リーダーシップ

激動する時代のリーダーシップ、育むべき2つの資質

フォーチュン500企業、スタートアップ、非営利団体のいずれにおいても、リーダーシップの基本原則は変わりません。

フォーチュン500企業、スタートアップ、非営利団体のいずれにおいても、リーダーシップの基本原則は変わりません。 Image: Pexels/Christina Morillo

Ida Jeng Christensen
Head of the Forum of Young Global Leaders, World Economic Forum
Raju Narisetti
Partner and Leader, Global Publishing, McKinsey & Company
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 ニューエコノミーとソサエティ
  • 急速に変化するビジネス環境において、自己理解や従業員の動機付けといった、ソフトスキルの重要性がますます高まっています。
  • AI時代の到来に伴い、こうした人間的要素をビジネスの基盤とすることが、緊急性を増した課題となるでしょう。
  • 謙虚さと内省は、リーダーにとって決定的な優位性をもたらします。

急速な技術革新と複雑かつグローバルな課題を特徴とする時代において、優れたリーダーにはどのような資質が求められるのでしょうか。

多くの点で、リーダーシップのあり方は流動的です。過去の世代は、例えばサイバーセキュリティやAI、気候変動といった課題を心配する必要はありませんでした。一方で、フォーチュン500企業、スタートアップ、非営利団体のいずれにおいても、リーダーシップの基本原則は一貫して変わりません。

もちろん、ビジネス環境や社会的文脈に関する知識、技術的スキル、ステークホルダーとの適切な対応能力といった、基本的能力は必要です。ただし、こうした能力があるからといって、リーダーとして成功するとは限りません。優れた戦略家であっても、判断を誤ることはあり得るからです。

マッキンゼーによる最近の調査や、「フォーラム・オブ・ヤング・グローバル・リーダーズ」のメンバーからの意見によると、優れたリーダーを他と区別するのは、チームや従業員、地域社会と真につながる力という、形のない要素です。そして、この人間中心のアプローチの基盤にあるのが、自己認識だと言えます。つまり、リーダーシップを身に付けるには、まず自分自身を見つめ直すことが不可欠なのです。

「リーダーの真の使命とは、価値を創造し、共に意味を見出す人々との間に共有された目的意識を育むことにある」と、米国ハーバード・ビジネス・スクールのラウィ・アブデラル教授は論じています。これは、単に出勤して命令を下すだけでは達成できません。真の自己認識があって初めて、誠実さや共感といった資質が育まれるのです。

そしてこれは、あらゆる場面に当てはまります。世界経済フォーラムの『仕事の未来レポート2025』では、創造的思考、レジリエンス、好奇心といった「ソフトスキル」が、現代の労働市場において従来以上に重要であると指摘。自己認識の高いリーダーは、自分の言葉や行動がもたらす影響を理解し、他者を信頼し、力を与えることができます。言い換えれば、彼らは内面から行動や影響へとリーダーシップを発揮するのです。

なぜこのことが重要なのでしょうか。それは、変化の激しい世界においては、安定した核となる部分が不可欠であり、その基盤は内面から築かれるものだからです。優れたリーダーは、自分自身の本質と存在意義を深く理解し、それを行動に反映させます。公的機関か企業か、規模が大きいか小さいかにかかわらず、組織のリーダーは、前向きなエネルギー、粘り強さ、ユーモア、そして奉仕の精神を示さなければなりません。私たちが観察した中で最も成果を上げているリーダーたちは、チームや他者の成功を第一に考えます。そうすることで、自分自身と組織の成功を同時に創造しているのです。米国ウォートン・スクールのアダム・グラント教授によれば、優秀なリーダーは他者を引き上げますが、多くの組織ではこの資質を育む方法が不明であるのが現状です。

