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分断が深まる世界で、建設的な意見の相違を学ぶ方法

背景にアート作品が飾られた部屋で、人々が議論を交わしています。分断が拡大する状況で社会課題を解決するためには、「建設的な意見の相違」を身につける必要があります。

分断が拡大する状況で社会課題を解決するためには、「建設的な意見の相違」を身につける必要があります。 Image: Unsplash/Antenna

Michael Spence
President and Provost, University College London (UCL)
  • 二極化が進み、教育機関への信頼が低下する中で、「建設的な意見の相違」を教えることは、社会課題を解決する上で不可欠です。
  • 建設的な意見の相違を実現するには、個人が対話に対して開かれた心を持ち、他者の視点を真摯に理解しようとする姿勢が求められます。
  • 大学をはじめとする教育機関は、意見の相違が歓迎され、構造化され、生産的な議論が行われる環境を整備しなければなりません。

分断が深まる世界で、建設的な意見の相違を学ぶにはどのようにすればよいでしょうか。

意見の相違が分断に発展することを防ぐ能力は、教えられるべき重要なスキルですが、その習得はますます困難になりつつあります。社会のあらゆる分野において、誤情報や偽情報が些細な意見の相違を増幅させ、さらなる分極化を引き起こしているからです。

世界経済フォーラムの『グローバルリスク報告書2025』では、誤情報や偽情報が、異常気象や国家間の武力紛争をも上回る、世界が直面する短期的な最大リスクとして指摘されています。

こうした要因が二極化を助長し、あらゆる方面から各種機関への信頼を損ないます。 一方、建設的に異なる意見を提示するためには、議論の場や仕組みに参加する各個人の間に一定の信頼関係が築かれていることが前提となります。この点に不均衡がある場合、議論の対象となっている原則や経験、さらには出来事に対する共通理解を揺るがす可能性があります。

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個人レベルでは、個別化された理解が議論を対立させ、人間関係を分断させることがあります。また、組織レベルでは、コミュニケーションを阻害し、目的意識を分裂させます。さらに社会全体としては、分断が放置された場合に生じ得る深い溝の深刻さを、まだ十分に認識できていないのが現状です。

このことは、意見の相違を建設的なものにするために、社会全体でどのようなスキルを教え、市民機関に対する公共の信頼を再構築することで相互信頼を確立すべきかという、喫緊の課題を提起しています。

「建設的な意見の相違」とは

私が最も頻繁に耳にする質問は、対話に参加する個人にとって、「建設的な意見の相違」に必要なものは何かというものです。まず明確にしておくべきは、何がそうではないかでしょう。 建設的な意見の相違とは、複雑な感情や強い信念を排除するものではありません。

英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の哲学者、エミリー・マクターナン氏が著書『On Taking Offence(被害意識について)』で論じているように、侮辱されたと感じる感情などは、社会的、心理的に重要な機能を果たしています。意見の相違を超えた対話には、議論のために作られたアバターではなく、人間の経験全体が含まれるべきです。

議論の共通ルールや信頼の判断のすべてを、ストイックな個人に委ねるわけにはいきません。

ただし、議論はある種の心構えから始める必要もあります。これは「認識論的謙虚さ」の姿勢、つまり、自分の最も深い信念や、自身の経験に基づくものであっても、自分の意見が間違っている可能性を受け入れる姿勢です。

ここで生じる困難は、対話相手の相対的な力関係をどのように認識するかという点に起因します。もしあなたの強い信念が、特に抑圧や無力感を伴うようなアイデンティティ形成に関わる経験から生じている場合、間違っている可能性を考慮すること自体が、一種の抑圧と感じられることさえあるでしょう。

教育機関への信頼

この点において、教育機関の側にも取り組むべき課題があります。UCLには「実用的な知識」を生み出す誇り高い歴史があります。創立以来、私たちは具体的かつ即時的な影響力を持つスキルを教え続けてきました。

学部生の約半数は、専門職団体によって認定または承認されたプログラムを履修。次世代の医師、教師、弁護士を育成する役割を担うという理念のもと、2022年、同校で「Disagreeing Well(建設的な意見の相違)」キャンペーンが立ち上がりました。

この取り組みでは、学生、研究者、大学職員の知見を結集。分極化、誤情報、偽情報など、時に抽象的な課題に対する実践的なアプローチを開発しています。

これは長期的なキャンペーンの第一歩に過ぎません。人々が集まり、社会課題に関する情報に基づいた建設的な意見対立があってこそ、具体的な変化をもたらすことができるのです。

