AIはSTEMのジェンダーギャップを解消できるか〜データが示す現実〜

STEM分野のジェンダーギャップを縮小するには、これまで以上に強力な推進力が必要です。 Image: Unsplash/ThisIsEngineering
- 科学・技術・工学・数学(STEM)分野への女性の参入を促進する取り組みが継続的に行われているにもかかわらず、特に上級職において同分野での女性の割合は依然として低いのが現状です。
- 世界経済フォーラムとLinkedInが発表した新たな白書は、AIを活用した職場の変革がジェンダーギャップをさらに拡大させる可能性を警告しています。
- 一方、この変革により、雇用者は女性のテクノロジースキル取得を促し、人材を活用できる機会を得ることができます。
人工知能(AI)は労働の世界を変革しており、人々の生産性向上や新たな雇用の創出といった喫緊の経済課題の解決が期待されています。
AIの専門家に対する需要が高まる中、雇用主はAIの導入を加速させるために、可能な限り多様な人材を活用したいと考えるかもしれません。一方、世界経済フォーラムの調査が明らかにしたように、非STEM分野における女性の割合が47%を超えているにもかかわらず、STEM分野における女性の割合はわずか28%強。さらに、STEM分野の学位取得者の3分の1以上が女性である一方、STEM分野の女性経営幹部の割合はわずか12%程度にとどまっています。
世界経済フォーラムとLinkedInが共同で発表した白書「Gender Parity in the Intelligent Age(インテリジェント時代のジェンダー・パリティ(ジェンダー公正))」によると、AIはSTEM分野におけるジェンダーギャップを解消するどころか、むしろ拡大させる可能性を指摘。同白書では、この傾向を逆転させる対策を模索しています。

STEM分野におけるジェンダーギャップの根深さ
技術職におけるジェンダーギャップは縮小してきましたが、女性が取り残されないようにするためには、さらに多くの取り組みが必要です。「グローバル・ジェンダーギャップ・レポート2024」によると、STEM分野における女性の割合は28.2%に過ぎず、依然として3割未満にとどまっています。
重要な要因の一つは、これまで以上に多くの女性がSTEM分野を卒業し、技術系のキャリアに進んでいるものの、時間が経つにつれて多くの女性がそのキャリアから離れてしまうことです。この白書では、LinkedInの調査を引用し、2017年にSTEM分野を卒業した35.5%のうち、1年後もSTEM職に就いていた女性はわずか29.6%だったと指摘。その後の年でも、離職率は同様の傾向が続いています。
さらに、キャリアの上昇に伴い女性の割合が減少する「drop to the top(昇進による減少)」現象も顕著です。一般的に、組織内で昇進するにつれて女性の割合は減少しますが、特にSTEM業界ではその傾向が顕著です。STEM分野では、約4分の1の女性(24.4%)が管理職に就いているものの、経営陣に到達するのはわずか12.2%です。
ジェネレーティブAIにより女性が取り残される可能性
AI主導の経済における女性の将来には、懸念が残ります。
同白書によると、AIは一部の職業を強化する一方、他の職業を混乱させ、場合によっては消滅させる可能性があります。(特短期的にはAIの影響を受けにくい、特定のスキルを伴う職種もあります。)
LinkedInの米国におけるデータは、男性はAIにより強化される職種に就く傾向があり、その仕事を維持する可能性が高い(男性54% vs 女性46%)ことを示しています。一方、女性はAIにより置き換えられるリスクの高い職種に従事する割合が高くなっています(女性57% vs 男性43%)。
また、AIやテクノロジーの移行に対する男女の意識の違いも明らかになっています。世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ調査によると、自分の仕事に求められるスキルが今後5年間で大きく変わると予想している男性は61%いるのに対し、女性は54%。さらに、生成AIが自身の職業に与える影響についての認識も、男性と比較して女性が低い(女性62% vs 男性68%)ことが示されています。加えて、LinkedInのデータでは、AIを積極的に活用しようとする意欲も男性(40%)より女性(34%)の方が低いことが明らかになっています。
スキリングとリスキリングの重要性
一方、同白書は、生成AIやその他のテクノロジー関連スキルに対する膨大な需要に対応するため、こうした意識が急速に変化していることも指摘しています。
ランスタッドの「ワークモニター2025」レポートによると、世界の労働者の40%がAIを学ぶことを最優先すべきトップ3の一つだと考えており、前年の29%から大幅に増加。男性(44%)の方が女性(36%)よりもAIスキルの習得を重視しているものの、すでに習得しているテクノロジーやAIスキルに対する自信の割合は、男女でそれほど差がありません(男性73% vs. 女性69%)。
LinkedInのデータもまた、この傾向を裏付けています。AIエンジニアリングスキルをプロフィールに記載している女性の割合は、2018年の23.5%から2025年には29.4%に増加。LinkedInの調査では、75カ国の調査対象国のうち、74カ国でこの傾向が示されました。
人材プール拡大のチャンス
STEM分野のジェンダー格差をさらに縮小するには、これまで以上に大きな推進力が必要です。AI分野の人材が不足している現在、生成AIの急速な進化は、企業がこれまで見過ごしてきた、女性などの人材を積極的に採用することにつながるかもしれません。
この変革は、雇用可能な人材の半分を逃すのではなく、企業がAIを中心に先行者利益を築くことを可能にします。政策立案者も、経済的・社会的変革の道を切り開き、成長を生み出し、誰も取り残されないようにする役割を果たすことができます。
ジェンダーとAIに関する白書は、同フォーラムのニューエコノミー・アンド・ソサエティ・センターが主催する「Global Gender Parity Sprint 2030(グローバル・ジェンダー・パリティ・スプリント2030)」の一環として発表されました。同センターが目指すのは、 Gender Parity Accelerators(ジェンダーパリティ・アクセラレーター)を通じ、世界中で労働力参加、賃金、リーダーシップにおけるジェンダーギャップを解消すること。これまでに、100万人以上の女性が経済的な機会にアクセスできるよう支援し、ジェンダー・パリティの障壁に取り組むために2,400万ドル超を動員しています。
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Thomas Alexander Selby and Lisa Chamberlain
2025年3月27日