グローバルな協力体制

欧州とアフリカが共に築く、デジタル未来と成長の新戦略

地域の主要なテクノロジーハブとして台頭する、ケニアの首都ナイロビ。

地域の主要なテクノロジーハブとして台頭する、ケニアの首都ナイロビ。 Image: Waibu/Unsplash

Nii Simmonds
Visiting Fellow, New America
David Timis
Global Communications and Public Affairs Manager, Generation: You Employed, Inc.
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 地域、貿易、地政学
  • 欧州とアフリカは、デジタルインフラ、データセンター、グリーン産業、テクノロジー人材といった共通の利益を基盤に、協力関係を深める必要があります。
  • アフリカは、その活力と経済的潜在力により、欧州が目指す価値観に基づくデジタルの未来を実現する重要な新興パートナーとなるでしょう。
  • 「ユーロスタック」イニシアチブは、欧州を超えてその影響力を拡大することにより、公平かつ民主的な技術秩序の形成に大きな役割を果たすことができます。

世界的なテクノロジー競争が激化する中、新たな危険な分断線が浮かび上がっています。それは、デジタル保護主義の誘惑です。「テクノロジー主権」(デジタル領域と製造業における自らの運命を決定する能力)の獲得を急ぐあまり、各国政府は孤立主義という無益かつ危険なゲームに陥るリスクを抱えています。

価値観に基づくデジタルの未来を提唱してきた欧州にとって、これは重大な選択の時です。自国に閉じこもり、技術的依存関係に陥るリスクを冒すか、それとも壁ではなくグローバルな信頼と協力のネットワークに基づく新たな主権モデルを開拓するのか。最も有望な道は、異なるタイプの連携を構築することにあります。国家の枠を超え、多様なイノベーション拠点を統合し、人材を受け入れる連携です。これは分断ではなく、相乗効果と協調的相互依存によって築かれるテクノロジー主権のビジョンです。

このビジョンは欧州の国境を越えて広がっています。これに合わせて、グローバル・サウス諸国との新たな協力パラダイムと、先進経済圏からの優秀な人材獲得に向けた戦略的アプローチが必要になってくるでしょう。米国では、政府によるパブリックセクターの再編に伴い、テクノロジー、エンジニアリング、研究分野の専門家たちが先行きの不透明さに直面しています。欧州には、こうした専門人材を引き付け、大西洋を越えたパートナーシップを育み、自国のイノベーション環境を大幅に向上させる独自のチャンスがあります。

グローバルなビジョンを支える基盤

ユーロスタック(EuroStack)」イニシアチブは、レジリエンスの高い自立したデジタルインフラを構築するという目標に向けた、欧州の大胆な第一歩です。同イニシアチブは、一貫性のあるエンドツーエンドのデジタル・バリューチェーンを実現するための設計図であり、AIモデルやデータスペースといった論理的インフラと、クラウドコンピューティングやハードウェア製造といった物理的インフラを論理的に結び付ける基盤となります。また、オープン標準、データ保護、相互運用性を優先することで、価値観に基づくデジタル経済のための強力な枠組みとして機能します。

一方、このビジョンを真に成功させるためには、内向き志向からの脱却が必要です。ユーロスタックの最大の脆弱性と可能性の両方が、国境を越えた領域に広がっているからです。成長を続けるためには、グローバルな視点を取り入れ、サプライチェーンの多様化、人材プールの拡大、地政学的な混乱に対するレジリエンスの強化につながる同盟関係を構築する必要があるのです。

アフリカが欧州のテクノロジーの未来にとって不可欠である理由

アフリカとのより深く協調的なパートナーシップは、単なる選択肢ではありません。それは、戦略に不可欠な要素です。この大陸には、デジタルを使いこなすことのできる急成長中の人口と、活気に満ちたイノベーションのエコシステムが存在しています。

人材の宝庫:アフリカには世界で最も若い人口が集中しており、サハラ以南のアフリカでは人口の70%が30歳未満。また、ケニアのナイロビ、ナイジェリアのラゴス、ガーナのアクラといったテクノロジーハブには、数億ドル規模のベンチャーキャピタルが集まり、数千ものスタートアップが誕生しています。これらのハブと連携することで、欧州は人材とイノベーションを活用する機会を得るとともに、自国の人口動態的制約に対処することが可能となるでしょう。

