ナイジェリアはアフリカ最大の人口を抱える国の一つですが、平均寿命は世界的に見て低水準。このことは、経済的安定と文化的慣習を一体化したレジリエンスモデルの必要性を強く示唆しています。2000年代初頭に導入された同国の年金制度改革は、高齢者支援の制度化を目指したものでしたが、適用範囲の制限、手続きの遅延、インフォーマル経済との不整合といった課題が浮上。外部システムの限界が浮き彫りになりました。一方で、家族経営企業がセーフティネットとして機能しており、アバ市で行われた調査が示すように、レジリエンス、革新性、事業承継の仕組みにより、資産と責任の継承が可能となっています。
これらの限界は、よりホリスティック(全体論的)かつ文脈に即したアプローチの必要性を示しています。地域にすでに存在する社会システムが持つ強みを認識し、それらを組み込んだアプローチが求められているのです。例えばジンバブエでは、エイズに対する偏見を解消するために地域主導で行われた対話活動が、文化的に根付いた実践が行動変容を促し、信頼を強化。外部の知識を地域に根ざした具体的な行動へと転換できることを示しました。このような取り組みは、集団的責任と一貫性を基盤としたシステムの方が、より受け入れられ、持続可能であることを証明しています。
この原則は高齢化の課題においても同様に当てはまります。多くのアフリカ社会では、親族関係を基盤とした伝統的な福祉システムや、高齢者への敬意を重んじる慣習が、今なお非公式なセーフティネットとして機能し続けています。その中では、高齢者はケアの受け手であると同時に、メンター、仲介者、知識の継承者として積極的な役割を果たし、感情的、社会的、物質的なニーズに応えています。高齢化政策がこれらの文化的側面を無視した場合、社会的結束を損ない、より統合的で人間中心のアプローチの機会を逃すリスクがあります。

非公式なシステムの公式化
こうした伝統的なモデルは現在、大きな圧力にさらされています。都市化、経済構造の変化、世代交代により、拡大家族ネットワークは弱体化。公的システムには、依然として十分な資源が確保されていません。その結果、高齢者ケアにおける格差が拡大し、制度改革だけではこの課題を解決できなくなっています。
必要なのは非公式システムの代替ではなく、その認識、支援、そしてより広範な戦略への慎重な統合です。文化的に適応したアプローチとは、伝統的なシステムが持つ保護的要素を制度化しつつ、公的な安全装置によってそれを強化することを意味します。具体的には、給与所得者以外への年金制度の拡充、介護者支援、地域の実情に即したケアモデルへの投資、家族経営企業を文化的制度かつ生存戦略として認識し、その強靭性を所有権と事業承継に組み込むことなどが挙げられます。
近年の研究からは、教育、医療、社会保障をライフコース全体で統合的に捉えるアプローチが効果的であることが示唆されています。ただし、それが最大限の成果を上げるのは、各社会の文化的な論理や価値観を反映している場合です。高齢化戦略に地域固有の価値観を組み込むことで、その正当性が高まり、受容が進み、連帯感が育まれます。また、文化に根ざしたモデルと制度を調和させた国々は、高齢者の生産性を維持し、予防可能な疾患を減らし、社会の結束を強化する可能性が高まります。つまり、文化に基盤を置いた高齢化戦略は、寿命を延ばすだけでなく、その質を高めるのです。
文化的基盤に基づく高齢化システムへ
社会が高齢化に伴う人口動態的、経済的な課題に直面する中、持続可能な対応には制度改革や財政的な工夫を超えた取り組みが不可欠であることが明らかになりつつあります。健康的な長寿を実現するための戦略は、対象とするコミュニティの文化的現実に根ざして初めて成功するのです。
特に、多世代世帯や非公式のケアが一般的な地域では、既存の社会システムがケアと継続性、意味、信頼を提供しています。こうした仕組みを認識し、強化することは、単なる懐古主義的な行為ではなく、現実的かつ不可欠な課題です。
非公式のケアを担う人々の保護、包摂的な年金制度の拡充、地域に根ざしたモデルへの投資は、老後の尊厳ある生活を支える。持続可能で受け入れられるエコシステムを構築する上で欠かせません。高齢化とは、単なる医学的、経済的現象ではなく、文化的な経験でもあります。この点を反映して初めて、戦略は真に完成されたものとなり得るのです。
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