中国の雇用の未来~ロボット技術の台頭と人口の変化がスキルギャップを拡大~

中国ではロボット工学のスキルがますます求められています。 Image: WorldSkills/Flickr
- 世界経済フォーラムの『仕事の未来レポート2025』によると、中国の組織の90%以上が、AIとロボット工学をビジネス変革の鍵となるテクノロジーと見なしています。
- 労働年齢人口の減少に伴い、企業が多様なスキル不足や人材確保の課題に直面する中でこの変革を実現するには、広範なリスキリングとアップスキリングが不可欠です。
- 中国では、二酸化炭素排出量削減の取り組みにより、企業の再編が進んでいます。気候技術がビッグデータ、AI、ロボット工学と重なる可能性は、新たな雇用機会を生み出す鍵となるでしょう。
世界中で設置される産業用ロボットの2台に1台は中国で稼働しています。同国は2013年からこの分野の最大市場であり、この傾向は労働年齢人口の割合が減少する人口構造の変化に沿ったものです。
この状況は雇用主の考え方に影響を及ぼしており、世界経済フォーラムの『仕事の未来レポート2025』によると、組織変革の鍵となるテクノロジーとして、雇用主の90%以上がAIを、65%がロボットを挙げています。これは、38%の雇用主が人材不足によって進展が阻まれていると指摘する中で示された結果です。
中国はこれらのトレンドすべてにおいてグローバル平均を上回っており、新素材から半導体、バイオテクノロジー、量子コンピューティングにいたるまで、数多くの他のテクノロジーによる変革の可能性を認識している点でも先行しています。
中国の雇用の未来とはどのようなものでしょうか。おそらく、テクノロジーを中心に展開されるでしょう。ロボット工学とAIによって、再生可能エネルギーや電気自動車からチップやスーパーコンピューティングまで、多様なテクノロジーが可能になります。その中心には、人の能力を経済が求める能力に合わせるための大規模なリスキリングとアップスキリング(技能向上)があります。
中国における主要な労働市場の動向
中国の雇用主が人材の確保について抱える懸念は、世界全体の傾向とさほど乖離していません。世界全体の37%の雇用主が人材不足という課題を指摘しており、これは中国の38%とほぼ同水準です。
しかし、スキルギャップに関する認識では中国が際立っています。スキルギャップを障害と見る雇用主は50%しかおらず、世界全体の63%を下回っているのです。
これは、リスキリングとアップスキリングのプログラムに対して資金投入を推進する同国政府の政策が背景にあると考えられます。中国の最新の5カ年計画(2021~25年)では、「技術スキルを備えた高品質な労働力の育成」を重点分野に掲げ、ロボット工学分野での「グローバルリーダー」を目指す目標と連動しています。
中国の歴史的に高い温室効果ガス排出量は、同国を再生可能エネルギー生産のリーダーとしての地位に押し上げました。これらの炭素削減と気候変動適応の取り組みにより、中国の企業は再編されています。炭素削減で64%、気候変動適用の取り組みで56%の雇用主が、これらのニーズが変革を促進すると回答。世界平均の47%と41%を大幅に上回っています。
これに対応する一つの方法は、ビッグデータを活用して汚染の「ホットスポット」を特定し、大気質基準の遵守を強化することです。既存の課題を解決するために新たなスキルとテクノロジーを活用するこのアプローチは、同国で雇用成長が著しく見込まれる分野の一つです。
同国におけるAIと機械学習の専門家の純雇用増加率は、グローバル平均の82%を上回っています。データアナリストと科学者の純増加率も46%であり、これもグローバル平均の41%をやや上回っています。
中国の人口動態の変化と地政学上の課題
中国の人口は3年連続で減少しており、47%の雇用主が労働年齢人口の減少が変化の障害となる可能性があると指摘しています(世界平均は40%)。
2024年の出生率は2023年比でわずかに上昇しましたが、人口増加には不十分な水準です。また、約10年前に廃止された一人っ子政策が、人口動態の長期的な逆転をもたらす可能性は低いと見られています。
現在およそ59%である労働年齢人口が、2100年には36%にまで減少すると予測されており、中国経済にとってこれほど深刻な長期的課題は他にないと言っても過言ではありません。地政学的な分断や紛争のリスクも無視できず、今後影響を受けると予想している雇用主は56%に上り、これは世界平均の34%を大きく上回っています。

中国の今後
スキルと人材のギャップを特定し、それに対処することは、同国の雇用主にとって最も喫緊の課題の一つです。しかし、政府の資金支援を受けてすでに進展が見られるようになってきています。
ロボット工学やAIなどの最先端技術で世界トップクラスの能力を持つ企業がますます増加していることも、同国を後押しすることになるでしょう。これにより、従業員が将来の雇用市場に対応するための重要な経験を得られるようになるからです。
気候関連テクノロジーは、新たな雇用創出の主要な源泉として引き続き注目される見込みです。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の2024年データによると、現在でも中国は再生可能エネルギー分野の雇用創出で世界最大手であり、グローバルな合計の46%を占めています。ビッグデータ、AI、ロボット工学など、他の主要成長分野との相乗効果によって、これらのセクターが経済に与える影響はさらに強化されるでしょう。
中国マクロ経済研究院院長の黄漢権氏は、「中国はデジタル化、インテリジェント化、グリーン転換を通じて急速な変革を遂げており、雇用構造を根本から変革すると同時に、デジタル技術、AI応用、持続可能な開発、先端製造分野において多分野にわたる人材の需要を急激に高めています」と、述べています。「この変革はスキルの陳腐化を加速させ、適応力、学習に関するアジリティ、多分野にわたる専門知識が、将来の専門家に求められる新たな競争優位性となるでしょう。一方で同時に、従来型の労働者には移行期の課題をもたらしています。レジリエンスを維持し、新たな機会を活かすため、組織は、労働力のリスキリング、アップスキリング・イニシアチブに大幅な投資を行うと同時に、柔軟な組織構造を構築する積極的な人材戦略を採用する必要があります」。
すでに就業している人材のリスキリングに加えて、教育システムも重要です。同国は、現在の地位を築いた産業経済ではなく、デジタル経済に必要なスキルに焦点を当てたものに、教育システムを再構築する必要があります。多くの組織では、採用と解雇の柔軟化や、移民法の見直しも役立つと考えられています。
各国政府と企業は協力して、このような変化を実現する必要があります。具体的には、必要なスキルを特定し、そのギャップを埋めるためのプログラムを展開することが重要です。
仕事の未来を担うための人材開発は、世界経済フォーラムの「リスキリング革命」における主要な柱です。このイニシアチブは、各国政府、企業、市民社会を結集し、教育、スキル、雇用の変革という高まる課題に対応して、急速に変化する世界のニーズに応えるものです。
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Naoko Tochibayashi and Mizuho Ota
2025年5月6日