グローバルリーダーに学ぶ、気候変動と自然環境への取り組みに必要な6つのカギ
ブレンデッド・ファイナンスが気候変動と自然環境への取り組みを後押しする可能性があります。 Image: Getty Images
- 投資規模の拡大、資本の解放、気候変動と自然環境への取り組みにおける構造的な変化を進めるには、ブレンデッド・ファイナンスとフィランソロピーセクターが極めて重要になります。
- アジア、グローバルサウス、海洋経済への戦略的フォーカスは、世界的な気候変動への課題への対応と持続可能な移行の実現に不可欠です。
- コラボレーション、システム的指標、革新的なパートナーシップが、気候変動の目標を前進させ、グローバルな資源を効果的に動員するための主要なレバーとなるでしょう。
気候危機に対するグローバルな取り組みは、もはや単なる環境課題ではなく、経済における決定的な課題となっています。
世界中で温室効果ガス排出量のネットゼロ化と生物多様性の著しい減少の阻止が急がれる中、企業、パブリックセクター、フィランソロピーセクターのリーダーたちは、これらの課題に正面から取り組む一歩を踏み出しています。
解決策を推進する上で、世界経済フォーラムのような中立的なプラットフォームに、これほど重要な役割が求められたことがこれまでにあったでしょうか。
こうしたリーダーたちは、気候危機に関する議論が冷めつつあるという見解とは対照的に、明白かつ緊急のメッセージを持っています。それは、気候変動リスクは金融リスクと密接に結びついており、国家安全保障、経済的回復力、そしてグローバルな競争力に深く関わるというものです。
力のバランスが変化する時、その影響はかつてないほど大きくなります。気候変動対策に対する今日の戦略的投資が、明日の貿易関係、技術的優位性、そして地政学的な同盟関係を決定づけることになるでしょう。
気候変動は、資源管理の課題であり、技術革新の競争でもあります。クリーンエネルギー、AI、持続可能な慣行、および重要な材料や資源へのアクセスにおいて主導権を握る者が、経済的な未来とグローバルな影響力を得るのです。
2024年8月に開催された世界経済フォーラムのリーダーシップ会合、同年9月にニューヨークで開催された「持続可能な開発インパクト会合2024」における「ギビング・トゥ・アンプリファイ・アース・アクション(GAFA)」イニシアチブのセッションに、グローバルリーダーたちが参加しました。
ここでは、地理的、経済的、バリューチェーンの境界を越えて、気候変動対策と自然環境の変革を推進する6つの重要な手段が定義されました。この6つの手段は、単なる理想論ではなく、迅速かつ協調的な行動を求める緊急の要請です。
1. ブレンデッド・ファイナンスの復権
公的資金、民間資金、フィランソロピー資金を調和させるブレンデッド・ファイナンスは、気候危機対策におけるグローバルな取り組みを変革するツールです。従来の資金調達における障壁を克服し、高度な投資を推進することができます。
フィランソロピー資本を媒介に、時には劣後株や損失補填、その他の対策を通じてリスクを低減することで、企業のインセンティブを生み出し、政府や企業が規模とスピードの両面で解決策を打ち出すことが可能です。
公的債務が天井知らずの状態にある場合は、企業が先行投資を主導する必要があるのです。これは歴史が証明しています。
UBSオプティマス・ファウンデーション・ネットワークのCEO、トム・ホール氏は、次のように述べています。「インパクト経済への移行を支援する最も強力なアプローチのひとつは、ブレンデッド・ファイナンスによりフィランソロピー資本の力を活用することです。ブレンデッド・ファイナンスは、投資の力を再構築し、イノベーションを促進し、相乗効果を生み出すために必要なリソースを集めて、私たちの取り組みの影響を最大限に高める戦略的ツールなのです」。
2. 気候および自然資本の拡大
気候変動の課題にフィランソロピー活動が真に影響を与えるためには、気候変動対策の初期段階から積極的に関与していくべきです。現在、世界全体で1兆ドル近くあるフィランソロピー活動資金のうち、気候変動対策に充てられているのは2%未満であり、大きな資金ギャップが生じています。
グローバル経済において、フィランソロピー活動そのものは最小限の資産に過ぎませんが、そのリスク許容度、機敏性、敏捷性、そして他のタイプの資本を呼び込む能力により、商業資本や公的資本を動員することができます。それは、気候変動や自然への介入から生じるリスクの一部を引き受けるからです。
フィランソロピー活動は、公的資本や民間資本と連携し、特定の障害や市場の欠陥を解消することで、民間投資を促進し、大きな影響力を発揮できる可能性があります。ビル・ゲイツ氏の「ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ」、スリー・ケアンズ・グループの「アライド・クライメート・パートナーズ(ACP)」がその例です。
特に、企業のフィランソロピー活動は、初期段階のイノベーションを推進し、市場リスクを軽減し、構造的な変化を加速させるカギとなるでしょう。
これは、最近の白書「気候変動対策と自然環境の移行を加速させる企業によるフィランソロピー活動の役割(The Role of Corporate Philanthropy in Accelerating Climate and Nature Transitions))」で概説されています。企業によるフィランソロピー活動の資金が、気候変動対策と自然環境保護に重点を置く傾向が強まっていることが分かります。
