早期警報システムの仕組みと、改善への道すじ

早期警報システムは、異常気象や自然災害を分析・予測します。 Image: Unsplash/Matt Palmer
- 早期警報システムは、異常気象や気候変動の危険性をより的確に予測し、対応するのに役立ちます。
- AIなどの振興技術がこうしたシステムの改善に貢献している一方、さらなる取り組みが必要です。
- 世界経済フォーラムが最近発表した白書「Catalysing Business Engagement in Early Warning Systems(早期警報システムにおける企業参入の促進)」は、各国政府に対し、企業の参入を促すインセンティブを与え、気象データを「可能な限りアクセスしやすく」するよう求めています。
過去数十年にわたり、環境リスクは、将来人類が直面する最大の脅威として、着実にその地位を確立してきました。しかし、その影響が「今この瞬間」に及ぶことへの懸念も高まっています。
世界経済フォーラムによる最新版の「グローバルリスク報告書」によると、異常気象は短期のリスクの中で2位に挙げられ、長期のリスクにおいてはトップとなっています。
こうした懸念が高まる中、新たな技術革新が自然災害の影響を受ける人々の安全確保を図っています。その一例が「早期警報システム」です。このシステムは、洪水、津波、地すべり、火山噴火、干ばつなどの災害を監視・予測し、事前に人々に警告を発することで、命を守るための貴重な時間を提供します。
では、これらのシステムはどのような仕組みで機能し、どのように改良できるのでしょうか。
早期警報システムの仕組み
早期警報システム(Early Warning Systems: EWS)は、さまざまなセンサーや検知器、データを活用し、異常気象や自然災害を分析し、予測します。
その一例であるネパールの洪水リスク検知システムは、地域主導の警報システムの精度を向上させ、警報を出してから警告した事象が発生するまでの時間を指す「リードタイム」を最大8時間延ばすことに成功しました。
インドでは、降水量を検知する技術の進歩により、LANDSLIPプロジェクトが国、州、地区レベルの当局や地元NGOと連携し、「National Landslide Forecasting Centre(国立地すべり予報センター)」の設立を実現しました。
また、2004年のインド洋大津波を受け、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)政府間海洋学委員会(UNESCO-IOC)は、海洋の異常を迅速に分析し、危険地域に警告を発する津波警報センターを開発しています。
こうした情報と過去のデータを組み合わせることで、科学者はリスクの高い時期や場所をより正確に把握することが可能になります。さらに、政府や機関は予測と対応方法を確立し、災害への備えを強化し、地域社会や企業との協力により、リスクをより効果的に管理することができます。
早期警報システムの発展
リスクが高まる中、早期警報システムは進化を続け、新たな脅威や、頻発・深刻化する災害に対応していくことが重要です。
早期警報システムの改善において、AI(人工知能)は大きな可能性を秘めています。 国連大学は、「AI技術は天気を予測するだけではなく、天気がもたらす影響をも予測する能力を備えている」と指摘しています。
また、国連は地球規模の気候早期警報システムの推進にも取り組んでいます。2022年、国連事務総長であるアントニオ・グテーレス氏は「すべての人に早期警報システムを」イニシアチブを発表。リスク情報の強化、監視・分析の向上、迅速なコミュニケーション、防災対策の充実を目指し、2027年までに地球上すべての人々を保護することを目標としています。
一方、現在、後発開発途上国や小島嶼開発途上国の人々を中心に、世界の3人に1人が適切なマルチハザード警報システムを利用できていません。このイニシアチブでは、AI技術の活用に加え、リモートセンシングや衛星技術の導入、携帯電話などの通信端末に災害情報などを送るセルブロードキャストや、位置情報に基づくSMS警報、自然を活用した防災・環境共生型のソリューションを模索しています。
改善の余地はどこにあるのか
早期警報システムの開発と導入は大きく前進する一方、依然として改善が必要な分野も残されています。こうしたシステムの成功には、政府、機関、企業の連携強化が不可欠です。
世界経済フォーラムは、世界気象機関(WMO)やオーストラリア国立大学と共同で、この課題を探究する白書を発表しました。「Catalysing Business Engagement in Early Warning Systems(早期警報システムにおける企業参入の促進)」と題されたこの白書では、オープンデータ提供の重要性と、官民連携への投資の必要性が強調されています。
「多くの気候適応策と同様に、早期警報システムも資金不足に悩まされ、その普及が制限されています。一方、企業はこの資金ギャップを埋めることで、社会に貢献しながら自社の価値を高める機会を得ることができる」と同白書は述べています。
さらに、各国政府に対し、より多くの企業による参入を促し、気象データを「可能な限りアクセスしやすく」するための明確なインセンティブを提供するよう求めています。
1月に開催された世界経済フォーラム年次総会のブリーフィングでは、専門家のパネルがこのテーマについて議論し、企業や機関が情報をより自由に共有し、具体的な行動を起こすことの重要性を訴えました。
WMOの事務局長であるセレステ・サウロ氏は、次のように述べています。「リスクの軽減は、情報があって初めて可能になります。企業は早期警報システムにおいて、利用者として、パートナーとして、イノベーターとして、そしてもちろんシステムの提供者として、多くの役割を果たすことができます」。
ポツダム気候影響研究所長であるヨハン・ロックストローム氏もこれに同意し、次のように指摘しています。「企業には大きなチャンスがある一方、自社のバリューチェーン全体における極端な気象リスクを把握し、その情報を公に共有するという大きな責任もあります」。