ウェルビーイングとメンタルヘルス

都市計画で生み出す、アクティブなライフスタイル

発行 · 更新

都市の自転車インフラは、健康に良い影響を与えます。 Image: REUTERS/Fabian Bimmer

Anu Devi
Lead, G20 Global Smart Cities Alliance, Urban Transformation, World Economic Forum
Federica Alberti
Director, Wellness Foundation, Technogym
  • 非感染性疾患が、毎年何千万人もの命を奪っています。
  • 健康を重視したスマートな都市設計がこの数を減らすことができるというエビデンスが増えてきています。
  • イタリアとデンマークの事例は、都市計画が疾患を減らし、一般的な健康状態を改善する方法を示しています。

私たちの生活空間や環境を意図的に設計することは、健康アウトカムに大きな影響を与えます。この重要性を理解するためには、まず慢性疾患の性質を理解する必要があります。心血管疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病などの非感染性疾患(NCD)が、世界における主な死亡原因になっているからです。

2021年には、世界中で4,300万人がNCDにより命を落としました。これは新型コロナウイルス感染症のパンデミック以外で死亡した人数の75%に相当します。70歳未満の早期死亡者は1,800万人に上り早期死亡の82%は低所得国と中所得国で発生。さらに、NCDは長期にわたる健康状態の悪化と生活の質の低下を引き起こします。

現在の傾向が続けば、NCDの経済的負担は2030年までに47兆ドルに達し、医療費の増加と生産性低下を通じて経済発展を阻害し、貧困を永続的なものにする可能性があります。

NCDの増加という課題に対処するためには、環境の形成方法を見直し、より健康的なアウトカムを促進する介入策を実施することが不可欠です。NCDは運動不足、不健康な食生活、大気汚染などの行動的、環境的リスク要因と関連しているため、都市空間に設計段階で予防措置を組み込むことで、健康的な生活が当たり前になるようにしていくことができます。

関連記事を読む

移動を促す都市設計

まず、大規模に移動と運動を促進する場所の創造と改修は不可欠です。自転車や歩行者向けのインフラが充実した都市地域は、人々が運動を無理なく日課に組み込むことを促します。

自転車インフラの整備は、肥満率や高血圧の低下と関連しています。また、つながり合う路地、多くの公園、アクセスしやすい公共交通機関のある歩行者フレンドリーな地域の住民は、推奨される身体活動ガイドラインの最大60%を達成しています。

デンマークのコペンハーゲンでは、通勤や通学の49%に自転車が利用されており、住民は毎日推定144万キロメートルを自転車で移動します。自転車に優しい都市設計として、静かな道路、色分けされた自転車専用道、街路樹、混雑した地域での自転車通行帯などを整備。自動車に速度制限を課し、裏道をつないで多数のレクリエーションルートを創出することで、自転車の利用と人々の運動を実用的で機能的なものにしています。

また、イタリアのロマーニャ地域には約110万人が居住し、「ウェルネス・バレー」プロジェクトをリードしています。マルチステークホルダーによるこのイニシアチブは、社会的イノベーションモデルを通じて慢性的な健康リスクに対応し、運動促進のための予防的介入策の設計を実施。例えば、リーミニ地区では、海岸線を歩行者と自転車に優しい空間に改造し、自動車通行禁止区域を設けました。この地域の成人は、イタリア全体に比べて10%活動的です。さらに、住民の23%が毎日歩行または自転車を利用しており、全国平均である10%を大きく上回っています。

これらのイニシアチブが非伝染性疾患(NCD)やウェルビーイング(幸福)に与える正確な影響を把握し、スケーラビリティのための成功要因や指標を特定するためには、さらなるデータが必要です。しかし、既存のエビデンスは正しい方向に向かっていることを示しています。

10カ国14都市を対象とした調査では、活動に適した地域に住む人々は、週に68~89分多く運動していることが判明しました。別の調査では、歩行者優先の地域に住む人は、平均して肥満率が低いことが判明。歩行者が優先されている地域では43%、優先されていない地域では53%でした。

