FIFA女子W杯に学ぶ、ジェンダー公正への投資と女性スポーツの未来

女性スポーツの認知度、持続可能性、参加の度合いが向上しています。 Image: Image: Reuters/John Sibley
- 女性スポーツは、2023年のFIFA女子ワールドカップが約20億人の観客を集めるなど、転換点に差し掛かっています。
- ストリーミングプラットフォームが世界中で忠実かつ熱心なファン層を育成し、女性スポーツへのアクセスが、かつてないほど容易になっています。
- 一方、構造的な不平等は依然として存在します。スポーツにおけるジェンダー・パリティ(ジェンダー公正)を目指すことは、単に正しいだけでなく、賢明な選択でもあります。
2019年、私は当時6歳だったサッカー好きの娘を、フランスのニースで開催されたFIFA女子ワールドカップに連れて行きました。「なぜこんなに空席が多いの?」と尋ねる彼女に、女子スポーツの経済的課題や、市場の不備を分かりやすく説明するのは極めて難しいことでした。
逆に、2022年にロンドンで開催されたUEFA女子欧州選手権決勝戦では、87,192人の観客で満員のスタジアムで観戦。これはまったく異なる体験であり、まさに私が娘に与えたかったものです。イングランドの勝利は、さらに嬉しいボーナスでした。
私たちは、女子スポーツの転換点に立っています。ロンドンで、この変化を感じました。女性スポーツは、年を経るごとにその認知度、持続可能性、参加の度合いが向上しています。草の根レベルからエリートレベルまで、関心と需要が急増しているのです。
大規模な女子スポーツイベントは、ゴールデンタイムの地上波で取り上げられるようになりました。例えば、2023年のFIFA女子ワールドカップの視聴者は約20億人に上り、世界記録を更新。グローバルな女子スポーツの収益は、2025年に23.5億ドルに達すると予測され、前年比80%の成長が見込まれています。
同時に、ストリーミングプラットフォームが忠実で熱心なファン層を育成し、女子スポーツへのアクセスは、かつてないほど容易になりました。ユーススポーツとコミュニティスポーツへの投資により、草の根レベルでの参加も増加しています。
女子スポーツにおける構造的不平等
このモメンタムの一方で、構造的な不平等は依然として存在しています。女子スポーツに着目したスポーツ報道は、わずか15%。また、2023年時点で、国際スポーツ連盟のうち、女性がトップを務める組織は4分の1のみです。一方、草の根レベルでは、思春期に学校スポーツを辞める確率は少女が少年よりも2倍高くなっています。加えて、プロにおける給与や報酬の格差は、依然として深刻です。
なぜスポーツにおけるジェンダー平等がそれほど重要なのでしょうか。元英国人権大使の私にとって、その答えは明白です。スポーツにおけるジェンダー・パリティを目指すことは、単に正しいだけでなく、賢明な選択でもあるからです。
身体的、精神的な健康にもたらす効果ばかりでなく、若いアスリートが競技場で身につけるスキル、つまりリーダーシップ、チームワーク、自己信頼、成功と失敗の両方を上手く扱う能力は、一般社会や職場にも転用可能です。
また、自信を持った女性は、社会的、経済的な豊かさをリードする存在となります。これは、女性経営層の94%が、成長期にスポーツを経験していることからも明らかでしょう。
女性アスリートの活躍促進
では、どこから始めればよいでしょうか。第一に、女性のスポーツの可視化を一層進め、持続可能なものにする必要があります。誤解を解き、認識を変えなければなりません。
まず、スポーツ分野へのジェンダー平等のための投資が成果につながると証明することが大切です。世界経済フォーラムの『グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2025』によると、ジェンダー・パリティを達成するにはあと127年かかるとのこと。明示的な調査結果はないものの、性別による格差は、スポーツの分野ではさらに大きい可能性があります。経済全体におけるジェンダー・パリティへの投資の必要性は、すでに十分に議論されており、スポーツにおいても、この論理が当てはまらない理由はありません。
