サーキュラー・エコノミー

プラスチック汚染対策の切り札、トレーサビリティ技術の進化

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トレーサビリティ技術が、プラスチック汚染への取り組みと、プラスチックのサーキュラー・エコノミー構築に強力なソリューションを提供します。 Image: Getty Images

Fernando J. Gómez
Head, Future of Materials; Member of the Executive Committee, World Economic Forum
Wesley Spindler
Managing Director, Global Sustainability Leadership, Accenture
  • トレーサビリティ技術は、透明性の確保、アカウンタビリティの向上、材料リサイクルを通じて、プラスチックのサーキュラー・エコノミーの実現に貢献することができます。
  • しかし、トレーサビリティを確保するには、資金不足、規制の不確実性、データインフラの課題、規模拡大の難しさといった課題があります。
  • トレーサビリティの規模拡大と投資の促進には、パートナーシップの促進、データの標準化における合意、規制の透明性の確保が不可欠です。

廃棄物の自動選別や代替素材などのイノベーションはプラスチック汚染への対策に新たな可能性をもたらしていますが、文化、規制、市場特有の障壁により、効果的な規模拡大には至っていません。以前の寄稿文では、第四次産業革命(4IR)テクノロジーが急速に成熟しつつあるものの、重要な環境課題への展開は、先見性のあるリーダーたちがいかにして協調的かつ包摂的な行動を推進するかにかかっていると述べています。

より良いプラスチック経済の確立に貢献する、新興テクノロジーの重要な応用分野の一つがトレーサビリティです。私たちはプラスチック汚染への取り組みにおける課題を特定し、最も効果的に解決するために必要な行動を明らかにしようとしています。

世界経済フォーラムは、アクセンチュアの協力を得て、プラスチック汚染に対処する4IRテクノロジーをより効果的に展開する機会を特定しています。本寄稿文は、このイニシアチブで最初に得られた洞察を分かりやすく紹介するシリーズの一部です。パートナー企業およびコミュニティの皆様のご意見に感謝いたします。

新たなプラスチック経済のチャンスとしてのトレーサビリティ

トレーサビリティ技術は、プラスチックのバリューチェーンを改善する際の要です。主要なステークホルダーである消費者が、透明性と持続可能な慣行を求めるようになり、信頼がブランドロイヤルティの重要な推進力となっています。トレーサビリティは、企業がリサイクル素材の含有量を検証し、規制順守を確保し、消費者の信頼を構築することを可能にして、企業と消費者に情報に基づく選択肢を与えます。それによって、企業の業務と消費者の価値観を一致させ、長期的な関与を促進するのです。以下に、トレーサビリティが提供する主な機会を示します。

  • 透明性:サプライチェーン全体における原材料の原産地を検証し、リサイクル素材の真正性を確認することのできる透明性は、企業と消費者の双方にとって不可欠です。ブロックチェーン技術を活用した「Mesur.io」のようなプラットフォームは、原材料のライフサイクル全体を追跡するための透明性、安全性、トレーサビリティを備えたシステムを提供。これにより、企業は持続可能性基準に確実に準拠すると同時に、責任ある調達と廃棄物管理への取り組みを実証することができます。
  • アカウンタビリティ:環境への影響に対する企業の説明責任を果たすためには、トレーサビリティが不可欠です。例えば、ドイツのサイケル社が提供する、材料ライフサイクルを追跡するデータ主導型のプラットフォームを使用して、企業は廃棄物の削減や材料の使用に関して、情報に基づいた意思決定を行うことができます。また、同社は消費者の製品への関与をモニタリングすることで、より持続可能な消費を促す洞察を提供し、企業の持続可能性目標をより効果的に測定するための支援も行っています。
  • 金銭的インセンティブ:クウォタやクリーンハブなどのブロックチェーン対応のプラットフォームは、持続可能な取り組みを行うステークホルダーにインセンティブを与えています。クウォタはプラスチックの収集とリサイクルを追跡・検証。また、クリーンハブはリサイクルインフラが限られている地域での廃棄物収集にインセンティブを提供します。これらのソリューションは、廃棄物収集にインセンティブを付与するだけでなく、収集者と持続可能性に尽力する企業との間に直接的な金銭的つながりを作り出す、安全で透明性の高いシステムを確立します。
  • デジタル廃棄物管理プラットフォーム:インドのサーハズは、ステークホルダーが収集からリサイクルまでの材料をシームレスかつ効率的に追跡できるプラットフォームを開発しました。廃棄物管理のサプライチェーンをデジタル化することで材料の追跡可能性を向上させ、リサイクルプロセスを最適化し、リサイクル効率を向上させ、プラスチック廃棄物の削減を目指す企業を支援しています。

