成長のカギは自然との共存~テクノロジーセクターの挑戦~

ネイチャーポジティブな行動は、ビジネス上の必須要件であり、チャンスでもあります。 Image: Image: Getty Images
- 2024年の評価額が8.9兆ドルに達するテクノロジー業界は、2029年までに40%の成長が見込まれる一方、自然資源と生態系に大きく依存しています。
- 水資源のひっ迫、汚染、温室効果ガス排出、廃棄物増大、土地利用の変化による環境破壊が進むことのないよう、適切な管理が必要です。
- テクノロジーの持続可能な成長には、環境影響を軽減し、レジリエンスを構築するための積極的な戦略が不可欠です。ネイチャーポジティブな行動は、ビジネス上の必須要件であり、チャンスでもあります。
自然は、グローバル経済の基盤です。世界の国内総生産(GDP)の過半数(44兆ドル)が自然とその生態系サービスに中程度から高度に依存しており、自然保護は環境上の必須要件であるだけでなく、経済的な機会でもあります。
世界経済フォーラムの「ネイチャー・ポジティブ・トランジション」イニシアチブは、金融機関に向けた指針を作成し、都市による自然との調和と共存を支援し、企業向けのセクター戦略を開発。2030年までに自然消失を停止、逆転させるための変革的な道筋を探求しています。企業パートナーと自然環境の専門家たちが連携し、業界特有の自然への影響や依存関係を特定した上で、バリューチェーン全体における影響の低減、レジリエンスの強化、そしてネイチャーポジティブな機会の創出につなげるための優先的なアクションを提言します。
今年、同イニシアチブはオリバー・ワイマンの協力を得て、テクノロジーセクターに焦点を当てています。このセクターをネイチャーポジティブなものにすることは、極めて重要です。同セクターは経済成長とイノベーションを牽引する要であり、2024年の市場規模は8.9兆ドルに達する見込みだからです。これは、2カ国を除く世界すべての国のGDP合計を上回る額です。
例えば、予想されるAI需要の急増がさらなる成長を促進する一方、環境への圧力が高まる恐れがあります。同時に、この新たなテクノロジーが、水やエネルギーの効率化の支援、保全や生物多様性に関する取り組みの監視など、自然危機の解決に役割を果たす可能性もあるのです。
テクノロジーの自然依存
テクノロジー業界は広範で多様であり、クラウドコンピューティング、AI、半導体やハードウェアの製造など、多様な分野を含んでいます。本質的に自然と密接に関わっており、特に水資源やエネルギーの使用と深く結びついているのです。
データセンターや半導体製造といった直接的な事業活動に加えて、上流、下流のサプライチェーンにも重要な課題が存在します。例えば、銅やシリコンなどの主要鉱物の需要を支える、電力、水道などのインフラや採掘などがあります。

テクノロジーのバリューチェーン全体が、以下の重要な生態系サービスを含む自然環境に深く依存しています。
- 水資源 – テクノロジーセクターは、冷却やエネルギー生産に関して水に大きく依存します。大規模な100メガワット(MW)のデータセンターは、年間約25億リットルもの水を使用し、これはオリンピックサイズのプール1,000杯分に相当。半導体製造はさらに大量の水を使用し、大規模施設では上記の2.5~5倍の水が必要です。
- 地球規模の気候調整機能–温度に敏感であるため、冷却に必要なエネルギーと水の使用量を抑えられるよう、安定した気候が必要です。
- 浸食と洪水制御 – 鉱物資源の採掘や、エネルギー生産のための安定したインフラを確保するには、安定した地盤と洪水制御が必須です。
- 気象緩和と降雨パターン – テクノロジーのサプライチェーンの上流では、気象パターンがエネルギー生産(特に太陽光や風力などの再生可能エネルギー)に影響を与え、金属や鉱物の採掘作業を脅かす可能性があります。このため、安定した気象に中程度に依存していると言えます。

