世界的なデータセンターの「ゴールドラッシュ」、その現状とは

カザフスタンのデータセンターで働く従業員。 Image: Reuters/Pavel Mikheyev
- AIの進化によりデータセンターの需要が高まり、それに伴ってデータセンターの数も急速に増えています。
- データセンターは単なるデジタルインフラではなく、高価値の投資資産でもあります。
- 同セクターの将来的な成長に対する潜在的な障壁として、エネルギー消費、規制の複雑さ、そして地政学的な緊張が挙げられます。
今、この寄稿文を読んでいるということは、画面上の文字が、ほんの一瞬の間に地球の裏側にあるデータセンターから何千キロもの光ファイバーや海底ケーブルを通り、画面に届いていることを意味します。映画のストリーミングやクラウドストレージを使用し、AIとの会話する度に、データは「データセンター」と呼ばれる巨大かつエネルギー集約型のデジタル倉庫で保存・処理・配信されています。
この目に見えない「巨人」とも言えるデータセンターは、インターネットとデジタル経済の屋台骨であり、その役割はますます拡大しています。眠ることのないデジタル世界の進化に合わせ、データセンターの需要は急増。それに伴い、環境面や規制面での新たな課題も浮上しています。
データセンターとは何か
データセンターとは、私たちが日々使用するデータを保存・処理・送信する、コンピューターサーバーを収容する物理的な施設を指します。商品の組み立てや保管を行う倉庫のデジタル版と考えるとわかりやすいかもしれません。ただし、ここで扱うのは物理的なモノではなく、データであり、その管理と配信が行われています。
こうした施設には、何千台もの高性能マシンが設置されており、24時間365日、冷却された環境で稼働し続けています。中には、用務員が使う物置ほどの小さなものもありますが、今ではショッピングモール並みに大きなものも珍しくありません。最大規模の「ハイパースケール・データセンター」となると、フルサイズのサッカー場13面分にも相当する広さになります。その隅々までサーバーが並び、何百万人もの人々が同時に利用するクラウドプラットフォームを支えているのです。
かつては、多くの組織が自社の建物内にある空調完備のサーバールームで、データをオンサイト(社内)で管理していました。一方、デジタルの需要拡大とともに、信頼性、安全性、拡張性がより重視されるようになり、企業はより大容量のデータ処理に対応可能な、より安価かつ専門的な外部施設への移行を進めるようになりました。
データへの世界的な渇望
データセンターは、デジタル・エコノミーの爆発的な成長により、前例のないペースで拡大しています。現在、世界のデータセンター業界は2,427.2億ドル規模と推定されており、2032年までに5,840億ドル以上に倍増すると予測されています。Amazon、Google、Microsoft、Metaといったテック系大企業が先頭に立ち、ハイパースケール・データセンターの数は約5年ごとに倍増しています。
これらの施設は、世界のインターネットトラフィック(インターネットを通じて送受信される情報)の95%以上を処理していると推定され、数十億人のユーザーにリアルタイムの接続を提供しています。また、データセンターは経済的競争力だけでなく、国家安全保障にも欠かせない重要なインフラとなっており、各国政府はデータの主権と管理をますます優先するようになっています。

データセンターは世界的に増加しているものの、その大部分は先進国に集中しています。アメリカ合衆国だけで世界のデータセンターの45%以上を占めており、その大部分はバージニア州北部にあるワシントン・ダレス空港近くに集積し、「Data Center Alley(データセンター・アレイ)」として知られています。ドイツとイギリスは、主要なハブとしてアメリカの後に続いています。
一方、インド、ブラジル、ケニア、UAE、シンガポールなどの新興市場が投資を加速し、地域的なハブとしての地位を確立しようとしており、こうした状況は変わりつつあります。
この急増を促しているのは、AIの台頭です。AIは従来のアプリケーションよりも遥かに多くのコンピューターパワーを必要とします。GPT-4のような大規模なAIモデルのトレーニングには170万キロワット時以上の電力を消費し、これは約160軒のアメリカの家庭の年間平均エネルギー使用量に相当します。そのため、数千台の高性能GPUが何週間にもわたって稼働し続けなければなりません。
次世代AIシステムの膨大な計算ニーズに応えるため、企業はAI専用のスーパーコンピューターデータセンターを建設しています。その例として、Amazonのプロジェクト・レーニアやルイジアナ州にあるMetaの100億ドル規模のAIハブなどが挙げられます。クラウドの導入拡大、自動化、エッジコンピューティング、AIの融合が進む中、強力かつ知的で、持続可能なデータセンターの需要は今後さらに加速することが予想されます。
