経済成長

生活水準の向上が、経済成長を促進する理由とは

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公正な課税と賃金の引き上げは、生活水準の向上を促進します。 Image: Freepik.com

Veronica Nilsson
General Secretary, Trade Union Advisory Committee (TUAC) to the OECD
本稿は、以下会合の一部です。世界経済フォーラム年次総会2025
  • 成長は生活水準を向上させる手段だと見なされることが多い一方、その逆もまた成立します。
  • より良い生活水準を実現するにあたり、公正な課税と適切な賃金が中核的な要素となります。
  • 新たな成長源を生み出し、信頼を再構築するためには、人材への投資が必要です。

ダボスで開催される世界経済フォーラムの年次総会で議論される主要な課題の一つは、「成長を促進して生活水準を向上させること」です。この言葉自体は正しいものの、必ずしもその順序で成立するというわけではありません。生活水準の向上もまた成長を促進し、どちらの順序であっても成り立つのです。

成長と生活水準の向上との関係は共生的であり、特に、これが、全ての人々にとって生活水準とウェルビーイングが合理的かつ公平に改善されること意味する場合は、なおさらです。生活水準の向上は、あらゆる健全な経済政策が目指すべき目標であると言えるでしょう。

「成長が生活水準を向上させる」という考え方が完全ではない理由とは

第一に、成長だけでは、必ずしも生活水準が向上するとは限りません。再分配や労働環境の改善といった施策も不可欠です。OECDの最近の研究は、雇用の安定を図り、労働者と経営者間の緊張を緩和することなどによる労働環境の改善は、労働者のウェルビーイングにおいて国民所得の4分の1に相当する向上をもたらすと明らかにしています。

第二に、従来型の成長モデルは、全ての人々、あるいは大多数の人々に生活水準の向上を保証するものではありません。多くの場合、賃金の上昇は生産性の向上に依存すると言われていますが、OECDの統計によると、過去数十年にわたり、賃金の上昇は生産性の向上に遅れをとっているのが現状です。この20年間で労働生産性が約28%向上した一方、実質中央値賃金の上昇率はOECD全体で8%にとどまり、その差額は企業利益や高所得層にもたらされています。

高水準かつ拡大し続ける不平等は、従来型の成長モデルに依存するだけでは社会全体に利益をもたらすことが不可能であることを示す、明確な証拠です。以下のグラフが示すように、1980年以降、各国における格差は著しく拡大しており、現在では1920年代の水準を超えています。トリクルダウン経済が機能しないだけでなく、過去40年にわたり、明らかに機能しなかったのです。

世界的不平等レポート2022」は、「現在、世界人口の最も裕福な上位10%が世界総所得の52%を得ている一方、最も貧しい人口の半数はその8.5%を得ている」と明示。以下のグラフが示すように、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、北米および南米において、上位10%の富裕層は下位50%をはるかに上回る資産を保有しています。

フォーブスは、「2023年にPayroll.orgが実施した調査によると、アメリカ人の78%が、給料日までかろうじて生活できる状態で暮らしており、こうした人々の割合は、前年から6%増加した」と報じています。さらに、フォーブスの調査では、29%の回答者が、自分の収入では標準的な支出を賄えない、と回答していることを明らかにしました。

労働組合は成長に反対しているわけではありません。むしろ、経済が繁栄することにより、雇用を創出し、より良い賃金と労働条件が提供されることを望んでいます。私たちは、単純に、その成長の利益が公正に分配され、富が公共サービス、適切な住宅、質の高い教育、信頼できる医療へのアクセスにもたらされるべきだと考えています。これらは生産的な労働力にとって不可欠です。

すべての人々にとってより良い生活水準を確保するためには何ができるのか

重要な出発点の一つは、公正な課税です。富裕層の個人資産に対する効果的な課税は、脱税を防止することにより改善し、法人課税も同様に、グローバル・ミニマム課税の導入を通じて改善する必要があります。金融取引税は、すぐにでも導入するべきです。最近のG20サミットでは、「超高所得者が効果的に課税されるよう協力する」ことに合意しました。

賃金の引き上げは、生産性の向上に合わせて進める必要があります。労働組合と雇用者との交渉力のバランスは、雇用者側に有利に傾きすぎており、再調整が必要です。労働組合の密度と団体交渉の適用範囲は、OECD加盟国で平均して4分の1減少し、1985年の45%から2017年の32%へと縮小しています。

EUの最低賃金指令は、団体交渉の範囲が80%未満である場合、加盟国に対して行動計画を策定する法的義務を課しています。対応が必要な分野は二つある、と欧州労働組合研究所は指摘。一つは、労働組合および雇用者団体の行動能力を強化すること、そしてもう一つは、団体交渉に対する制度的な支援を強化することです。

OECDは「エコノミック・アウトルック」の最新版において、労働市場の人手不足に対処する方法として、次のように記述しています。「労働市場における企業のモノプソニーを減少させることは、労働者の交渉力を強化し、賃金の引き上げにつながります。労働市場の集中が賃金に与える負の影響は、労働組合が強いほど小さいことが明らかにされています(Araki他、2022年)。モノプソニーを減らすことは、仕事の質の向上にもつながります」。つまり、雇用者の賃金決定権が賃金を抑えており、労働者の交渉力を高めることが賃金の引き上げにつながるということです。

より公正かつ進歩的な課税と賃金引き上げを通じて生活水準を向上させることは、文字通り人々への投資となり、新たな成長源を生み出し、信頼の再構築に役立つのです。

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