第四次産業革命

ロボティクスとAIが再定義する重工業

LSPセンターのマルチロボットガントリーは、デジタル設計データから直接、海洋構造物を溶接します。 Image: Odense Port/LSP

Jane Thoning Callesen
Head, TEK Communication, University of Southern Denmark
  • 重工業は最後の自動化フロンティアの一つです。
  • 造船、建設、オフショアエネルギーなど、社会の重工業の多くは、デジタル世界においてもアナログのまま残っています。
  • デンマークに新設されたセンターは、重工業向けの高度なロボティクスとデジタルソリューションの開発を目指しています。

重工業は最後の自動化フロンティアの一つとして残っています。デジタルトランスフォーメーションの時代において、造船、建設、オフショアエネルギー(海底油田や海上風力発電など)といった社会の基盤産業の多くは、依然としてアナログが主流。経済の物理的な基盤を構成するこれらの産業では、手作業中心の生産手法がとられており、変革は遅く、スケールアップや脱炭素化が困難です。

これは構造的な課題です。各国が気候目標の達成、インフラの近代化、技能労働者不足の解決に急ぐ中、大規模な物理資産を建設するためのよりスマートで効率的な方法が喫緊に必要とされています。

しかし、金融、小売、医療など多くの分野でデジタルソリューションが革命を起こす中においても、風力タービンのタワーや船舶を製造する工場では、依然として人手による溶接、吊り上げ、組み立てに依存しています。

ただ、この状況は変わりつつあります。デンマークに新設されたセンターでは、ロボティクスとAIが、未来のインフラ建設方法を再定義する可能性を示しています。

大規模かつ複雑な構造物の製造における、ロボットとデジタルのソリューション

歴史ある海運都市であるデンマークのオーデンセ港は、現在、ロボット工学におけるイノベーションのハブとして台頭しています。ここで、新たな大規模構造物生産(Large Structure Production、LSP)センターの建設が進んでいるからです。南デンマーク大学が主導する同センターは、船舶、オフショアプラットフォーム、モジュール式建物などの大規模で複雑な構造物の生産に特化した、高度なロボットソリューションとデジタルソリューションの開発を目的としています。

施設には約2,500平方メートルの研究室と作業場スペースがあり、3,700万ユーロ(約4,140米ドル)の欧州およびデンマークの資金援助、A.P. モラー財団からの寄付、および大学自身の共同資金で建設されました。また、船舶の断面や風力タービン部品のサイズに対応可能な高さ27メートルのホールが備わっています。

従来の固定された自動化設備に依存する工場とは異なり、LSPセンターでは移動可能で柔軟なシステムを開発。個々の作業だけでなく、大型かつ多様な製品に対応した生産全体の流れそのものを見直すことを最終目標としています。

「大規模構造物の生産は、その規模、複雑さ、少ない生産量のために、長年自動化することができずにいました」と、LSPセンターのリーダーであるクリスチャン・シュレッテ教授は述べています。「しかし、新しいロボットシステム、AI駆動型のプロセス計画、デジタルツイン技術により、その状況が変化し始めています」。

単なる造船所からスマートヤードへ

LSPセンターは、アカデミア、ロボット工学エンジニア、主要な産業パートナーを結び付け、スケーラブルかつ転用可能なテクノロジーを共同で開発するための総合的テストベッド兼開発環境として設計。その研究は、大型部品を移動させることのできるモバイルロボットプラットフォーム、変化するワークフローにリアルタイムで適応するインテリジェントソフトウェア、生産プロセス全体を仮想空間にマッピングするデジタルツインモデルなど、多岐にわたります。

主要な課題の一つはモビリティです。自動車製造では、製品は速度と反復性を重視した、高度に構造化された生産ラインを通過します。一方、大型構造物の製造はその規模と不動性が特徴であり、風力タービンのタワーや船舶ブロックのような部品は移動が困難です。

そのため、ロボットや工具、センサーのほうを移動可能にして、構造物の周囲で自律的に動作させる必要があります。さらに、造船所や建設現場のような生産現場の環境は、常に変化します。こうした条件下での自動化は困難ですが、適応型テクノロジーの進化によって実現可能になりつつあります。

センサーや認識システム、AIアルゴリズムを活用することで、ロボットシステムは周囲の環境を把握し、リアルタイムで判断を下し、さまざまな形状や作業に対応できるようになりました。これにデジタルツイン技術を組み合わせることで、動的な計画とフィードバックループが可能になり、変化の激しい現場において不可欠な対応力を実現します。

LSPセンターの主要な目標は、実験段階のこれらのソリューションを実用化することです。これらの技術は、海運業界、オフショアエネルギー業界の企業と密接に協力して開発されています。デンマーク国内外の企業は、低炭素経済において競争力を維持することを目指しています。