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実施されている多様な活動は刺激的で、地政学からテクノロジーまで幅広い分野での誠実な意見の相違を紹介する公開イベントシリーズや、学内外で建設的な議論を促進するオンラインリソースなどを提供しています。

また、その内容は、マーク・スティーアズ教授が率いるUCLポリシー・ラボの研究や、アフェクティブ・ブレイン・ラボ所長のターリ・シャーロット教授(認知神経科学)をはじめとする、他の同校研究者たちの研究成果に基づいています。

これは、社会的に孤立した個人が共存する社会において、共通理解と相互尊重を再構築する必要があることを示しています。議論の共通ルールや信頼の判断のすべてを、ストイックな個人に委ねるわけにはいきません。

ただし、建設的な意見の相違に必要なスキルは、学び、習得することが可能です。

習得可能なスキル

文脈の重要性を認めると同時に、このイニシアチブでは、あらゆる人が適用可能な原則を明らかにし、紛争を建設的な意見の交換へと転換する支援を行います。

第一に、相手の意見を注意深く聞き、受け入れる姿勢を示すことが必要です。対話の場では、自分の発言機会を待つばかりで、自然な議論の展開を妨げてしまうことがあまりにも多いのが現状です。真摯な傾聴と、内容を適切に確認する姿勢は、会話の参加者の自律性を尊重し、彼らが自らの語りをコントロールできるようにする上で重要な要素です。

第二に、意見の相違において、相手の専門性や経験、あるいは責任の所在を認識することが重要です。これは二つの異なる意味で、尊重に値する要素です。一つは議論の対象となっている課題そのものに関して、もう一つは相手の「実体験」や個人的な信念に関してです。

大学という多様性に富んだ環境では、様々な違いが生じます。これらの違いが意見の相違を生むこともありますが、適切にスキルを教えることができれば、建設的な意見の相違はむしろ良いことであり、時には不可欠でもあります。

例えば、医師は専門分野に関して患者よりも多くの知識を持っていますが、自分の病態を正確に説明できるのは患者のみ。効果的な診断には、医師と患者双方の視点が必要なのです。

第三に、意見の相違点が具体的にどこにあるのかを明確にし、可能な限り共通の基盤を見出すことが重要です。これはすべての違いを画一化しようとするものではなく、真に重要な点に注意を集中し、容易に解決できる事柄に不必要に惑わされないようにすることを目的としています。

第四に、適切な言葉遣いを選ぶことが理解を深める鍵となります。無意味な誇張表現や安易な批判は避けるべきでしょう。相手を侮辱し、貶めて議論に勝利しても、それは空虚な勝利に過ぎません。たとえ批判が正当であったとしてもです。

相手の立場を理解しようとする努力にはより多くの信頼を必要としますが、一般に、より建設的な対話につながるでしょう。

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共通の理解

こうしたスキルを教え、信頼関係を築くことで、次世代の学生たちは単なる受動的な対象ではなく、この取り組みの積極的なパートナーとなります。UCLでは、学生自治会が「Impartial Chars(公平な議長)」プログラムを通じてこの取り組みを主導。議長を務める学生は、アイルランド紛争における和平仲介者との対話を通じて得られた研修や専門的知見を活かし、そのスキルを学内の討論に還元しています。

この取り組みと学生たちの実践は、教育や議論のための安定した環境を築くために、他にも有効な方法が存在する可能性を示しています。

もちろん、さらなる取り組みが必要であることは言うまでもありません。UCLポリシー・ラボのレポート、『Respect Agenda(アジェンダの尊重)』が明確に示しているように、一般市民は権力者からより多くの敬意を受ける権利があると感じています。

私が効果的な意見の相違の教育と実践を提唱する際、完璧な調和を想像しているわけではありません。むしろその逆です。一人の力でより良い未来を形作ることはできません。私の見解は、特に大学という場での経験に基づいています。そこは、社会的、政治的、科学的、理論的な課題に取り組むために、異なる世代が集まる場所です。

多様性があるからこそ、意見の相違が生まれ、それが強みとなります。建設的な意見の相違を学ぶことで、私たちはイノベーションを引き出し、コミュニティを強化し、繁栄する社会を支えることができるのです。

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