気候変動対策

大気質に関するオープンデータが、グローバルヘルスに不可欠である理由とは

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多くの国において、未だに大気質のデータが不足しています。 Image: Unsplash/Alex Gindin

Chris Hagerbaumer
Executive Director, OpenAQ
  • 大気汚染は人間の健康にとって最大の外的脅威であり、世界的に寿命を平均2年近く縮めています。
  • 36%の国は、2024年に大気汚染を監視していませんでした。大気汚染は、世界最大の健康リスクのひとつであり、その影響が最も大きいのは低所得国と低中所得国です。
  • すべての人がきれいな空気を得ることができるようにするための鍵は、大気質データをオープンかつアクセス可能にすることです。

政府には、大気汚染に対処する責任があります。大気汚染はいたるところに存在する課題であり、世界人口のほとんど(99%)が健康に悪影響を及ぼす空気を吸っています。

大気汚染は、死亡につながる外的要因の中で最大の脅威です。また、全体的なリスク要因としても第2位であり、世界の平均寿命を1.9年短くしています。大気汚染への曝露は胎内にいる段階から始まり、生産性生活の質への影響だけでなく、生涯にわたって数多くの健康被害につながります。その負担は均等ではなく、被害が及ぶのは、特に乳幼児や子ども、大気汚染が深刻な低所得地域や国々に住む人々です。

大気汚染に関する信頼性の高いオープンデータは、大気質を理解し、改善するための是正措置を講じるために不可欠です。大気汚染の測定データは、政府が市民の健康を向上させ、その経過を追跡するために重要であるだけでなく、空気を吸うすべての人にとっても有用です。問題の解決に取り組む人々が、疫学調査の実施、汚染源の特定、啓発活動の推進、予測モデルの構築などにこうしたデータを活用することができるからです。

政府はオープンデータ政策を採用することにより、大気汚染を単独で解決するのではなく、他の専門家の知見を活用し、大気汚染危機の解決に向けたより革新的かつ持続的なアプローチを構築することができます。

OpenAQ は、世界最大規模の歴史的およびリアルタイムの屋外大気質測定データベースをオープンソースかつオープンアクセスで提供するNGOです。各国における政府レベルでの大気質監視プログラムの有無や政府による監視データ一般公開の有無、公開方法について分析を行っています。

大気質監視の動向と課題

調査対象国のうち、2024年に国または地方レベルで継続的な大気質の監視を実施または支援している国はわずか64%であり、2022年の前回報告からわずか3%しか増加していません。

つまり、現在36%の国々が、世界的に主要な健康リスクの一つである大気汚染を監視していない状況にあるのです。監視体制には依然として大きなギャップがあり、とりわけ人口が多く、汚染が深刻な国々において、政府主導の大気質監視プログラムが存在しない、または監視が極めて限定的である場合が多く、特にグローバル・サウスにおいて、その傾向が顕著です。

実際、10億人近くの人々が、政府による大気質の監視が行われていない71カ国に暮らしており、そのうちの9割にあたる人々は、世界銀行の分類による低所得国または低中所得国に居住。さらに、政府が大気質を監視していない国の中で最も人口の多い国々では、大気汚染が死亡および障害の危険因子の上位7つに入っています。

大気汚染レベルを測定・追跡することは、大気質の悪化について理解し、その解決策を策定する為に不可欠です。

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大気質データ共有の動向と課題

OpenAQによると、調査対象国の55%が大気質データを公に共有している一方、完全に透明な形で共有している国はわずか27%にとどまっています。

多くの国が大気質指標(AQI)を通じてデータを共有しており、データ公開の一例として挙げられるでしょう。これが、データ共有の透明化に向けた第一歩となっています。AQIは、汚染物質の濃度に関する複雑なデータを簡潔かつ理解しやすい形式に変換し、大気汚染の差し迫る脅威について市民に警告することができます。多くの場合、AQIの提供者はデータと共に、人々が大気汚染への暴露を減らすために取ることができる行動を共有しています。

一方、AQIは、ほとんどの科学的研究に必要である詳細な情報を欠いており、使用される手法によっては誤解を招く可能性さえあります。簡潔に述べると、科学的調査、大気汚染削減政策、予測、その他の重要な用途のために必要となる詳細を備えた、最大限の有用性がある大気質データへの完全かつ容易な一般アクセスを提供している国は、かろうじて4分の1程度しかないのです。

2022年と比較すると、大気質データを公に共有する国の数は2%増加し、完全に透明かつアクセス可能なデータ提供を行っている国の数も4%増加しています。

きれいな空気への取り組みを加速する

大気汚染レベルを測定・追跡することは、大気質の悪化について理解し、その解決策を策定する為に不可欠です。大気質に関するデータをオープンにし、容易にアクセスできる形で自由に利用できるようにすることで、官民および市民社会におけるすべての人々が、きれいな空気のための革新、協力、効果的な解決策の適用に貢献できるようになります。

きれいな空気への取り組みを加速させるために、OpenAQは以下を推奨しています。

  • すべての政府が大気質を測定し、追跡すること。これから監視を開始する政府は、リソースが限られていることを認識し、「Our Common Air(アウワ・コモン・エア)」が発表した2024年のレポート「Accelerating Country-led Air Quality Reporting to Achieve Clean Air (きれいな空気に向けた国主導の大気質調査の加速)」で述べられているように、基準グレードのPM2.5測定器を設置し、微小粒子状物質を測定することから始めるべきです。
  • すべての政府が、作成した大気質データを完全に透明かつアクセスしやすい形で共有すること。具体的には、物理単位を用いた表記、測定地点ごとの座標、1日に一回から数回の更新頻度、機械で読み取り可能なフォーマットでの提供を行う必要があります。
  • 開発銀行や慈善団体などの資金提供者が、資源の限られた政府を支援すること。比較的少額の投資で深刻なデータ不足を解消し、国レベルで前向きな変化をもたらすことが可能な国々は、EPICの報告書 「The Case for Closing Global Air Quality Data Gaps with Local Actors: A Golden Opportunity for the Philanthropic Community(地域の主体と連携した世界の大気質データ格差解消の必要性:慈善活動団体にとっての絶好の機会)」において特定されています。
  • 資金提供者が、資金提供における契約にデータの透明性に関する条件を含めること。オープンなデータ共有要件の一例として、EPIC Air Quality Fund(EPICエアクオリティ・ファンド)が挙げられます。

大気質データの広範なアクセスと透明性の確保は、技術的に必要であるだけでなく、公衆衛生を守り、きれいな空気を世界的に継続して実現するための重要な第一歩です。

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