新興テクノロジー

日本が再び、グローバルなテクノロジーリーダーとしての地位を取り戻すために

Network of Japan. Japanese communication network.

日本が再びグローバルなテクノロジー分野で存在感を示すためには、いくつかの課題を解決しなければなりません。 Image: Getty Images/iStockphoto

Fujiyo Ishiguro
Chair of Japan and Chief Representative Officer, World Economic Forum
  • インターネット時代が日本のイノベーションの構造的な課題を浮き彫りにしました。
  • 世界標準を意識しない技術開発の結果、日本はグローバルなテクノロジーガバナンスからやや取り残されつつあります。
  • 日本は、他国で見られるようなリスクを取る起業家精神を、今後さらに発展させていくことが求められます。

例年よりも雪が少ない年となった1月のダボス。一週間にわたり開催された第55回世界経済フォーラム年次総会では、どの会場においても活発な議論と情熱的な討論が繰り広げられ、世界課題のさらなる緊急性と重要性が浮き彫りにされていました。今年の年次総会のテーマは、「インテリジェント時代における連携」。サブテーマは、「成長の再構築」「インテリジェント時代における産業」「人材へ投資」「地球環境保全」「信頼の再構築」、が設定されていました。

筆者にとって、初めての参加となったダボスでの一週間は、日本のビジネスコミュニティにとって紛れもなく有益なものだと感じていました。特に「インテリジェント時代における産業」に関する議論は、日本企業が今後直面する課題に深く関連するものでした。

長年、日本は消費者向け電化製品やハードウェアの分野でテクノロジーの革新を牽引してきました。しかし、インターネットの普及に伴い、テクノロジーの主導権はソフトウェア、データ、プラットフォーム型ビジネスモデルへとシフトし、これにより、数少ない巨大企業がその中心となりました。この変化は、日本のイノベーション戦略における構造的な問題を浮き彫りにしました。例えば、教育における優先順位の変更や人材の不足、そしてグローバルスタンダードに即した製品開発戦略の欠如といった点です。

これらの課題は、年次総会での「高まる不確実性と日本の役割」 (Japan Navigates Uncertainty) と題されたセッションでも取り上げられ、今後の日本企業の進むべき道を模索する議論が行われました。セッションでは、多角的貿易、半導体分野への投資促進、イノベーションの支援、スタートアップの活性化、そして労働市場の拡充などが重要なステップとして挙げられました。これらは日本の経済的なレジリエンスを高め、グローバルなテクノロジーガバナンスにおける影響力を強化するための鍵となる課題です。

今すぐにでも取り組むべきものの一つは、日本が早期の段階からグローバルなテクノロジーガバナンスや標準設定に積極的に関わることではないでしょうか。日本のテクノロジー業界は独自の進展を遂げてきたため、いわゆる「ガラパゴス症候群」が生じています。すなわち、優れた技術を生み出すものの、国際的な標準化の欠如により、世界市場での普及に苦しんでいるのです。従来、テクノロジーの標準は公式な機関だけでなく、業界のリーダーや重要なステークホルダーの合意に基づいて策定されてきました。そのため、日本はグローバルな標準化に対する影響力を強化するための制度的な存在感が不足しているのが現状です。

起業家精神の転換

もう一つの根本的な課題は、地域ごとの起業家精神の違いにあります。アメリカでは、新しいテクノロジーが生まれるとすぐに、スタートアップが怒涛のように押し寄せてきます。時には数百社規模で、革新的なアプリケーションが開発され、技術が商用化されるのです。こうした新しいサービスが始まると、その初期段階で現存する規制のグレーゾーンに入ることがあるのですが、それを許容する法的環境によって支えられているという一面もあります。例えば、AmazonやAirbnbなどの企業は、初期段階で法的な審査を受けることがありましたが、規制の枠組みが整う前に急成長を遂げていきました。

これに対して、日本やヨーロッパの多くの国々では、テクノロジーの展開を大規模に行う前に、まず法整備をしようという慎重なアプローチを採る傾向があります。このアプローチは消費者保護や規制遵守を強固にする一方で、イノベーションの進展を遅らせることがあります。この違いは部分的には伝統的な法体系に起因しています。アメリカやイギリスに見られるコモン・ロー(英米法)は判例や司法の先例にが法の根拠となりますが、日本やヨーロッパで主流のシビル・ロー(大陸法)は成文化された法律が必要です。法律ができるまでに時間を要するため、この違いが新産業の登場や規模拡大の仕方に影響を与え、新しいテクノロジーを採用するペースにも影響を与えます。

イノベーションと成長は、持続可能性や気候変動といったグローバルな課題にも貢献しています。例えば、ソニーはカーボンフットプリントを削減し、エコフレンドリーな製品の開発において大きな進展を見せました。エネルギー効率の高い技術を採用し、消費者向け電化製品に人工知能や再生可能エネルギーを統合することによって、ソニーはビジネス目標と環境責任の両方を達成、新たな成長の機会を生み出す方法を示しました。

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これらの構造的な課題に対処するためには、多角的なアプローチが必要です。具体的には、グローバルガバナンスの議論への参加や、機敏なイノベーションを可能にする規制環境を促進し、リスクを取ることを受け入れる精神的転換を促すことが求められます。「高まる不確実性と日本の役割」 (Japan Navigates Uncertainty)でも強調されたように、イノベーションと多様化を通じて経済的なレジリエンスを高めることが、デジタル時代における日本の成功の鍵となるでしょう。

世界経済フォーラムのようなグローバルなプラットフォームは、企業同士、官民連携のためのユニークな機会を提供します。フォーラム自体がスタンダードを決定する役割を担っているわけではありませんが、ガバナンスの枠組みや業界への応用、そしてセクター間の対話を形作る上で重要な役割を果たしています。このようなグローバルなプラットフォームへの積極的な参加は、日本のステークホルダーが戦略的な洞察を得るために、また、テクノロジーの発展の方向性を形作る過程に貢献するための貴重な機会となります。

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