実行フェーズに移行する、国際プラスチック条約

メキシコのバジェ・デ・チャルコにあるプラスチックリサイクル施設の廃棄物集積所。 Image: Reuters/Raquel Cunha
- 2025年8月に行われる世界的なプラスチック条約交渉には、実際の成果を伴う行動の裏付けが必須となります。
- これには、必要なパートナーシップの構築も含まれます。包括的な政策立案においては、プラスチック汚染の影響を最も受けている人々の持つ、経験や知見が反映されるべきです。
- スイスは歴史的な仲介役としての役割を担っており、サーキュラー・エコノミーの実現に向けた取り組みにおいて重要な役割を果たしています。
2025年8月、各国の代表がスイスのジュネーブに集結し、政府間交渉委員会(INC-5.2)の第2部会議が開催されます。同会合は、プラスチック汚染を根絶するための歴史的国際条約を締結する最終段階です。国連環境総会(UNEA)により開始されたこのプロセスは、設計・生産からリサイクル・廃棄に至るまで、プラスチックのライフサイクルを包括的にカバーする法的拘束力を伴う国際文書の策定を目的としています。この条約が締結されれば、今後数十年にわたるプラスチックの生産、使用、管理のあり方を根本から変える可能性を秘めた、大きな転換点となるでしょう。
ただし、その道のりは容易なものではありません。資金支援のあり方、各国の責任分担、懸念される化学物質、持続可能な生産と消費のあり方、実施スケジュールなどをめぐる意見の相違は、グローバルなプラスチック条約の合意形成における課題の深さと多様性を如実に示しています。
交渉の場から実際の成果へ
プラスチック汚染の解決には、優れた交渉能力だけでなく、合意内容を具体的な成果へと結びつける強固なパートナーシップが不可欠です。2018年に始まった世界経済フォーラムの「グローバル・プラスチック・アクション・パートナーシップ(GPAP)」は、このアプローチを実践する代表的な取り組みです。世界最大のプラスチック汚染対策イニシアチブとして、GPAPは 各国政府、産業界のリーダーたち、市民社会、技術専門家を結集し、25カ国で活動。その目的は、グローバルな目標を各国の具体的な行動へと転換し、プラスチック汚染の根絶を実現することにあります。
同イニシアチブは、国のプラットフォームと技術作業部会を通じ、プラスチック廃棄物の削減、生活水準の向上、雇用創出につながる詳細なロードマップなどを含む、地域の実情に即した実践的な行動計画を策定できるよう各国政府を支援します。また最近では、コモン・シーズ、世界銀行、IUCN、グローバル・プラスチックス・ポリシー・センター、WRAP、ユーノミア・コンサルティング、プラスチックス・パクト・ネットワークなどのパートナーと共同で作成した、画期的な「Insight Paper(インサイト・ペーパー)」など、60カ国以上の事例から得られた教訓を集約した資料を公開しています。
こうした共有リソースは、特定の政策方針を支持するものではなく、むしろ解決策が文脈に応じて多様かつ繊細なものであることを示しており、交渉担当者だけでなく、現場でプラスチック汚染と闘う人々にとっても貴重な指針となります。特に重要なのは、GPAPが交渉の周辺で行われる非公式な会合を通じて、これらの実践的な経験とエビデンスを交渉の場に持ち込んでいる点です。これにより、世界中の地域社会の現実的な課題と多様なニーズに基づいた議論が行われるようになります。
プラスチック汚染における「包摂」の重要性
プラスチック汚染は単なる廃棄物管理の課題ではなく、公平性、機会の平等、ソーシャル・インクルージョンといった根本的な課題と密接に関連しています。プラスチック汚染の影響を最も受けている、非正規の廃棄物処理従事者、地域のリサイクル業者、社会的弱者グループなどは、国際的な政策議論の場ではほとんど取り上げられることがないためです。GPAPが英国政府の支援を受けて推進する「インクルーシブ・プラスチック・アクション・プログラム」は、投資と評価を地域の革新者に還元することを目的としており、多くの女性や若者が主導するプロジェクトを支援。同会合で発表される10の受賞プロジェクトは、草の根レベルで発揮される創造性と強い決意の賜物です。あらゆる活動においてGPAPは、ジェンダー平等とソーシャル・インクルージョン(GESI)の原則を統合。これにより、プラスチック転換が真に公正かつ広く共有されたものとなるよう取り組んでいます。
