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AIに関する議論に、子どもたちを含めるべき理由とは

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AIの台頭は、デジタル不平等を拡大する恐れがあり、特に子どもたちにおいてはその影響が顕著になるでしょう。 Image: Reuters/Rupak De Chowdhuri

Aleksander Dardeli
Chief Operating Officer, Save the Children
  • AIが仕事に与える影響について多くのことが議論されている一方、子どもたちの発達にどのような影響を与えるかについての議論は十分に行われていません。
  • 数十年以内に、子どもたちはAIと深く結びついた現実を生きることになり、現実と人工物の違いを見分けるのが困難になるでしょう。
  • AIの発展を前向きかつ健全な方向に導くために、政策立案者から教育者まで、あらゆる人が積極的に取り組むことが重要です。

生成AIの台頭により、従来の働き方が終焉を迎えるという熱狂的な予測が広がっています。同時に、この技術の使用に関する倫理的な懸念や、労働者の心理への影響についての不安も高まっています。

これまでの議論の多くは、企業や労働者に焦点を当てたものが中心でしたが、AIが最も深刻な影響を与えるであろう世代に属する、子どもたちの発達に与える影響については、十分に検討されていません。

カリフォルニア大学アーバイン校の最近の研究では、3歳から6歳の子どもがすでにスマートデバイスに「考え」や「感情」があると信じていることが明らかになり、AIがもたらす課題の規模の大きさを示す例となりました。

今から5世代後の未来を想像してみてください。AIが生み出す体験が日常生活と完全に融合し、子どもたちは現実と人工的なものの境界がほとんど識別できない世界で成長することになるかもしれません。

AIがもたらすのは、ダークサイドを抱えた明るい未来?

現在、AIには医療やヘルスケアの進歩学習成果の向上など、さまざまな利点があり、子どもたちの福祉に大きな可能性をもたらすことが期待されています。また、AIは自然災害人為的な危機を正確に予測し、これにより多くの子どもが成人し、安全な生活を送ることができるでしょう。

しかし、こうした利点があるにもかかわらず、AIは子どもや人類全体の未来にとって重大なリスクも伴います。まず、AIを運用するためには大量の水、電力、重要鉱物が消費されるだけでなく、有害廃棄物も発生し、その真の環境影響については、まだ十分に解明されていません。

さらに、先進国と発展途上国の両方において、都市部と地方にすでに顕著なデジタル・デバイド(情報格差)が存在します。AIの普及により、さらに拡大するであろうデジタル・デバイドに対して、私たちはどのように備えれば良いでしょうか。

セーブ・ザ・チルドレンは「Safe Digital Childhood Coalition(セーフ・デジタル・チャイルドフッド・コアリション)」を通じ、こうした課題に取り組んでいます。グローバルなこの取り組みは、デジタル・インクルージョンを推進し、子どもたちが技術へ平等にアクセスできる権利を保護し、デジタル社会で生き抜くためのスキル向上を目指しています。

また、AIが権威主義的な政権や組織によって自由の抑圧、検閲、プロパガンダの強化などの抑圧的な目的に利用される危険性も見過ごせません。AIはすでに操作的な情報を増幅させ、偽のコンテンツを生成する能力を持っています。こうした情報に最も影響を受けやすいのが子どもたちであり、その発達や福祉に長期的な悪影響を及ぼすことが懸念されています。

さらに、こうしたリスクが高まる背景には、学校から大学に至るまで批判的思考力の育成が十分に行われていないこと、またAIをどのように規制すべきか、あるいは規制すべきかどうかについての意見が別れている現状があります。AIの規制を巡る課題反対意見がある中、急速に進化するAIの現実に規制の実施が追いつけない状況が続くでしょう。

では、私たちはどのような道を進むべきでしょうか。その答えは、「行動を起こすこと」です。

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AIが普及する世界において、子どもたちの権利を守るには

AIに関する議論が続く中、政策立案者から教育関係者に至るまで、私たち一人ひとりがAIの活用と発展を健全で前向きな方向へ導くために積極的に取り組まなければなりません。これは、次世代が十分な準備を整えられるようにするための戦略的投資でもあります。

AIがますます重要な役割を果たす世界において、子どもの権利を守るために取るべき3つの行動を以下に示します。

  • 幼少期の教育において、批判的思考能力を育成するための資金を増やすよう、政策立案者に働きかけを行うこと。批判的思考は、自由な選挙と公正な社会の実現に不可欠です。AIの発展により、人間の価値観に基づいた批判的思考を犠牲にしてはなりません。この働きかけには、市民、政策立案者、非営利団体、企業などが協力することにより、AIシステムが特定のイデオロギーに支配されず、多様な視点、意見、人口集団の包括を促進することを含みます。将来のコミュニティや社会における自由を守り、偏見を最小限に抑えるために不可欠です。こうしたことは、今日の子どもたちが将来形成する社会を、公正かつ開かれたものにするための重要な基盤となります。
  • 教育委員会、学校制度、教師と連携し、AIが子どもたちの自立に必要なスキルの発達を妨げないようにすること。特に、保護者には、子どもが自立し、困難に対応できる力を身につける権利を守る義務があります。セーブ・ザ・チルドレンは、長年にわたり世界各地で幼児教育に取り組んできた経験を通じ、幼少期の介入が学習や人生における成功の基盤を築く上で極めて重要であることを何度も確認してきました。AIも同様です。AIは、今後も社会の一部として存在し続けるため、子どもたちがこれを安全に活用できるように指導することが不可欠です。
  • AI変革を受け入れるための投資を行うこと。企業、学校、学術機関、非営利団体などの組織は、AI時代への準備と適応に意図的に時間と資源を割くべきです。この戦略的投資は、新たに台頭する技術の力を最大限に活用し、その負の影響を最小限に抑えるために不可欠です。セーブ・ザ・チルドレンでは、AIに関する取り組みを監督し、指針を示すために「AI Steering Committee (AI運営委員会)」を立ち上げました。一方、重要なのは、今日どのように適応するかだけでなく、技術が進化し続ける中、AIを活用し、子どもたちに最大限の良い影響をもたらす方法を模索することです。

AIに対するアプローチは今後も多様であり続けますが、その議論には常に子どもたちとその利益が含まれるべきです。これにより、問題やその解決策を子どもたちの視点から考えることが促進されます。

人類を傷つけることなく進歩させるAIを開発する方法について、私たちは明確な道筋を持っていません。一方、これは歴史上のあらゆる新技術に共通する課題でもあります。AIを子ども中心の視点で捉えることは、リスクを最小限に抑え、AIの持つ良い可能性を最大限に引き出すための有効な手段となるでしょう。

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