持続可能な未来に民間資本が果たす、重要な役割とは

ネットゼロへの移行には、民間資本が不可欠です。 Image: Getty Images/iStockphoto
- プライベートマーケット(未公開市場)の投資家は、短期変動に左右されない長期資本と商業的、事業的専門知識を組み合わせることで、低炭素経済への移行に不可欠な役割を果たします。
- プライベート・エクイティ企業が資金調達の制約を取り除き、ビジネスモデルを最適化、再定義することによって、成長が迅速かつ効率的に促進され、投資先企業はよりスピーディなエネルギー移行に向けた成長を実現できるようになります。
- 成功しているプライベート・エクイティ企業は、持続可能性を投資先企業の中核的な価値提案に組み込み、将来の投資回収機会に備えて企業価値を高めています。
ネットゼロ経済への移行は、現代史上最大の投資機会の一つかもしれません。
2050年までに275兆ドルの機会が見込まれる中、プライベートマーケットは、この変革に不可欠な触媒として浮上しています。
その長期的な投資スタンス、業務に関する専門知識、戦略的ビジョンを組み合わせた独自のガバナンスモデルは、企業が持続可能性への取り組みを加速させながら新たな市場機会を捉えることのできる、理想的な環境を創出しています。
ビジネスノウハウと、利益を生み出す気候変動対応企業の拡大ニーズが融合するこの強力な潮流が、業界を再編し、先見の明のある投資家と企業に競争優位性を生み出しているのです。
ビジネス変革を通じたエネルギー転換の加速
プライベートマーケットは、バリューチェーン全体で成熟したテクノロジーと新興イノベーションに焦点を合わせた複数の投資アプローチを通じて、エネルギー転換に対応しています。
北欧のプライベート・エクイティ・ファンド、EQTのパートナーであり、元エネル社CEOのフランチェスコ・スタラーチェ氏は、テクノロジー主導型の効率化がもたらす機会と、旧来のシステムを変革する必要性を次のように強調します。
「世界が消費する一次エネルギーの約3分の2は無駄になっています。資金を投じる先を運用コストから未来のインフラ構築にシフトすることは、極めて賢明な選択でしょう」。
この視点は、他の主要投資家の見方と一致しています。世界経済フォーラムによる2024年の白書、『分断に橋をかける: プライベートマーケットと価値創出の新たな推進力(Bridging the Divide:
Private Markets and New Drivers of Value Creation)』によると、米国の投資ファンドであるTPGが「TPG Rise Climate」ファンドを設立した際、同社の経営陣は、投資先企業の成長を支援する自社ならではの価値創出ノウハウを計画的に築いていきました。
こうした戦略には、市場参入戦略の強化、価格モデルの最適化、オペレーション効率の向上が含まれます。これらはすべて、収益性の高い成長を実現し、商業的により成功した企業を生み出し、環境に配慮した取り組みの推進や、温室効果ガスの排出削減といった成果を引き出すために不可欠です。
持続可能性を核とした事業モデルの変革
財務規律と主体的な経営関与を組み合わせるプライベート・エクイティの手法により、企業は持続可能性と収益性を両立して実現することができるようになります。同氏は、自社の重視する点を次のように強調しています。
「買収後、私たちは資本制限や短期的な圧力などの制約を排除することで、協力して企業の潜在能力を最大限に引き出します。『これらの制約を排除すれば、事業で何を実現できるだろうか』と考えることが重要です」。
同様に、前述の白書では、英国のプライベート・エクイティ・ファンド、ペルミラが、利益を生み出すインパクトを同社の戦略的目標の中心に据えている点を取り上げています。同社は、約40年にわたる長期的な成長トレンドへの支援実績を有し、気候変動対応策への投資活動を拡大すると同時に、バリューチェーン全体の移行に投資するチームを構築してきました。
また、リソースとシニアアドバイザー、オペレーティングパートナー、専門の価値創造チームの専門知識を最大限に活用し、ポートフォリオ企業の経営陣による成長に向けた取り組みを支援。結果として、同社は多くの気候変動移行企業にとってのパートナーとしての地位を確立しています。