スイスの貢献
ジュネーブで開催予定のINC-5.2会合は、スイスが果たす独自の役割を浮き彫りにします。伝統的に中立と橋渡しを基本とするスイス外交が、この都市を長年にわたり国際条約締結や技術協力の中心地にしてきました。同国は現実的な証拠に基づく多国間主義の推進者であり、単なる交渉の場を提供するだけでなく、グローバルな課題解決にも積極的に貢献しています。
また、グローバルには、プラスチックに関する課題とサーキュラー・エコノミーに向けた取り組みを、環境課題の上位に位置付ける活動を行っています。同国は、プラスチック条約の交渉プロセス形成においても中心的な役割を果たし、プラスチック汚染を防止し、人間の健康と環境を保護すると同時に、生産から廃棄までプラスチックの全ライフサイクルを考慮した条約の締結を提唱してきました。具体的には、新たなプラスチックの生産と使用を持続可能な水準まで削減すること、使い捨て製品やリサイクルが困難な製品、有害化学物質を含む製品など、特に環境負荷の大きいプラスチックの段階的廃止を含む、全段階にわたる対策の必要性を強調。また、限られた資源しか持たない国々も含め、すべての国が条約の義務を公平かつ効果的に実施できるよう、資金メカニズムの必要性についても議論しています。
さらに、技術支援や能力開発、グローバル・サウス間の知識交流を通じて、グローバルな連携体制も推進しています。同国は、世界経済フォーラムなどのパートナーと連携し、交渉の場以外にもサーキュラー・エコノミーの実践事例を紹介するサブイベントや、専門家による詳細な技術討論、相互学習の機会を支援しています。2025年にはバーゼル条約、ロッテルダム条約、ストックホルム条約の締約国会議を開催。GPAPと共同で閣僚級現地視察会を実施し、再利用への投資がどのように、、収益性の高い循環型産業施設の実現につながるかを実証しました。
プラスチック条約は、持続可能な生産消費パターンを実現し、プラスチック汚染を根絶するための変革的な枠組みとなる可能性を秘めています。効果的な措置を盛り込んだ条約は、有意義な行動を促す原動力となるでしょう。企業にとってはより予測可能な環境が提供され、投資が促進され、より持続可能な未来に向けたイノベーションが加速することが期待されます。
”持続可能な変革の基盤
INC-5.2の最終的な成果はまだですが、GPAPのようなパートナーシップの経験からは、重要な教訓が得られます。進展のためには、多様な関係者による協力、継続的な適応、信頼関係の構築、そして現実の状況を反映した実践的で地域主導型の解決策が不可欠です。特に、持続的な影響を生み出す上で、プラスチック汚染の影響を最も受けている人々を含む、多様な声を真に包摂することが不可欠なのです。データへのアクセス、資金、相互学習の機会によって力を得た、国内外における日々の取り組みが、プラスチック汚染対策の未来を形作ります。
歴史が示すように、条約が成功するためには、強い意志を持った実行者、信頼できるパートナーシップ、強固な資源、実施体制と地域ごとの適応が不可欠です。ジュネーブにおける重要な協議の行方に注目が集まる中で、最終的な成果を左右するネットワーク、ツール、包摂的な解決策に目を向け、それらに対して適切な投資を行うことも同様に重要となります。
条約はグローバルな方向性を定め、影響力を加速させるでしょう。現場での粘り強い連携こそが、真の変革をもたらす原動力となります。英国、カナダ、スイスをはじめとする多くの献身的なパートナーの支援を受け、GPAPは今後も、目標と行動の橋渡し役を務め、グローバルなコミットメントの実施を可能にし、各国が循環型プラスチック経済へ移行する過程を支援していきます。
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