関連記事を読む

持続可能な生産の未来を拓くモデル

その影響はデンマーク一国をはるかに超えるものです。

多くの国が持続可能なインフラとエネルギーの自立を推進する中、船舶、風力発電所、インフラ、住宅など、大規模な物理的生産の需要は今後、増加していくでしょう。しかし、こうした構造物の建設方法にイノベーションが起こらなければ、スケールアップは単に非効率性と排出量の拡大を招くだけになる可能性があります。

LSPモデルは異なる道筋を提示します。自動化に柔軟性を組み込み、生産サイクル全体にデジタルツールを統合することで、大規模製造を単に生産性が高いだけでなく、持続可能かつレジリエンスの高いものにする可能性があるのです。

例えば、シミュレーション駆動型の生産計画により、材料を使用する前にテストと最適化が可能になり、廃棄物とダウンタイムを削減することができます。また、ロボットシステムは精度を向上させ、再作業を最小限に抑えます。さらに、反復作業や危険な作業を機械に移管することで、企業は職場の安全性を向上させ、労働力不足の深刻化に対応することが可能です。

こうした利点は、産業基盤に対する負荷の高い地域や、グリーン移行計画で新たなインフラの大規模な整備が求められる地域において特に重要です。このLSPセンターで開発された原則は、アジアの造船所から北海のオフショアプラットフォームまで、地域のニーズに合わせてグローバルに採用することができるでしょう。

分野横断型イノベーションの力

LSPから得られる核心的な教訓の一つは、単一の分野、または単一の主体だけでこれらの課題を解決することは不可能だということです。

同センターは、機械工学、ロボット工学、コンピュータサイエンス、建築、製造など、多様な分野の知見を融合する、学際的な協働によって機能しています。また、産業界とアカデミアのギャップを埋めることで、イノベーションが現実のニーズと制約に根ざしたものになるようにしています。

この共創モデルは、イノベーションが迅速かつ実現可能でなければならない分野において不可欠です。また、応用科学と官民連携が競争力の鍵と見なされるようになった研究開発の広範なトレンドとも一致しています。

なぜ今なのでしょうか。重要な要因はタイミングです。LSPセンターが設立されたのは、労働力不足、気候目標、デジタル成熟度といった外部条件が産業生産の再考を迫るタイミングでした。

かつては自動化が困難とされていたものが、実現可能になりつつあります。ロボットハードウェアは価格が低下すると同時に自律移動が可能となり、AIはより強力に、アクセスしやすくなっています。また、企業は実験に積極的に取り組む姿勢を示しています。そして、脱炭素化の緊急性が、旧来の方法を飛び越える機会を生み出しているのです。

課題は、大規模構造物生産の自動化が可能かどうかではありません。経済的、環境的に持続可能な方法で、自動化をどれだけ迅速に実現できるかです。

自動化の青写真

私たちの世界を形作ってきた重工業の変革は、決して簡単なことではありません。しかし、的を絞ったイノベーション、分野を超えた協力、そして「ものづくり」のあり方を見直す姿勢があれば、進むべき道は次第に明らかになります。

オーデンセのLSPセンターは、単なる施設ではなく、自動化が難しいとされてきた分野に自動化を導入するための新たなモデルを提示しています。これは、過去の産業を未来のニーズに応える形へと進化させるための青写真とも言えるでしょう。

より賢く、より速く、より環境に配慮したものづくりが世界中で求められる中、LSPのような取り組みは、野心と協働が結び付いたときに何が可能になるのかを示しています。そして、最も古く、最も重要な産業にデジタル技術を適用することで、私たちは新たな未来を切り拓くことができるのです。

Loading...
このトピックに関する最新情報をお見逃しなく

無料アカウントを作成し、パーソナライズされたコンテンツコレクション(最新の出版物や分析が掲載)にアクセスしてください。

会員登録(無料)

ライセンスと転載

世界経済フォーラムの記事は、Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International Public Licenseに基づき、利用規約に従って転載することができます。

この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。

最新の情報をお届けします:

エンジニアリングと建設

関連トピック:
第四次産業革命新興テクノロジーマニュファクチャリングとバリューチェーン
シェアする:
大きな絵
調さしモニターする エンジニアリングと建設 は、経済、産業、グローバルな問題に影響を与えています。
World Economic Forum logo

アジェンダ ウィークリー

グローバル・アジェンダとなる、重要な課題のウィークリー・アップデート

今すぐ登録する

Future Farming in India: A Playbook for Scaling Artificial Intelligence in Agriculture

Autonomous Vehicles: Timeline and Roadmap Ahead

世界経済フォーラムについて

エンゲージメント

  • サインイン
  • パートナー(組織)について
  • 参加する(個人、組織)
  • プレスリリース登録
  • ニュースレター購読
  • 連絡先 (英語のみ)

リンク

言語

プライバシーポリシーと利用規約

サイトマップ

© 2025 世界経済フォーラム