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生成AIを含むAIの台頭は、こうした状況のすべてを変えるものではありません。むしろさらに強化するでしょう。AIは最終的に、19世紀における蒸気機関や電力がそうであったように、経済的に変革をもたらす可能性を秘めています。一方で、技術は真空状態で機能するものではなく、人間の主体性が常に決定的な役割を果たします。マッキンゼーが調査したリーダーたちの約半数は、従業員の準備不足が技術導入の大きな障壁であると回答。一見矛盾しているように思えますが、実は、人間中心のリーダーシップこそが技術導入を可能にします。

例えば、2014年に米国退役軍人省の長官にボブ・マクドナルド氏が就任した際、同氏が引き継いだのは、士気が低い多数の職員と、同省のサービスに対する広範な不満、不安定な技術インフラでした。さらに、これら3つの課題はすべて相互に関連していました。そこで同氏は、米陸軍将校時代やプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のCEO時代に用いたのと同じフレームワーク、すなわち「目的、価値観、原則」を採用。また、IT分野では、「組織全体で人間中心の設計を実現」しました。最近の第三者評価では、同省の病院は同業他社を上回る評価を得ており、退役軍人の間での信頼も厚いものとなっています。

AIが特定の分析的、技術的タスクを担うことで、リーダーは人間中心のリーダーシップに一層多くの時間を割くことが可能になります。また、リーダーシップスタイルの有効性について、継続的なフィードバックを提供する分析的洞察も得られるでしょう。ただし、AIには決して真似ができないものがあります。それが、人間中心のリーダーシップです。AIは、従業員がリーダーに求める、成長機会、配慮、関与、目的意識従業員の幸福へのコミットメントといったものを提供できないのです。

米国スタンフォード大学のヒューマン・センタードAI研究所(HAI)共同ディレクターのジェームズ・ランディ教授が指摘するように、利益追求であれ社会変革であれ、その意図にかかわらず、「人間中心のアプローチを取らず、技術中心の考え方で物事を進めるならば、最初に目指した善い成果を達成する可能性は低くなる」のです。

自己認識を深めることは、生涯にわたる旅のようなものです。ある意味、これは決して完結することのないプロセスです。なぜなら、状況は常に変化し続けるからです。ただ、意識的に特定の資質を育むことにより、進歩することは可能です。

資質の一つは「謙虚さ」です。これは多くのリーダーたちにとって、生まれながらに備わっているものではありません。現在、世界を揺るがしている変化である、デジタルトランスフォーメーション、貿易の混乱、地政学的変化、人材不足、脆弱なサプライチェーン、サイバーセキュリティ、気候変動などについて考えてみてください。これら全部についてすべてを知ることは不可能です。スタートアップの創業者でさえ、例外ではありません。謙虚なリーダーはこの現実を受け入れ、それに応じて行動します。

もう一つは「内省」です。自らの内面を見つめるリーダーは、自らの障壁や弱点、偏った見方を明確に認識することができます。これにより、多様なステークホルダーの要求を管理し、組織を前進させるために必要な問いを投げかけることが可能になるのです。リーダーが学びと傾聴の姿勢を持つとき、チームメンバーの関与度は向上します。受け入れることの難しい真実も率直に伝えられるようになり、自発的に行動する自信を持ち、一歩踏み出す意欲も増すでしょう。結論としては、従業員がつながりと本物志向を求める時代において、自己認識のないリーダーは競争上不利な立場に立たされることになるのです。

リーダーシップは極めて重要です。200名のトップCEOを分析したマッキンゼーの調査では、この層が生み出した追加的な経済価値は、約5兆ドルにも上ります。同様に、起業家にとっても、 事業を成功に導くために(ときには存続そのもののためにも) 自らのビジョンで他者を鼓舞するリーダーシップは不可欠です。だからこそ私たちは、21世紀のリーダーシップの真髄は、「人」の要素にあると考えています。

優れたリーダーたちは、他者を導くにはまず自らを導くことから始めるべきだということを理解しています。そしてそれは、おそらく最も困難な旅路でもあるのです。

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