世界経済フォーラムの「サーキュラー・アクセラレーター・プログラム」卒業生のネットワークによるこれらの例は、トレーサビリティが廃棄物の削減、アカウンタビリティの向上、材料の適切な再利用に直接貢献できることを示しています。トレーサビリティがなければ、材料の流れを監視し、プラスチックがリサイクルシステムのすき間から漏れることを防ぐ基盤を提供できません。新たなプラスチック経済の構築には、トレーサビリティが不可欠なのです。

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トレーサビリティの課題

プラスチック経済の変革にトレーサビリティが浸透しつつある一方で、その進歩を妨げるいくつかの重大な課題があります。

まず、資金が不足しています。2018年から2023年にかけてプラスチックのサーキュラリティ(循環性)に対して1,900億ドルが投資されたにもかかわらず、こうしたテクノロジーの拡大に不可欠なトレーサビリティなどのデジタルソリューションには、わずか50億ドルしか投資されていません。さらに悪いことに、グローバルなプラスチック汚染の84%の原因となっている新興市場は、投資総額のわずか6%しか受け取っておらず、ニーズの高い地域であるにもかかわらず、多くの地域が十分なリソースを得られていない状況です。

こうした資金ギャップは、試験運用が長期に及べばさらに悪化します。トレーサビリティに関する多くのソリューションは試験段階にとどまっています。その理由は、企業が大規模な展開に踏み切ることをためらっているか、トレーサビリティを扱うスタートアップが単一の主要顧客へのサービス提供から抜け出せずにいるためです。このスケーラビリティの欠如が、ソリューションの普及を妨げ、イノベーションを抑制し、トレーサビリティのより広範な導入を阻んでいます。

さらに問題を複雑にしているのが、規制の不確実性です。特に拡大生産者責任(EPR)のような分野では、絶えず変化する規制環境を理由に、企業がトレーサビリティ・ソリューションへの多額の投資をためらっています。規制が変更される可能性があり、多額の投資が無駄になる可能性があるからです。このような規制の不確実性により、企業は、初期費用やリスクがそれほど必要ない従来の短期的なアプローチ、例えば認証やステークホルダーとの関係構築などにとどまるようになります。

さらに、2024年11月に韓国の釜山で行われた「グローバルプラスチック条約」の交渉では、規制が断片化しているという課題が浮き彫りになりました。ただ、2025年8月の「国際プラスチック条約に関する政府間交渉委員会第5回第2部(INC-5.2)」での継続した議論が、新たな希望ももたらしています。代表団は現在、プラスチック生産の制限など重要な対策を再検討し、石油産出国、開発途上国、その他の国々の間の溝を埋めるための作業を行っています。この進展は企業にとって、将来の世界的な政策と一致した重要な決定を行う明確な機会となるでしょう。

