持続可能な開発

分断された世界における、開発援助の5つの未来

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グローバル開発援助は大きな変革期を迎えています。 Image: REUTERS/Feisal Omar (SOMALIA - Tags: SOCIETY POVERTY)

Robert Muggah
Co-founder, SecDev Group and Co-founder, Igarapé Institute
Jago Salmon
Principal Fellow, ODI Global
  • グローバル開発セクターは深刻な変革の渦中にあり、旧来の正常な状態への回帰は一層困難なものとなっています。
  • 開発援助の未来は、5つの主要なトレンドが交差し、融合する形で進展する可能性が最も高いと見られます。
  • こうした変化に適応するには、グローバル開発援助に、戦略的な柔軟性と新たな形の連携が必要です。

長年、西側諸国のドナーに依存してきたグローバル開発セクターは、公的な開発援助の大幅かつ急激な削減に直面しています。

開発援助の危機は、数万人に及ぶ労働者やサービスの受益者に影響を及ぼすだけでなく、食料安全保障、貧困削減、医療と教育の提供、紛争予防、平和維持といった分野にも連鎖的な打撃をもたらしています。

この劇的な変化は、単なる資金不足を超えて、「共通の目的」の危機を意味します。第二次世界大戦後に紛争と貧困の防波堤として構築された国際援助の枠組みは、ナショナリズム、財政緊縮、地政学的対立の圧力の下で機能不全に陥っているのです。

ルールに基づいた多国間主義、持続可能な平和へのコミットメント、グローバルな連帯を柱とする戦後のリベラルな秩序は、取引主義的な外交と地政学的力の誇示へと置き換えられつつあります。開発協力は、漸進的な改革ではなく「断絶」の段階に突入しています。

新たなアクター、規範、メカニズムが援助の未来を形作る、より複雑で多極的な秩序が台頭しているのです。

結果は不透明ながら、5つの主要なシナリオが浮かび上がっています。これらのシナリオはいずれかが成立すれば他方が成立しない性質のものではありません。実際には複数の未来がパッチワーク的に同時進行する可能性が高いでしょう。

シナリオ1:崩壊と漂流

最も悲観的なシナリオは、西側諸国は引き続きグローバル開発から撤退するというものです。

現在、国連機関では資金不足が深刻化。国際連合人道問題調整事務所(OCHA)は今年、職員の20%以上を削減する予定です。かつてグローバルな調整の旗艦だった緑の気候基金(GFC)は方向性を見失っています。多くの場合、すでに債務に苦しんでいる受援国の多くは、慈善団体、国内予算、民間金融機関からの支援を寄せ集めるしかありません。

一方、この分散化に明るい兆候を見出す声もあります。地域アクター(より柔軟で信頼性の高い主体)がより大きな役割を果たし始めているのです。ブラジル、インド、インドネシアからケニア、マレーシア、アラブ首長国連邦まで、国内の慈善活動が拡大。しかし、十分な外部資金がなければ、これらの取り組みは一時的なものとなり、課題への対応が追い付かなくなるリスクがあります。

気候変動、食料不安、パンデミックなどの課題の規模は、地域の能力をはるかに上回っています。公的な開発援助が信頼できる代替手段なしに後退する世界は、持続可能な開発目標(SDGs)が静かに棚上げされる世界なのです。

シナリオ2:基本に立ち返る

より抑制的なシナリオでは、西側の寄付国が再編成し、援助戦略を核心的な機能に再方向付ける可能性があります。高い理想を掲げた目標ではなく、開発は損害の最小化と地域社会のレジリエンス強化に焦点を当てたものとなるでしょう。したがって、人道支援、移民抑止、地政学的影響力の強化が中心となります。

すでに、この再調整の兆候は明らかです。国連の人道支援の「リセット」は、各国に安全保障から住居まで、基本的なニーズに焦点を絞った介入の効率化を促しています。また、欧州連合の「グローバル・ゲートウェイ」は、中国の「一帯一路」構想に対抗し、欧州に有利な条件を創出するインフラ整備に資金を提供しています。

このモデル下では、多国間機関は機能的な役割に縮小され、援助はより条件設定型かつ利益追求型になります。ドナーは脆弱な国家への関与を再開する可能性がありますが、その目的は能力構築ではなく囲い込みになるでしょう。

このような現実主義は、厳しい財政状況にある国にとっては魅力的に映るかもしれませんが、ジェンダー平等、紛争予防、権利に基づく開発といった課題が後回しにされるリスクがあります。「量より質」の姿勢だけでは、拡大するニーズに応えきれない可能性があるのです。

