集団的社会イノベーションの力で、複雑なグローバル課題に取り組む

集団的社会イノベーションは、より公平かつ持続可能な未来を創造することを目指します。 Image: StriveTogether
Sophia Otoo
Programme and Community Lead, Schwab Foundation for Social Entrepreneurship, World Economic ForumCynthia Rayner
Adjunct Faculty, Bertha Centre for Social Innovation, University of Cape Town Graduate School of Business- 歴史を通じて、人々を結びつけ、課題を解決し、レジリエンスを高め、変革をもたらすために集団的なアプローチが活用されてきました。
- しかし、世界が複雑さを増す課題に直面する中、社会的課題に集団で取り組む新たな方法が求められています。
- 集団的社会イノベーションは、大規模な社会的影響をもたらし、将来の世代にとってより公平かつ持続可能な未来を創出する可能性を秘めています。
運動や相互扶助、連携の構築など、歴史上、人々は集団的なアプローチを通じて社会変革を創出し、維持してきました。この取り組みは、個人の力だけでは解決できない複雑な課題に対応することができます。集団的なアプローチでは、多様なグループが結集し、知識を共有し、解決策を共創し、科学的根拠に基づく政策を提唱し、データや資源、資金を統合することができるからです。
しかし、世界が直面している急速な経済、テクノロジー、地政学、環境、社会の変化を考えると、集団的な取り組みのあり方を再考する必要があります。こうした課題に対応するには、単なる製品やサービス、提供モデルの枠を超え、人々が協力して変革を起こす方法そのものを変えていく必要があるのです。
集団的社会イノベーションの力
集団的社会イノベーションは、大規模な社会的インパクトの基盤となり、グループや組織が広範囲に影響を及ぼすことを可能にします。シュワブ財団の新しいレポート『The Future is Collective:Advancing Collective Social Innovation to Address Society’s Biggest Challenges(未来は集団的に: 社会の最大の課題に取り組むための集団的社会イノベーションの推進)』では、集団的社会イノベーションに取り組む組織が、どのように公平かつ持続可能なシステムを構築しているかを示しています。
集団的社会イノベーションには、次の3つの重要な利点があります。
1. 共有ナラティブの構築
集団的社会イノベーションは、これまで協力したことのない多様なグループを結びつけ、役割の整合性を持たせ、長期的な協働を可能にする共有ナラティブを構築します。これらの共有ナラティブにより、参加者が共通の目的を見出すことができ、同時に目標やアプローチの柔軟性も確保できます。
例えば、世界最大の先住民族による保護活動「アマゾン・セイクリッド・ヘッドウォーターズ・アライアンス」は、それまで分断されていた30の先住民族を結集。地球の水循環を維持するために不可欠な、8,600万エーカーに及ぶ生物文化的に豊かな熱帯雨林を保護するための生物地域計画を策定しました。
また、米国の非営利団体「コミュニティ・ソリューションズ」は、世界約250の地域社会と協力し、ホームレスに関する課題の解決に取り組んでいます。彼らの活動は、「ホームレスという課題は解決できない」という支配的な考えを、「適切な戦略と指標を共有しながら取り組むことで解決可能である」という新たなナラティブへと転換することを目指しています。
2. 資源の統合と分配
集団的社会イノベーションは、多様なステークホルダー間の新たな関係や関与を促進し、パートナー、資金提供者、投資家、政策立案者の協力を引き出します。特に官民連携を促進することで、断片化を防ぎ、複雑な課題を解決するためのアイデアや資源を最大限に活用できます。
例えば、「ファイナンシング・アライアンス・フォー・ヘルス」は、各国政府、ドナー、企業、地域社会を結びつけ、アフリカのプライマリ・ヘルスケアおよび地域医療システムのために約6億6,000万ドルの資金を調達しました。
また、ドイツの非営利団体「プロジェクトトゥギャザー」は、ドイツ政府と企業を結び、集団的アクションプロジェクトの資金を取りまとめています。2024年には、民主主義の促進、難民の統合、持続可能な食と農業の取り組みに4,500万ユーロの資金を提供しました。
3. 主体性の向上と地域の知識の活用
集団的社会イノベーションは、現場に近いリーダーシップを重視し、地域社会の当事者を変革プロセスに組み込むことに重点を置いています。地域社会にいる当事者を巻き込み、すべての段階で彼らを関与させることで、ソーシャル・イノベーターの主体性を強化して、解決策を自らが推進する力を高めることができます。このアプローチは、固定化された権力構造を変革し、地域社会のネットワークを育むことによって、持続的な変化を生み出します。
その顕著な例として、インドの公立学校の改善を目指す民衆教育運動、「シクシャグラハ」があります。この運動はマルチステークホルダーを結集し、地域や学区レベルの集合体を形成して、数万人の学校リーダーのアイデアと参加を活用。74の学区で小規模な改善を実現しています。
また、カナダのタマラック・コミュニティ・エンゲージメント研究所は、集団による社会変革がどのようにして機関を構築できるかを示すもう一つの例です。この500の自治体、180の地域協同組合のネットワークは、地域に密着した独自の手法を展開し、全国的な貧困撲滅に取り組んでいます。
未来は集団の中にある
集団的アプローチは新しいものではありません。しかし、近年、社会課題の規模と複雑性は飛躍的に増大しており、もはや、孤立した組織やグループ、機関の取り組みだけでは、これらの課題に対応することは不可能です。解決策は、セクター、専門分野、地域社会の交差する点で見つけることができるでしょう。
深刻な断片化と分断が進む現代において、集団的社会イノベーションは、包摂的かつ持続可能な解決策への道を提供します。これは単なる代替アプローチではなく、複雑かつ相互に関連する世界において不可欠な要素です。協働の力を認識し、集団的行動を可能にする仕組みに投資することで、より公平かつレジリエンスの高い、相互につながった世界を築くことができます。
もはや、孤立した取り組みの時代は終わりました。未来は集団の中にあるのです。
本寄稿文にはフランソワ・ボニチ氏(シュワブ財団社会起業家部門ディレクター)の協力を得ています。