持続可能な開発

気候変動適応への民間投資が拓く、9兆ドル市場の可能性

インド西ベンガル州コルカタ。浸水した道路を車と人が通っている。

インド西ベンガル州コルカタで発生した洪水被害の様子。異常気象の頻発に伴い、民間投資家は気候変動適応における重要な役割を担います。 Image: Unsplash/Dibakar Roy

De Rui Wong
Senior Vice President, Sustainability Office, GIC
Keebum Kim
Assistant Vice President, Sustainability Office, GIC
  • 気候変動関連の投資機会に関する調査は、これまで主に脱炭素化のみに焦点を当てており、同様に重要な気候変動適応の必要性が見過ごされる傾向にありました。
  • 気候変動適応は政府の責任と誤解されがちですが、異常気象などのリスクが増大する中、企業も重要な役割を担う必要があります。
  • 調査結果として、気候変動適応ソリューションへの投資機会は、 既存技術と新興技術の両方で2050年までに最大9兆ドル規模に拡大する可能性が示されています。

2024年、世界の気温が観測史上最高を記録しました。2025年もすでに新たな異常気象相次いで発生しており、気候変動適応ソリューションの必要性がかつてないほどに高まっています。

従来、企業による気候関連投資では、主に脱炭素化のみが注視され、同等に重要な気候変動適応の必要性を見過ごす傾向にありました。物理的な気候変動リスクの増大が現実のものとなり、社会のあらゆるレベルで適応策が求められている現在、適応ソリューションを提供する企業は、脱炭素を中心とした気候変動対応を補完し、かつ投資対象としての魅力を増す存在となりつつあります。

ただし、気候変動適応ソリューションは依然として投資業界において十分に研究されておらず、その重要性が十分に認識されているとは言えません。また、一部の民間投資家は、この分野が政府資金に過度に依存しているために、民間投資家には適さないと考えています。気候変動シナリオの不確実性を理由に、この分野への投資を困難と捉える向きもあります。

シンガポール政府投資公社(GIC)はベイン・アンド・カンパニーと共同で、企業投資家にとって最も関連性の高い気候変動適応ソリューションを調査し、この新たな投資機会の規模を定量化しました。調査によると、特定の気候変動適応ソリューションへの投資機会は、現在の2兆ドル規模から2050年までに最大9兆ドル規模に拡大。新興産業と成熟産業の両方において、多様な投資機会が存在する可能性があります。

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気候変動適応ソリューションの特定

気候変動適応ソリューションの領域は、極めて広範です。クライメート・ボンド・イニシアチブが策定した先駆的な「気候債権レジリエンス分類法(CBRT)」では、1,400種類以上のソリューションを特定。この複雑さに対処するため、GICは最も重要な気候変動適応ソリューションを選定し、それらの総市場規模を推計すると同時に、こうした投資機会の価値を定量化する手法を開発しました。

気候変動適応ソリューション需要規模の算出手順
気候変動適応ソリューション需要規模の算出手順 Image: Sizing the Inevitable Investment Opportunity: Climate Adaptation, GIC (2025)

まず、経済的影響が大きい5つのカテゴリーである、暴風雨、洪水、山火事、暑さストレス、水ストレスに着目し、ハザード(危害となる要因)の重要性評価を実施しました。次に、CBRTにある1,400種類以上の適応ソリューションを精査。14のカテゴリーに絞り込み、さらに投資家が検討すべき21の具体的な製品、サービスを特定しました。

また、独自に開発した「需要の気候弾性係数」を使用してモデル化を行い、地球温暖化が各種商品やサービスの需要に与える影響を分析。これにより、気候変動によって引き起こされる追加的な需要の規模、すなわち、潜在的な投資機会を評価することが可能になりました。

9兆ドル規模の投資機会

この分析から、選定された気候変動適応ソリューションのグローバルな年間売上高は、現在約1兆ドル規模であり、2050年までに4兆ドルに達すると予測されています。

この予測は、ベースケースシナリオ(国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)のSSP2-4.5シナリオ、すなわち約2.7℃上昇シナリオ)に基づいており、参照シナリオの予測値を61%上回る数値です。この結果には、地球温暖化によってもたらされる追加の収益成長2兆ドル分が反映されており、現行の業界予測では見落とされがちな要因ですが、同分析「需要の気候弾性係数」を活用することによって結果に含めることが可能となりました。

これに対応する投資機会は、現在の2兆ドルから2050年までに9兆ドルに拡大すると推定。このうち3兆ドルは、地球温暖化によって促進される追加的な成長分です。

重要な点として、異なる気候シナリオ間での推定価値変動幅は、プラスマイナス4%以内であることが確認されました。これは、どの気候シナリオが現実化したとしても、気候変動適応ソリューションの価値は安定的に推移することを示しています。つまり、投資家は気候シナリオの予測が正確でなかったとしても、自信をもってこの分野への投資判断を行うことができる、ということです。

気候変動適応ソリューションの収益予測
気候変動適応ソリューションの収益予測 Image: Sizing the Inevitable Investment Opportunity: Climate Adaptation, GIC (2025)

気候変動適応に関するテクノロジー

分析では、気候変動適応の必然的な必要性が、既存技術と新興技術の双方における成長を促進することが明らかになりました。そして実際に、これら両分野において有望なソリューションがすでに存在しています。

例えば、革新的な技術を用いて気象データを実用的な知見へと変換する、気象インテリジェンス技術があります。これには、飛行ルートの最適化や、農業分野における灌漑支援などが含まれます。気候変動がデータ分析の必要性を高めるにつれ、これらのソリューションに対する需要も増加。気象インテリジェンス分野の年間売上高は、2050年までに16倍に拡大し、400億ドルを超えると予測され、分析対象の中で最も急成長が見込まれる分野の一つです。

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また、より従来型の例としては、高強度ドア、補強屋根、構造補強材など、暴風雨に対する耐性を向上した耐風性建築部材が挙げられます。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の調査によると、暴風雨は1970年から2019年までの50年間において、グローバルな経済的損失が最も大きな気候災害要因でした。

グローバルに見た耐風性建築部材の普及率は未だ不均一ですが、建築基準の厳格化とレジリエンスに対する消費者需要の高まりによって、こうした製品に対する需要は増大し、2050年までに、現在の約400億ドルから6,500億ドルを超える水準に達すると予測されます。

気候変動適応分野は急速に進化しており、新たな科学的知見、ソリューション、基準が次々と生まれています。気候科学と投資業界の基本原理を結び付けることで、民間投資家は将来的に最も成功が見込まれる気候変動適応ソリューションに関して、より深い洞察を得ることができるでしょう。

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