バリューチェーンのすべてのステークホルダーがトレーサビリティの利点を確信しているわけではないため、トレーサビリティの拡大は困難であることが実証されています。多くの企業は、コンプライアンスの強化、業務効率の向上、消費者からの信頼の獲得を通じてトレーサビリティがもたらす投資収益率(ROI)を見落とし、短期的な費用対効果分析に重点を置いているからです。一般に、トレーサビリティは単独の目標としてではなく、持続可能性、サーキュラリティ、リスク軽減など、より広い目標を可能にする副次的機能として位置付けられるべきです。さらに、データは以前よりも入手しやすくなっていますが、それを有効に活用するためのインフラはほとんど整備されていません。多くのプラットフォームが互いに通信できないという、データの相互運用性は依然として大きなボトルネックになっています。データ共有を管理する共通の基準や枠組みがなければ、データから有意義な洞察を得ることはできません。

最後に、市場の違いがさらなる課題をもたらします。裏社会のメンバーが廃棄物管理を支配することの多い新興市場では、トレーサビリティ技術の導入が特に困難です。公的インフラの欠如とデジタルシステムへの信頼の欠如がその理由の一つです。しかし、トレーサビリティはそのような地域にこそ最も必要なのです。

課題を乗り越える

課題は大きいですが、克服できないものではありません。トレーサビリティの潜在能力を最大限に引き出す3つの主要なアプローチを以下に示します。

  • データ標準に関する迅速な合意:データ相互運用性の問題を克服するために、ステークホルダーはサプライチェーン、業界、地域全体でデータを収集・共有するための標準化された方法を確立することができます。透明性と持続可能性に重点を置いたトレーサビリティプラットフォームを提供する、スウェーデンのトラストレース社のような取り組みは、共通の標準規格がデータの洞察力を引き出し、バリューチェーン全体に有意義な指標を提供できることを示しています。
    持続可能な製品のためのエコデザイン規制(ESPR)の下で導入されたデジタル製品パスポート(DPP)は、標準化された製品情報をデジタル形式で埋め込むことで、このアプローチをさらに発展させます。DPPは製品組成、ライフサイクルへの影響、および使用済み製品の処理経路に関するデータを共有するための統一された枠組みを提供。組織間のシームレスな協力を可能にし、サプライチェーン全体の透明性を向上させます。
  • 規制ガイドラインの簡素化:各国政府や規制当局が安定した簡素化されたトレーサビリティのガイドラインを提供することで、投資家の信頼を高めることができます。規制が長期にわたって確実なものになれば、企業が陳腐化の恐れなくトレーサビリティ技術に投資することができるようになり、投資が促進されます。再生可能エネルギーなどの業界における安定した規制枠組みの事例を見れば、適切な政策環境がどのようにして規模の大きな革新と投資を推進できるかが分かります。
    現在進行中の国連プラスチック条約に向けた取り組みは、トレーサビリティとアカウンタビリティを支えるための世界標準の必要性を強調しています。最近の釜山での交渉決裂は、主要な課題に関するコンセンサスが欠如すると、企業が不安定な状態に置かれることを示しました。このような条約における基準の組み込みと整合化は、透明性とソリューションの成功的な実施にとって不可欠です。
  • エコシステム全体にわたるパートナーシップの促進:トレーサビリティには、メーカー、リサイクル業者、廃棄物管理会社、各国政府、テクノロジー企業間の協力が必要です。バリューチェーン全体にわたるパートナーシップを構築することで、ステークホルダーは目標をすり合わせ、ベストプラクティスを共有し、トレーサビリティを拡大するためにリソースを結集することができます。オランダのソフトウェア企業であるサーキュライズと化学業界の大企業との提携は、パートナーシップが普及を加速させることができることを示す好例です。

今後の道筋

新しいプラスチック経済の構築に向けた道のりは複雑ですが、この変革においてトレーサビリティは重要な役割を果たします。資金不足、規制の不確実性、データインフラといった課題が残る一方で、解決策は存在します。パートナーシップを促進し、データ標準に合意し、安定した規制環境を構築することで、トレーサビリティの潜在能力を最大限に発揮することができるのです。さらに、トレーサビリティを自動廃棄物選別や代替素材などの他の新興テクノロジーと結び付けることで、プラスチックの耐用年数全体にわたる管理方法を再定義する、ホリスティックな統合型システムを作り出すことができるでしょう。

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