サプライチェーンと輸送

サイバーレジリエンスが、グローバル貿易の最優先課題である理由

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グローバル貿易の効率化を図るために、デジタルツールの導入が進んでいます。 Image: Unsplash

Stéphane Graber
Director General, International Federation of Freight Forwarders Associations (FIATA)
Margi Van Gogh
Head, Supply Chain and Transportation Industry, World Economic Forum
Luna Rohland
Specialist, Cyber Resilience, World Economic Forum
  • 国際輸送サービスの要である貨物輸送業者(フォワーダー)は、効率向上を目的としてデジタル化を加速していますが、これによりサイバー脅威への脆弱性も増大しています。
  • ランサムウェア攻撃は、短時間の障害でもサプライチェーンに波及し、特に中小規模のフォワーダーに大きな影響を与えることが明白です。
  • 国際貨物輸送業者協会連合会(FIATA)は、フォワーダー業界向けに実践的なガイドライン、トレーニング、ツールをグローバルに提供することにより、サイバーレジリエンスの強化をリードしています。

荷主に代わり、輸送手段の手配や通関を行うフォワーダーは、国境を越えた貨物の円滑な移動を可能にするグローバル貿易の要です。一方で、この業界は、経済の不確実性、運賃の変動、小規模で利益率の低い企業が支配する分断化された市場構造など、グローバルな特性からくる重大な課題に直面しています。

近年、書類の電子化、クラウドコンピューティング、IoT、AIなどのデジタル技術の急速な採用により、この業界は大きな変革を遂げています。これらのイノベーションにより、煩雑な紙ベースのプロセスがデジタルソリューションに置き換わることで、効率性、自動化、収益機会が向上。さらに、伝統的な手作業中心のワークフローからエンドツーエンドの制御とデータ共有を改善する自動化システムへの移行を可能にしてきました。

一方で、こうしたデジタル化には、サイバーセキュリティリスクの増大も伴います。データ漏洩、ランサムウェア攻撃、サプライチェーンの混乱などの脅威が、深刻な課題となりつつあるのです。こうしたリスクを放置した場合、デジタル化に向けた取り組みが阻害されると同時に、グローバル貿易の伸展を阻む古い非効率な方法に戻らざるを得なくなる可能性があります。そのため、サイバーセキュリティを業界の最優先課題とし、デジタルトランスフォーメーションの取り組みを持続可能かつ安全なものにすることが求められています。

グローバルサプライチェーンへの影響

2024年8月に発生した、国際総合物流企業のJASワールドワイドに対するランサムウェア攻撃は、グローバルサプライチェーンにおける国際輸送業者に対するサイバー攻撃に潜在する深刻な影響を浮き彫りにしました。同社の顧客ポータルと集中オペレーションシステムが停止したため、顧客はリアルタイムでの貨物追跡ができず、世界中で物流上の課題が発生。現地の緊急対応策が一部の影響を軽減したものの、この事象はデジタル化された貨物輸送オペレーションの脆弱性と、広範なオペレーションと財務への影響を防止するための強固なサイバーセキュリティ対策の必要性を浮き彫りにしました。

IBMの調査によると、輸送業界におけるデータ漏洩1件は、平均418万ドルの被害をもたらします。多くの中小規模フォワーダーには、その影響は壊滅的です。サイバー攻撃を受けた企業の60%が、6カ月以内に倒産しているのです。その顕著な例が、イギリス有数の非上場物流企業であるKNPロジスティクス・グループです。同社は2023年、主要システムへのランサムウェア攻撃によって財務情報を侵害され、支払不能に陥りました。この攻撃は、最終的に同社の倒産と全従業員の解雇につながりました。

喫緊な協調行動の必要性は明らかです。国際貨物輸送業者協会連合会(FIATA)など、グローバル組織は、業界特化の支援と戦略的指針の提供を強化しています。

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貨物輸送のサイバーレジリエンスにおける課題

フォワーダーは、荷主、運送業者、ブローカー、テクノロジープロバイダーといった多様なステークホルダーと連携しながら、高度に相互接続されたサプライチェーンの中で事業を展開しています。このような密接な構造は、エコシステム全体にサイバーリスクをもたらす要因となり得ます。なぜなら、ある1社のフォワーダーがセキュリティ侵害を受けた場合、その影響が物流ネットワーク全体に波及する可能性があるためです。

サイバー攻撃者は、混乱を引き起こすためにサプライチェーン上の最も脆弱な部分を標的とします。その対象となりやすいのが、特に中小規模のフォワーダーなのです。これらの企業が直面するのは、レガシーシステムの利用、セキュリティ意識の低さ、限られた予算による専門人材の不足といった課題です。こうした課題は、特にサイバーセキュリティ成熟度の低い地域において深刻であり、当該地域の企業はより高いリスクに晒されています。

FIATAは、多様な地域的文脈に応じたターゲットを絞ったガイドラインと能力向上支援を推進し、地域主体に適切なツールと知識を提供しています。

また、実践的ガイドラインを提供し、デジタルアイデンティティとブロックチェーンへの投資を通じて、FIATA電子船荷証券(eFBL)を含む譲渡可能な貿易書類のデータ整合性を保護しています。

世界経済フォーラムの発表した『グローバル・サイバーセキュリティ・アウトルック2025』は、こうした懸念が高まっており、小規模組織の35%が自社のサイバーレジリエンスが不十分だと考えていることを明らかにしました。この数値は、2022年の7倍に増加しています。

サイバーレジリエンスに必要な道筋

デジタル化が業界を変革する中、サイバーレジリエンスの優先度を上げることは極めて重要です。これには、堅固なアクセス制御、定期的なソフトウェア更新、多要素認証やエンドポイント保護への投資を含む主要なセキュリティ対策の実施などが考えられます。こうした予防措置に加え、フォワーダーは包括的なインシデント対応計画を策定し、定期的なセキュリティ監査を実施して、脆弱性を積極的に特定、対応する必要があります。

予防措置と同様に、継続的なトレーニングを通じてサイバーセキュリティ意識の高い企業風土を育むことも重要です。これにより、ベストプラクティスの定着が促進され、組織の防御力の強化につながるからです。手段としては、「サイバーセキュリティ学習ハブ」など、サイバー衛生に関する貴重なトレーニングモジュールが提供されています。

連携と情報共有の強化

フォワーダーは、高度に相互接続された輸送およびサプライチェーン・エコシステムの中核にあるため、個々の対応のみでは十分ではありません。フォワーダー、運輸業者、ブローカー、テクノロジープロバイダー、サプライヤー、業界団体、規制当局を結ぶ協働アプローチが、サイバーリスクの軽減に不可欠です。

脅威に関する情報共有のためのネットワークの構築と、サイバーセキュリティにおける連携を促進することで、新たな脅威に先んじて対応できる集団的なレジリエンスを強化すべきです。

世界経済フォーラムは、統一された喫緊の対応が必要だと認識し、「輸送およびサプライチェーン・エコシステムのサイバーレジリエンス(Cyber Resilience in Transport and Supply Chain Ecosystems)」イニシアチブを立ち上げました。同イニシアチブは、最終的に業界全体のサイバーレジリエンスを強化することを目的として、主要な官民ステークホルダーを結び付け、エコシステム内の大手プレーヤーがニッチなプレーヤーを支援する支援モデルを開発しています。この取り組みの一環として、引き続きFIATAと緊密に協力し、セクター内のサイバーレジリエンス構築に関する意識向上と知見の共有を行います。

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