その戦略には、市場参入戦略の強化、価格モデルの最適化、効率改善の実施が含まれます。これらはすべて、持続可能性の成果を推進しながら財務成長を達成するために不可欠です。
卓越したオペレーションで持続可能性のプレミアムを活用
「アクティブ・オーナーシップ」という言葉は、EQTにおいてビジネスモデルの再考、目標に向けた取り組みの加速、長期的な価値の創造を意味します。こうしたパートナーシップの変革の可能性について、スタラーチェ氏は次のように述べています。
「私たちは同じテーブルについて、制約を排除した場合、この企業に何ができるかを想像します。そのプロセスは驚くべきストーリーを構築し、経済的パフォーマンスと持続可能性の両方を加速させるのです」。
このアプローチは、他のファンド運用者がポートフォリオ運営に持続可能性を組み込む方法とも共鳴しています。具体的には次のとおりです。
- サブスクリプションベースの収益モデルを導入し、スケールを拡大する。
- 顧客と将来の買い手が価値提案を理解できるようにブランディングを行う。
- 持続可能性を重視する市場トレンドと一致した、より利益率の高い顧客セグメントをターゲットにするマーケティングと販売戦略を策定する。
持続可能性のポジションを活用して市場価値を捕捉する。
需要側の変化がエネルギー転換を加速させ、産業部門と商業部門が脱炭素化ソリューションを大規模に採用しています。同氏は、投資の方向性を形作る電気化の役割を次のように強調します。
「テクノロジーの進化が主導し、エネルギーの最終利用形態は電気になっています。これは大きな潮流のように進みつつある重大な変化です」。
企業にとってこれは解放的な瞬間です。大きなビジョンを描き、実行に移す機会なのです。
”持続可能性を企業価値ストーリーに組み込む
プライベート・エクイティ企業は、投資先企業の中核的な事業価値に持続可能性を取り入れることで、将来のエグジット(投資回収)に向けた戦略的な体制づくりに注力します。同フォーラムの白書では、プライベート・エクイティ企業が売却の12~18カ月前から投資先の経営陣と協力し、持続可能性に関する商業面、ブランド面、オペレーション面のエビデンスを構築するプロセスが描き出されています。
この準備が効果的に実施された場合、プライベート・エクイティ企業は持続可能性に特化した投資家、持続可能性を強化したい戦略的買収企業、特定の持続可能性目標を持つ公開市場投資家など、より幅広い潜在的買い手候補を引き付けることができます。
UBSのテレース・レンネハーグ氏は、同白書で次のように指摘しています。「企業が投資銀行に対し、商業的な洞察、定量化されたビジネスケース、売上高とEBITDA(利払い・税引き前利益)の成長計画を提示し、買収側の投資家の期待を高めるような資金使途の説得力ある説明をすることができれば、信頼ある持続可能性の市場プレミアムを獲得できるでしょう」。
ネットゼロ移行に求められる緊急の行動
気候変動に関する課題を解決するには、前例のない資本と専門知識の動員が必要です。プライベートマーケットは、効果的な解決策にリソースを誘導し、魅力的なリターンを生む唯一無二の立場にあります。
経営陣にとって、持続可能性の戦略的価値を理解し、ビジネスモデル変革を支援する投資家とのパートナーシップを築くことが、これまで以上に重要になる時期にさしかかっているのです。
スタラーチェ氏は、投資家とのパートナーシップについて次のように述べています。
「プライベート・エクイティ企業は投資先企業に寄り添い、共に働き、成功につなげます。企業にとってこれは解放的な瞬間です。大きなビジョンを描き、実行に移す機会なのです」。
資産家にとって、課題はエネルギー転換への投資を行うかどうかではなく、この複雑な変革を可能とする適切な能力のあるマネージャーをどう見極めるかです。この転換をうまく乗り越えた者は、優れた財務リターンを得られるだけでなく、持続可能な経済システムの構築にも大きく貢献することになるでしょう。
エネルギー転換は環境面での必然であると同時に、世代を超える投資機会でもあります。利用可能な資本とオペレーションの卓越性、商業的イノベーションを組み合わせることで、プライベートマーケットは変革の強力なエンジンを生み出します。
持続可能なビジネスモデルに向けた変革の可能性を積極的に受け入れ、ネットゼロ経済の最前線に立つ者たちこそが、明日の勝者になるでしょう。