アジアのエネルギー格差を解消する、3つのアプローチ
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RGEグループの企業であるエイプリル・グループは、インドネシアのリアウ州にある同社の製造施設にソーラーパネルを設置しました。 Image: RGE
- アジアは経済発展と脱炭素化のプレッシャーに直面しています。
- この地域では、気候変動の緩和と適応の目標を達成するために、少なくとも年間1兆1,000億ドルが必要です。
- アジアの再生可能エネルギー転換を実現するには、3つの主要分野におけるマインドセットの転換が必要でしょう。
アジアは、経済発展と脱炭素化という2つの圧力に苦悩しながら、エネルギー転換に向けた重要な岐路に立っています。発電を石炭に大きく依存している地域において、当面のエネルギー需要への対応と長期的な持続可能性の確保をどのように両立させればよいでしょうか。そのためには、産業革命と投資革命の融合を早急に進める必要があります。もはや先送りという選択肢はありません。
次の3つの分野において、マインドセットを転換する必要があります。
1. クリーンエネルギーの採用、地域間の結び付き強化、持続可能な開発モデル
2022年に開始された「ラオス・タイ・マレーシア・シンガポール電力統合プロジェクト」は、東南アジアのエネルギー事情における画期的な取り組みです。フェーズ1では、シンガポールはタイとマレーシアを経由してラオスから最大100メガワットの水力発電を輸入。この2年間のプロジェクトは、この地域初の多国間電力取引の枠組みであり、再生可能エネルギーにおける国境を越えた協力の先例となるものです。
また、このプロジェクトは、地域的なエネルギー協力が持続可能な開発を推進できることを示す好例でもあります。ラオスは豊富な水力発電資源を活用して経済成長を促進し、シンガポールは電力部門の脱炭素化とエネルギー供給源の多様化により安全性を高め、タイとマレーシアは送電網の接続を促進することで収益を上げています。
この斬新なプロジェクトは、距離という課題を克服し、地域協力の境界を再定義して、未開拓の可能性を解き放ちました。同プロジェクトの拡大に向けた交渉が成功すれば、マレーシアからの追加供給により、電力貿易が倍増する可能性があります。
中国の太陽エネルギーの成功は、経済成長を妨げることなく、大規模な再生可能エネルギー転換で持続可能な開発を支援できることを示すもう一つの例です。中国は、2030年までの目標である1,200ギガワットの太陽光発電および風力発電設備容量を、予定より6年も早く達成しました。この急速な展開は、国内のエネルギー需要の高まりに対応する上で重要な役割を果たし、世界最大のソーラーパネル生産国としての中国のリーダー的地位を確固たるものにするとともに、国内での雇用創出とグローバルなグリーン転換を支援しています。
特に、中国の超高圧(UHV)送電網は、太陽光や風力資源が豊富な遠隔地から人口の多い工業ハブ地域への効率的な再生可能エネルギー輸送を可能にし、経済活動を妨げることなく再生可能エネルギーを大規模に利用することを可能にしています。最近では、1,000キロボルトのUHV交流プロジェクトが稼働を開始し、中国北部のクリーンエネルギー資源と、北京、天津、河北などの経済圏を結びました。
2. リスク回避から機会への投資シフト
気候変動の緩和策を進めるために、アジアは75%という資金ギャップを埋める必要があります。アジア全域で気候変動緩和と適応のニーズを満たすには、少なくとも年間1兆1000億ドルが必要ですが、この地域では投資が不足しているのです。実際に、過去5年間で、アジアの太陽光と風力発電への投資は2番目に低い水準にとどまっています。マッキンゼーとシンガポール経済開発庁のレポートによると、アジアで2050年までにネットゼロを達成するには、再生可能エネルギーの発電能力を2018年から2021年の水準の7~12倍に増やす必要があります。
エネルギー転換への投資は、ビジネス面でも経済面でも理にかなっており、企業は大胆な行動を取らなければなりません。つまり、融資可能で商業的に実現可能なクリーンエネルギーに向けたイニシアチブを率先して推進するのです。
まず、企業は自社の事業を積極的に脱炭素化すると同時に、グリーンシフトの推進に役立つ主要なプロジェクトやイニシアチブに参加すべきです。例えば、RGEグループの農業事業では、廃棄物から価値を生み出す戦略により、パームオイル製造工場から排出される廃液(POME)を再生可能エネルギーに転換することでエネルギー需要を満たしています。また、スペインの合弁事業用プラントに第二世代の原料を供給し、持続可能な航空燃料の生産に役立てる予定です。
最近、RGEはトタルエナジーズを合弁事業パートナーとして、インドネシアからシンガポールに1ギガワットの太陽光発電を輸入するという条件付き認可をシンガポールのエネルギー市場監督庁から得ました。このプロジェクトには、インドネシアのリアウ州にある工業団地に電力を供給するという国内的な要素もあり、インドネシアとシンガポールが脱炭素化に向けて相互に利益のある関係を築くことになります。
もう一つの例として、再生可能エネルギーの購入量で世界最大の企業であるアマゾンが、持続可能な開発に貢献しながら、グローバルなグリーンシフトの加速を支援していることが挙げられます。2023年、同社は16の異なる市場で74の個別電力購入契約を発表し、合計容量は8.8ギガワットに達しました。
最終的には、企業は自社の長期的な成功は、社会的操業許可(ソーシャルライセンス)の確保にかかっていることを認識しなければなりません。これは、自社の事業を環境に配慮したものにするだけでは不十分です。企業は、インパクトと拡張性があるイニシアチブを通じてより広範なグリーン転換に積極的に貢献することで、繁栄するだけでなく、すべての人にとっての持続可能な未来の実現に向けた有意義な進歩を推進することができます。
3. 単一ではなく、複数の観点でのリスク軽減
再生可能エネルギープロジェクトに資本を呼び込むための強固な市場メカニズムを確立することが急務となっています。アジアには資金が不足しているわけではありません。課題は、投資家の信頼を獲得し、これらのプロジェクトが魅力的な投資機会となるような条件を作り出すことです。
エネルギー転換は共通の使命であり、その進展は、企業が銀行融資を受けられ、商業的に実現可能なプロジェクトを開発できるような環境を作り出すことにかかっています。これにより、資金調達が容易になり、規模の拡大につながるでしょう。
現在、投資家はインフラギャップや規制の不透明性などのリスクを理由に、資金の拠出をためらっています。企業は、土地の確保やインフラギャップを埋めるための技術的ノウハウの確保など、自らが管理できるリスクの管理において重要な役割を担っており、それによってプロジェクト開発を確実なものにすることができます。一方、各国政府は、政治やマクロ環境の変化にも耐えることのできる、明確かつ一貫性のある永続的な政策を通じて、規制の確実性を確保しなければなりません。また、各国政府は義務付けや補助金を効果的に実施して需要を刺激し、再生可能エネルギーの普及を大規模に促進することもできます。
最終的には、アジアが緊急に必要としている大規模な再生可能エネルギープロジェクトのリスクを軽減し、資本流入を促進するためには、企業と各国政府が一体となって、エコシステムを構成する全員が協力する必要があります。協力し合うことによってのみ、私たちは野心的な目標を現実のものとし、エネルギー転換を加速させることができるのです。
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Tatiana Aguilar
2025年2月7日