第二に、女性スポーツでは男性スポーツと同等の資金やスポンサーシップが得られず、機会と投資の平等は実現不可能だという主張に反論する必要があります。この主張は、機会均等と公平な競争環境が存在することを前提としていますが、現実は大きく異なるからです。
草の根レベルからトップチームに至るまで、男子チームは一般的に最上位と見なされ、投資、スポンサーシップ、試合日程、施設などに関する決定も、彼らを基準に行われがちです。一方で、女子スポーツが十分なスポンサーシップや投資、主要なスケジュール枠を得るためには、まず観客を増やすことが求められます。この、卵が先か、ニワトリが先かという堂々巡りの議論に終止符を打つ必要があります。資金の投入や有利なスケジュールがなければ、関心を集め、観客を惹きつけることは非常に困難です。現在、注目を集め、成功している女子スポーツの多くは、この悪循環を打ち破った競技です。
第三に、女性スポーツのエコシステムを設計する必要があります。これには、草の根レベルからエリートレベルまでの障壁の解消、離脱と参加への対応、オンラインと対面の両方におけるハラスメントの対策、施設や装備の設計が含まれます。そして、動きにくい白のショートパンツや、女性向けに設計されたスポーツシューズの必要性についても議論すべきです。
数十年にわたる不平等な投資と可視性の欠如が、格差を生み出してきました。解消するには、構造的な変化、新たな商業投資モデル、革新的なメディア戦略、そして大胆なリーダーシップが必要です。この変革はすでに進行中であり、データ量と分析を強化することによって加速が可能です。
第四に、男性と女性の公正な報酬に関する議論から逃げてはなりません。これは依然として課題である一方、進展も見られています。オーストラリアのサッカー、クリケット、テニスなどのスポーツ団体は、基本給の平等化へ移行しており、スペインの女子サッカー代表チームは、国際大会に参加する際に男子チームと同率のボーナスを受け取るようになりました。また、米国の伝説的女子テニスプレーヤー、ビリー・ジーン・キング氏をはじめとする人々の尽力により、テニス界は主要な国際大会であるグランドスラムにおいて、男女の賞金を平等にする規定を制定しました。
第五に、リーダーシップが重要です。スポーツ界を再構築する力を持つ組織と協力する必要があります。そのためには、国内および国際的なスポーツ統括団体、スポンサー、メディア、公共機関などのリーダーシップが不可欠です。オーストラリアでは、過去10年間で、過去100年よりもジェンダー・パリティに関する取り組みが進展し、同一労働同一賃金や女性の可視性という面でも大きな前進がありました。同国の女子サッカー代表チーム「マティルダス」は、格差を解消し、同国で最も人気のあるスポーツチームに変貌を遂げています。
グローバルに拡大する女子スポーツへの関心
米国では、女子バスケットボールや女子サッカーへの関心と参加が急速に高まっています。また、英国では、女子スポーツのテレビ放送が増加し、報道もバランスのとれたものになっています。主要なスポーツイベントではスタジアムが満員になり、男子の試合の観客数を奪うことなく、新しい観客層を惹きつけているのです。一方、ブラジルでは女子サッカーが台頭。特に、ベテランのマルタ選手などの成功を受けて、投資とファン層が拡大しています。
女子スポーツの静かな革命が進み、グローバルな女子スポーツ市場は、2023年の1,450億ドルから2030年には2,566.7億ドルに成長すると予測されています。男性競技の付随イベントや後付けではなく、女性スポーツが独自の位置を確立する時が来ているのです。
7月にスイスでUEFA女子欧州選手権が開催されることに伴い、期待と熱気が高まっています。100を超える国際スポーツ連盟を有する女性スポーツ界は、今こそ問うべきです。ジェンダー平等には何が必要であり、どうすれば達成することができるのでしょうか。これは、千載一遇のチャンスなのです。