寄付国の主導する、戦後リベラリズムに根ざした線形的かつ階層的な開発モデルは、もはやその目的を果たせなくなっています。

シナリオ3:中国の影響力拡大

西側が後退する中、中国が空白を埋める可能性があります。同国は「一帯一路」イニシアチブを通じて、アジア、アフリカ、ラテンアメリカでインフラに1兆ドル以上を投資しています。保健、デジタル・インフラ、気候ファイナンスへの関与も拡大していますが、そのペースは不均一です。

同国の動向は、国内の経済減速、人口問題、不動産セクターの不安定さをどう乗り越えるかに大きく左右されるでしょう。中国当局は多国間主義(特に貿易と気候変動)への支持を依然として表明していますが、西側の開発規範を採用する意欲は示していません。

同国において人権、市民社会、ガバナンスの改革が主要な議題となる可能性は低いと考えられます。

それでも、同国は国連、世界銀行、国際通貨基金(IMF)での影響力を徐々に拡大しています。今後の国際開発協会(IDA)の資金調達交渉は、同国がグローバル金融の再編にコミットしているかどうかを測る試金石となるでしょう。

多くの開発途上国、特に西側主導の機関から排除されている国々にとって、中国は(透明性が低いとしても)よりアクセスしやすい代替案を提供しています。

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シナリオ4:BRICS+が始動

並行する未来では、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ(BRICS)を中核とし、サウジアラビア、ナイジェリア、インドネシアなどが追加される可能性のある「BRICS+」諸国を軸とした代替的な多極的開発ブロックの台頭が見込まれます。これらの国々はすでに、新たな金融手段やガバナンスモデルの実験を進めています。

BRICS主導の新開発銀行が数十億ドルの融資を実行しており、拡大を検討中です。また、地域開発銀行、政府系ファンド、そして開発における途上国間の協力を指す「南南協力」はますます注目を集めています。こうしたメカニズムは単に空白を埋めるだけでなく、開発そのものを再定義し、西側の優先事項から地域自治へと方向転換しています。

このビジョンの中核となるのは、債務改革でしょう。多くの開発途上国は持続不可能な返済負担に直面しており、IMFが課す緊縮政策の代替案を求めています。

より柔軟かつ優遇措置を伴う、政治的中立な融資への移行は、特に国際機関内での影響力の真の再配分が同時に行われる場合、ますます多くの国を惹きつける可能性があります。

シナリオ5:開発援助の民営化

別のシナリオでは、物流やプロジェクトの実施だけでなく、開発機能のあらゆる分野に企業の台頭が見込まれます。実際、企業は国家や非政府組織が担ってきた長年の役割を、徐々に引き受けるようになってきています。

米国に拠点を置くケモニクスやDAIグローバルから、アクセンチュア、ボストン・コンサルティング、デロイト、KPMGまで、すでに多くの大手コンサルティング企業が開発援助に深く関与しています。

官民連携の開発アプローチは広く普及しています。ブレンデッド・ファイナンス、ソーシャル・インパクト・ボンド、グリーン投資ファンドは急増。AIとフィンテックの進展は、医療、教育、社会保障分野で従来からあった援助のチャンネルを迂回する、デジタルソリューションの迅速な展開を可能にしています。

これがイノベーションと規模拡大を解き放つと主張する人もいます。一方で、責任の欠如搾取的な価格設定、公的信頼の侵食を警告する声もあります。

企業へのシフトを規制する枠組みが欠如すれば、分断と不平等リスクが高まるでしょう。開発の道徳的な装いを取り払えば、それは包摂性や持続可能性を目指す処方箋とはかけ離れた、リスク管理と利益率だけが重視されるものになってしまうのです。

絶えず変化し続ける未来

これらの5つのシナリオは、移行期にある世界を反映しています。寄付国主導の、線形的、階層的、戦後リベラリズムに根ざした開発モデルは、もはやその目的を果たせなくなっています。それを置き換えるものが何であるかは、まだ分かりません。将来のモデルは、おそらくハイブリッド型となるでしょう。地域化、民間資本、二国間援助、慈善活動、多国間協力を背景に、即興的な要素を融合させた形です。

この不確実な新領域を航海するためには、開発実務者は戦略的に思考し、柔軟に行動し、官民の境界を越えた連携を構築する必要があります。また、資金削減に対処するだけでなく、グローバルな力関係の根本的な再編に適応することも不可欠です。

人道支援、貧困削減、金融アクセス、共有公共財など、世界の開発における最優先課題は、これまで以上に喫緊なものになっています。相互利益、共有責任、多極化の世界の複雑な現実を基盤とした、新たな開発の枠組みの構築に、今、取り組む必要があるのです。

関連トピック:
持続可能な開発グローバルな協力体制
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