自然を考慮した都市設計

自然を考慮した都市空間の設計も不可欠です。都市の緑地は、身体活動の促進、ストレスの軽減、社会的交流の促進など、複数の健康効果をもたらします。都市における緑地の影響は様々ですが、汚染物質をフィルタリングし、酸素を生産することで空気の質を改善し、呼吸器に関連したNCDのリスクを低減する効果もあります。

また、自然とのふれあいは、メンタル障害の緩和、認知機能の向上、生活ストレスの緩和に役立ちます。例えば、4~6歳の子供を緑地で遊ばせることで、視覚認識と記憶力が向上し、多動性が軽減されます。さらに、緑の少ない地域から緑の多い地域に移住した人は、メンタルヘルスが改善されることが分かっています。

デザインを通じて自然を取り入れる都市もあります。シンガポールは、統合された公園や屋上緑地を備え、都市計画が屋外活動を支援する一例を示しています。同様に、米国ニューヨーク市の空中庭園、ハイラインは、解体から救われた歴史的な貨物鉄道線路の上に建設されました。再設計の際に地元の野生植物を復活させた庭園が組み込まれ、現在では歩行、社交、生物多様性の体験ができる緑地を提供しています。

ハイラインと下部の歩道における比較研究では、健康に悪影響を及ぼす大気汚染と騒音汚染において、37%の有意差が確認されました。ハイラインを利用する人は、PM2.5や騒音汚染などの有害物質への曝露が少なくなっているのです。

イタリアの「ウェルネス・バレー」プロジェクトでは、主要な自治体が都市公園、植物園、整備された緑地、屋外スポーツエリアなど、ほぼすべての都市緑地を住民が利用できるようにしています。例えば、チェゼーナ市の緑地の92%は利用可能であり、その美観だけではなく、人々の日常生活において重要な役割を果たしています。

健康影響データが最重要

健康影響データの測定は、都市計画においてまだ標準的な慣行ではありません。健康とウェルビーイングへの直接的、間接的な影響に関する事実データの収集は、都市計画が公衆衛生に与える影響を理解するための鍵となるでしょう。

影響データを体系的に収集、分析することで、都市計画プロジェクトは、移動のための場所と自然の設計とウェルビーイングとの相関関係を特定することができます。このエビデンスに基づくアプローチは、情報に基づいた意思決定を支援し、戦略やプロジェクトの優先順位付けを支援するとともに、健康利益を最大化する都市設計を可能にし、社会的、経済的な影響も及ぼします。また、そのデータは、ポジティブな影響を拡大するための解決策に投資やリソースを適切に配分する際に役立ちます。

今後の道筋

物理的環境を意図的に設計することには、健康アウトカムを形成する大きな可能性があります。都市計画と予防措置を通じて、NCDの行動的、環境的リスク要因を大規模に解決することで、都市はより健康な未来への道を拓くことができます。

これには、都市計画を健康を第一に再考し、都市を活用することが不可欠です。都市空間を、歩行や自転車利用、自然とのふれあいが当たり前のものとなるように変革するのです。

都市設計の優先順位付け、協働の促進、健康アウトカムを向上させる介入への投資を急ぐ必要があります。これにより、人々の健康をグローバルに改善し、慢性疾患の経済的、社会的負担を軽減できるでしょう。

Loading...
シェアする:
コンテンツ
移動を促す都市設計自然を考慮した都市設計健康影響データが最重要今後の道筋

ポジティブな未来を想像することが、変革を生む理由とは

Fredy Vargas Lama

2025年4月4日

「注意力を取り戻す」には~週に一度のデジタル・デトックスが必要な理由を専門家が解説~

世界経済フォーラムについて

エンゲージメント

  • サインイン
  • パートナー(組織)について
  • 参加する(個人、組織)
  • プレスリリース登録
  • ニュースレター購読
  • 連絡先 (英語のみ)

リンク

言語

プライバシーポリシーと利用規約

サイトマップ

© 2025 世界経済フォーラム