多くの人を経済的エンパワーメントに導く、企業の社会的イニシアチブとは

フードバンクへの寄付は、企業が経済的エンパワーメントを支援する方法のひとつです。 Image: Getty Images For Unsplash+
- 約47億人が「経済的エンパワーメント・ライン」を下回っており、適切な生活水準を維持するために必要な基本的日用品を購入できない状況にあります。
- この問題は主に低・中所得国に集中していますが、高所得国にも繁栄に囲まれながら生活に困窮している人が約2億7,000万人います。
- 政府は貧困の削減と生活水準の向上において重要な役割を担っていますが、企業も独自の施策を通じて、より多くの人々の経済的エンパワーメントを促進することができます。
マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)は、2020年の時点で世界人口の約61%が、基本的な生活必需品を購入し、貯蓄を始めることができない状態にあると報告しています。私たちは、開発経済学者による研究をもとに「エンパワーメント・ライン」という指標を確立し、すべての人の基本的なニーズが満たされる社会への進展を評価しています。
エンパワーメント・ラインは国際的な貧困ラインよりも高い水準に設定されており、国ごとに大きく異なります。最も所得の低い国では、このラインは購買力平価(PPP)換算で1日あたり最低12ドルに設定されていますが、米国やスイスでは1人あたり1日55~70ドルとなっています。
人々を経済的エンパワーメントに導く最適な方法は、各国の所得水準によって異なります。低・中所得国(LMICs)に住む人々には、経済成長が最も強力な推進力となります。一方、GDPの成長だけでは十分ではありません。特に高所得国において経済エンパワーメントに至っていない人口の5分の1にとって、これだけで解決することはできません。多くの地域では、生活必需品やサービスの価格が全体のインフレ率を上回るペースで上昇しており、エンパワーメントの達成が依然として難しい状況にあります。
エンパワーメントの概念を実践に活かす
MGIは、2023年のレポート 「From poverty to empowerment: Raising the bar for sustainable and inclusive growth(貧困からエンパワーメントへ:持続可能かつ包摂的な成長の基準を引き上げる)」 を発表して以来、一連の論考を通じてこの概念の実践に取り組んでいます。「A better life everyone can afford: Lifting a quarter billion people to economic empowerment(あらゆる人の手に届くより良い生活:2億5,000万人を経済的エンパワーメントへと導く)」 では、基本的な生活費の負担能力という視点からこの課題に取り組みました。さらに、最新の記事では、企業がエンパワーメントの成果を向上させるために、「オーダーメイド(Made to measure)」のアプローチを用いた実践的なガイドを提供しています。
120か国におけるエンパワーメントの課題
経済的エンパワーメントの最大の障壁は、国によって異なります。120か国を対象とした分析では、同じGDP水準の経済圏であっても、エンパワーメント・ライン を下回る人口の割合には大きな差があり、経済的エンパワーメントを阻む主な要因も異なることが明らかになりました。
以下の図では、異なる所得グループの国々を比較しています。同じGDP水準の国を見ても、ドイツの住宅コスト、米国の医療費、日本の食費 が、実際には予想以上に現地の人々の経済的エンパワーメントの障壁となっていることがわかります。もしこれらの支出が同水準の他国と同程度であれば、より多くの人々が生活を成り立たせることができるでしょう。これら3つの要素に焦点を当てた取り組みは、各国の経済的エンパワーメントを向上させる上で、より効果的である可能性があります。

企業に有効なターゲティング
世界の労働力の大半を雇用している企業は、従業員、顧客、サプライヤー、そして地域社会を経済的エンパワーメントに導く重要な役割を担っています。業界を超えた100の大手グローバル企業による取り組みを分析した結果、フードバンクへの寄付から低コスト住宅プロジェクトに至るまで、約70種類のエンパワーメント施策が存在することがわかりました。
これらの施策を整理すると、投資に対して最大の影響を生む取り組みには、「つながり(Connections)」「環境(Contexts)」「能力(Capabilities)」 という3つの重なり合う領域があることが浮かび上がります。経済的エンパワーメントをより効果的に促進するターゲット型の施策を、「オーダーメイド(Made-to-Measure)」 と呼んでいます(図表2)。

- つながり(Connections)。まず、支援が必要なステークホルダーを特定します。従業員、サプライヤー、顧客、地域社会についての直接的な知識やつながりを活用し、適切なエンパワーメント施策を選択します。例えば、ディスカウント小売業者であれば時給労働者、ラグジュアリー小売業者であれば、リスクにさらされているサプライヤーや関連コミュニティを支援対象とすることが考えられます。
- 環境(Contexts)。ニーズは地域によって異なるため、国や地域レベルでの主要なエンパワーメントの障壁に焦点を当てることが重要です。国レベルでの一例を挙げると、ベトナムでは、高い食費への対策が有効な施策となる可能性があります。
- 能力(Capabilities):自社の中核的な強みを特定し、上記2つの要素におけるニーズや機会と整合させます。自社の強み、事業運営、資産を基盤にすることで、効率を高めることができます。例えば、銀行は的を絞った融資の提供、テクノロジー企業はスキル向上のための研修プログラムを提供することが考えられます。
オーダーメイドの施策を設計した後、企業はその効果を評価し比較することができます。これは、社会的施策の影響を測定するための統一された指標を持つことの大きな利点の一つです。施策は、企業が投じる1ドルあたり何人がエンパワーメントされるか という観点から、効率性の高い順にランキングされます。また、エンパワーメントの格差がどれだけ縮小されるか、あるいは合計で何人がエンパワーメントされるか も考慮した「エンパワーメント・コスト曲線」に沿って評価されます。例えば、ある施策のコスト対効果比が1.0、別の施策が0.1だった場合、同じ影響を達成するために、前者は後者の10倍の投資を必要とします。
社会的インパクトに投資する企業にとって、よりコスト効率の高いアプローチ を採用することで、同じ投資額でより大きなエンパワーメントの効果 を生み出すことができます。企業が経済的包摂に果たす役割は非常に重要であり、効率性を向上させることで、個人や家族、社会全体、そして投資する企業にとって、より大きなプラスの影響をもたらすことができます。