データセンターの「ゴールドラッシュ」
デジタル・エコノミーが成長し続ける中、データセンターは世界的な投資家の間で注目の的となっています。世界中の経済圏が「グリーンフィールド」、つまり「新設の」データセンタープロジェクトを誘致しようと競い合い、これらを未来の経済成長の基盤と見なしています。シンガポール、サウジアラビア、アイルランド、ケニアなど、各国政府はデータセンターの外国直接投資(FDI)の主要な目的地として自国を位置づけ、税制優遇措置、迅速な許可手続き、専用インフラゾーンなどを提供しています。
なぜこのようなデータセンターへの「ラッシュ(殺到)」が起こっているのでしょうか。データセンターは単なるデジタルインフラではなく、イノベーションエコシステムを支え、高度なスキルが必要な雇用を創出し、デジタルレジリエンスを向上させる高価値な資産です。地域的およびハイパースケールのデータセンターを誘致することは、クラウドサービス、フィンテック、eコマース、AIなど、補完的な産業への投資を呼び込む手助けとなり、産業全体の競争力を高めることができます。多くの経済圏にとって、これらのデジタルインフラプロジェクトは、国家のデジタルトランスフォーメーションにおけるビジョンの柱と見なされています。デジタル経済への投資の増加は、資本だけでなく、技術、ノウハウ、雇用をもたらすのです。
拡大における課題
データセンターの需要が急増し、世界中で投資誘致に対する関心が高まる中、その拡大を遅らせる可能性のある、規制、環境、インフラに関する課題が増えています。最も差し迫った懸念の一つは、エネルギー消費です。現在、データセンターは世界の電力使用量の1〜1.5%を占めており、AIやクラウドサービスの普及に伴い、その割合は急増すると予測されています。ハイパースケールデータセンターのオペレーターは、再生可能エネルギーや液体冷却や水を使わない革新的な冷却技術への投資を行う一方、規制当局や地方自治体からは、長期的な持続可能性とカーボンニュートラルの達成を求める圧力が高まっています。一部の市場では、電力網への負荷や環境問題を理由に、新たなデータセンターの承認が停止されているのが現状です。
もう1つの大きな問題は、規制の複雑さです。データ主権に関する要件の増加に加え、EUの一般データ保護規則(GDPR)や中国のサイバーセキュリティ法などの越境データフローの制限が、規制の枠組みを断片化させています。また、企業は自国の境界内でデータを保存・処理することを余儀なくされているため、より効率的かつ安価なグローバルデータセンターの活用が制限され、コストの増大やデータのサイロ化を引き起こしています。
同時に、データセンターへの投資は、ライセンス取得や許可の遅延、厳格な投資審査の手続き、不確定な外国投資規則など、官僚的な手続きによっても遅れる可能性があります。こうした課題により、業界の成長がさらに複雑化します。
また、データセンター業界が、地政学的な貿易摩擦の影響を受けることも増えています。超伝導体、光ファイバー、先進的なコンピュータハードウェアといった重要な部品の供給とアクセスは、戦略的な貿易課題や国家安全保障課題となり、輸出規制や産業政策、供給網の混乱の影響を受けています。
そのため、データセンターの需要は世界的に増加しているものの、大規模な建設と運営に対する障壁はますます複雑化しています。こうした状況への対処には、経済圏がその潜在能力を最大限に活用できるようにする、賢明かつ調整された政策対応が必要です。
会話に参加する
長年にわたる官民連携プラットフォームとしてのわたしたちの経験は、複雑な世界的課題における進展には、適切な人々が同じテーブルに集まることが重要だと教えてくれました。そのため、私たちは、政策立案者や投資機関とともに、データセンターのバリューチェーン全体から思考リーダーを集め、新たな目的を持つコミュニティを形成しています。
その目的とは、デジタルインフラの未来を形作る貿易、投資、規制の課題に関し、官民のステークホルダーが協力できる場を作ることです。このコミュニティは、重要な障壁を特定し、実践的な解決策を共有し、持続可能なデータセンターの成長を支えるために必要な環境を整える手助けをします。もし、技術、インフラ、政策、投資など、データセンターの分野に関わっているのであれば、ぜひ会話に参加してください。次に進むべき方向を共に形作りましょう。
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Robert Opp and Keyzom Ngodup Massally
2025年4月11日