テクノロジーの環境コスト
依存関係に加え、適切に管理されない場合、以下のように自然消失に寄与する可能性があります。
- 水ストレス – データセンターの冷却、半導体製造、必要な電力供給のための熱エネルギー生成が、排水を通じて水源に影響を与え、蒸発によって地域の水資源を減少させています。鉱業の上流にある原材料採掘も大量の水を必要とするため、重要鉱物の産地の16%が高水準または極度に水がひっ迫する地域と重なります。
- 温室効果ガス排出 – データセンターや製造施設を動力源とする熱発電所は、多量の温室効果ガスを排出します。単一のデータセンターは100メガワット(MW)超の電力を必要とし、これは米国の一般家庭82,000戸以上のエネルギー需要を賄うのに十分な量です。一方、半導体製造は、ペルフルオロカーボンやハイドロフルオロカーボンなど、高い地球温暖化潜熱を有する温室効果ガスに依存しており、これらのガスの一部が大気中に放出されることがあります。
- 汚染 – 重要鉱物の採掘は、重金属、有害化学物質、粉塵の放出により土壌、水、大気を汚染し、騒音や光によって野生生物の生態系を乱す可能性があります。半導体製造プロセスでは、土壌や水を汚染する可能性のある重金属を含む廃棄物が生成され、揮発性有機化合物(VOC)を排出するほか、健康への影響が確認されているペルフルオロアルキル物質(PFAS)も一部放出されます。
- 廃棄物 – e-廃棄物(電気・電子機器廃棄物)とは、機器の寿命終了や製造プロセスから生じる副産物を指します。2022年、世界では6,200万トンを超えるe-廃棄物が発生し、そのうちリサイクルされたものは25%未満でした。毎年、米国ニューヨークのマンハッタン島を1メートル超の高さで覆う量のe-廃棄物が、世界中で埋め立てられています。
- 土地利用の変化と生態系の破壊 – データセンターや工場が建設されると、土壌の劣化や生息地の破壊が起こり、生物多様性に影響を及ぼします。テクノロジーセクターにおける金属資源や重要鉱物への依存が、こうした直接的な土地利用の変化を大幅に加速しています。

ネイチャーポジティブなビジネスがもたらす成長
現在、世界には1万1,000を超えるデータセンターが存在します。これにより、年間400億リットル以上の水が使用され、米国カリフォルニア州の消費量に相当する60ギガワット(GW)以上の電力が必要です。半導体製造にはさらに大量の水を消費し、その量は年間1.1兆リットル以上。これは、デンマークの消費量を超える量です。
この分野は、AI需要の増加、クラウドコンピューティング普及の加速、電子機器需要の急増により、今後も成長を続ける見込みであり、その市場規模は2029年までに13兆ドルを超えると予測。これは、2024年と比較して40%の成長を意味します。同時に、2030年までに、データセンター向けには年間620億リットルを超える水と140GWを超える電力、半導体製造には2035年までに2兆リットルを超える水が必要になる可能性があります。テクノロジーセクターと自然との関係がどのように進化するかは、規制や政策、新技術、消費者と企業の行動など、多様な要因に依存します。いずれにせよ、課題の規模は莫大なものになるでしょう。
しかし、幸いなことに、適切な業界リーダーシップがあれば、テクノロジーと自然の関係の未来は明るいものになる可能性があります。テクノロジー企業にとって、自然との関係を見直すことは単なる倫理的な責任にとどまらず、業界全体の成長戦略を実現するための重要な行動でもあるからです。
地域社会や地方自治体の意識が向上し、懸念が増大するにつれ、公的監視も強化されるでしょう。米国は現在、世界最大のデータセンター開発市場ですが、2023年以降、地元住民の反対により640億ドルに及ぶデータセンターのプロジェクトが中止、延期されています。
他の多くの業界と同様にテクノロジー業界においても、ネイチャーポジティブな取り組みは経営上のメリットが大きく、長期的な事業継続の基盤となるとともに、持続可能な成長を実現するカギとなるでしょう。
報告書『ネイチャーポジティブ:テクノロジーセクターの役割(Nature Positive: Role of the Tech Sector)』は2025年末に発行予定であり、同セクターが自然保護に向けた活動を主導する機会に関する追加調査も進行中です。提案および参画を希望される方は、著者までご連絡ください。
本寄稿文には、Jake Zastrow(Oliver Wyman(MMC)アソシエイト)の協力も得ています。
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