アフリカ各地のテクノロジーハブ。
アフリカ各地のテクノロジーハブ。 Image: AfriLabs

重要な資源の供給源:アフリカ大陸には既知の重要鉱物資源の30%が存在。これには、コンゴ民主共和国のコバルトや、ブルンジのレアアースなど、クリーンエネルギー技術や先進製造業に不可欠な資源も含まれます。これらの鉱物はテクノロジーの進歩を支える生命線であり、相互の尊重に基づくパートナーシップこそが、共有される未来に向けてサプライチェーンの安定を確保する鍵となります。

グリーンエネルギーの可能性:モロッコエジプトなどの国々は、再生可能エネルギー分野で大きな進展を遂げており、環境に優しいデータセンターのホストとしてアフリカと欧州の両市場に対応できるリーダーとなる可能性を秘めています。これにより、欧州のカーボンフットプリントを削減することが可能になります。

資源の採掘から共創へ

欧州には、発展途上国から原材料を輸出し、価値創造を海外に依存するという従来の採掘型モデルから脱却する歴史的な好機が訪れています。新たなアプローチとして重視すべきは以下の点です。

AIの共同開発:ケニア、ナイジェリア、モロッコ、ガーナなどの国々に共同AI研究拠点を設立します。欧州の専門知識と投資力を、アフリカの革新力とデータ資源と組み合わせることで、農業、医療、金融分野における共通課題の解決に向けたAIソリューションの開発が可能になります。

グリーンデータセンター:モロッコやエジプトなどの国々において、再生可能エネルギーを利用したデータセンターの共同投資と建設を推進します。これにより、アフリカと欧州双方のクラウドコンピューティング需要に応える地域拠点を形成します。

アドバンスド・マニュファクチャリング(先進製造業):産業政策が有利なアフリカ諸国において、半導体の組み立て、検査、梱包(ATP)施設への投資を行います。これにより、東アジアに過度に集中するサプライチェーンの多様化を図ることができます。

人材のグローバルな流動性:欧州は、アフリカの独創性と米国からの移住労働者の専門知識を融合させることで、研究、開発、製造分野を強化できます。専門的なビザ制度やインセンティブを導入することで、これらの高度なスキルを持つエンジニア、AIやサイバーセキュリティ分野の専門家を誘致し、知識の共有を促進し、より多様で強力な人材プールを構築することが可能です。

これは旧来型の援助モデルの再現や、新たな形の新植民地主義ではありません。アフリカと欧州の双方がリスクと利益、責任を共有する、協調的な相互依存関係を築いていくのです。

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ビジョンから行動へ

孤立主義に基づく主権は脆弱ですが、信頼できる相互依存関係に基づく主権は強靭です。デジタル保護主義の道は近視眼的であり、最終的には自らを損なう結果となります。これまでに述べたような協調的主権モデルでは、戦略的資産を有する国はその管理権を保持しつつ、基準の整合、インフラの共有、技術の共同開発、世界中からの人材流動の統合が可能になります。このモデルはレジリエンスの強化につながると同時に、テクノロジーが国家戦略の重要な手段として利用される現代において、外交的影響力の基盤を築くものです。

ビジョンを具体的な行動に移すために、欧州は以下の取り組みを行う必要があります。

ユーロスタックのグローバルな拡張:活動範囲を拡大し、アフリカ諸国との共同デジタルインフラ事業を明示的に組み込みます。これにより、真にグローバルな標準規格としての地位を確立し、技術移転と能力構築を確実に推進することができます。

基準とガバナンスの整合:アフリカ各国政府および世界中のアフリカ移民集団(ディアスポラ)と協力し、AI倫理、データガバナンス、サイバーセキュリティに関する共通フレームワークを策定します。

地域的な先進製造業ハブの育成:クリーンエネルギー技術や電子機器分野を中心に、アフリカと欧州双方の市場をカバーする産業クラスターを発展させます。

グローバルな人材流動の活用:米国を含む世界中からトップレベルの人材を誘致するため、専門的なビザ制度を創設し、欧州のデジタル戦略の加速を図ります。

真の主権とは絶対的な支配ではなく、多様かつ信頼できるパートナーの強固なネットワークと、豊かな人材資源を構築することにあります。したがって、ユーロスタックがアフリカおよびグローバル・サウス全般に対して掲げる相互運用性の原則は、デジタルの未来のためにさらに拡大されなければなりません。欧州はまた、トップレベルの人材を積極的に誘致すると同時に、より公平かつ民主的な技術秩序の形成にも貢献する必要があります。

協調的な相互依存関係の構築は、単なる戦術ではなく、欧州が強固で真に主権的なデジタル経済を確立するための、最も有望な機会なのです。

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