3. 強固かつ構造的な影響評価指標の開発
気候変動と自然環境への取り組みを必要な規模と緊急性をもって実施するには、連携の強化、投資の誘致、情報に基づく意思決定が必要です。その実現に不可欠なものが、パフォーマンスとインパクトを測定する、信頼性の高いデータ主導型の指標です。
「私が非常に期待していることのひとつは、イノベーションとテクノロジーを活用し、より高度なデータソリューションを見出すことです」と、英国のベアトリス王女は述べています。
「これは、気候変動と自然環境への取り組みにおいて、より多くの資本を誘致し、機会を活用するために必要であり、データソリューションなしには資金調達や影響の規模の可能性は極めて限られてしまうでしょう。この重要な分野に多様なセクターのパートナーや投資家を呼び込むためには、確固とした根拠に基づく主張を行う必要があるのです」。
4. グローバルサウスに向けた投資の促進
深刻な気候変動の影響に直面しているグローバルサウスは、サステナブルな未来の実現に不可欠であり、行動の最前線に据える必要があります。こうした地域は脆弱である一方で、例えばクリーンエネルギーへの飛躍的な移行によってグリーン経済を主導する潜在能力を有しています。
グリーンエネルギーソリューションへの投資は、温室効果ガス排出量を削減し、エネルギーへのアクセスを改善し、地域経済を活性化させ、雇用と健康上の利益を生み出すでしょう。グローバルサウスへの投資は、持続可能なグローバルエネルギーの未来に向けた道徳的義務であり、戦略的な必要性でもあります。
5. アジアにおける移行への支援
世界人口の半分以上が居住し、グローバルな排出量の半分以上を占めるアジアは、気候変動という課題の中心に位置しています。
8月に開催された同フォーラムのリーダーシップ会合では、各国のリーダーたちがクリーンエネルギーへの投資、電気自動車の普及、石炭火力発電所の廃止に関する提案を行い、これらの解決策を拡大するためにはフィランソロピー活動が投資を促進しなければならないと強調しました。
気候変動対策・ファイナンスに関する国連事務総長特使であるマーク・カーニー氏は、「アジアの石炭火力発電所が耐用年数に達するまで稼働し続ければ、残りの炭素予算を使い果たすでしょう」と、述べています。
「早期の廃止を実現するには、信頼性の高い自主的な炭素市場に裏付けられたブレンデッド・ファイナンスとエネルギー転換クレジットが必要となります。また、公正な移行を確実にするために、慈善家が触媒的な資本と労働者および地域社会への支援という重要な役割を果たすことができます」。
6. 海洋経済への資本投入
海洋経済は、気候変動や自然環境の課題に対処する上で極めて重要ですが、これまで長い間見過ごされてきました。
海洋は気候を調節し、生命を維持し、食料安全保障を提供すると同時に、サステナブルな漁業、海洋観光、再生可能な海洋エネルギーを通じて莫大な経済機会をもたらします。
「海洋は重要な役割を果たしているという認識のもと、私たちは今年、ブルー・オーシャンズ・コミュニティを立ち上げました。アジアにおける海洋および海洋資源の保全とサステナブルな利用に向けた影響力のある行動を推進していきます」と、フィランソロピー・アジア・アライアンスのCEOであるリム・ソクヒュイ氏は述べています。
「海洋保護とサステナブルな漁業管理の拡大、ブルー・カーボン・ソリューションの推進、海洋生物多様性に関する重要な調査の実施などの取り組みを通じて、持続可能なブルーエコノミーを確保するためのセクター横断的な協力を促進しています。私たちは、この共通の使命を推進し、海洋への影響を拡大するために、より多くのメンバーとパートナーに参加を呼びかけます」。
8月のリーダーシップ会合では、海洋ベンチャー投資ファンドが提案され、慈善活動への関与を通じて機関投資家からの資金調達を促し、「ブルー・エコシステム」に資本を投入することが提案されました。
ダリオ・ファミリー・オフィスの創設者であるレイ・ダリオ氏は「GAEAイニシアチブは、慈善活動家、各国政府、企業の素晴らしいパートナーシップを生み出し、多くの触媒的影響をもたらしています。このことを、私と仲間たちは、海洋イノベーションと海洋保全を支援するイニシアチブ、オーシャン・エックス(Ocean X)で実感しており、委員会の共同議長として、他のいくつかの分野でもそれが実現しつつあるのを目の当たりにしています」と語っています。
共に創出する持続可能性への道のり
持続可能な未来に向かうモメンタムを維持し、世界が希望を失わないようにするためには、次の10年間が極めて重要となります。政治的、経済的、制度的な障壁を克服するために、協調的かつ統一された行動が必要です。
こうした変革を主導しているのが、同フォーラムのギビング・トゥ・アンプリファイ・アース・アクション(GAEA)です。ダボスで開催される2025年の年次総会で「GAEAアワード」などの取り組みは、バリューチェーン全体にわたる構造変革と協働により、システムを半分の時間で前進させることが可能であるという明らかな証拠にスポットライトを当てています。
明確なロードマップと高まるモメンタムを背景に、今こそ大胆な集団行動を起こし、持続可能な変化を生み出す時です。気候変動対策の資金調達を主導する人々は、地球の未来と経済の安定性を確保すると同時に、グローバル経済を形作っていくことになるでしょう。
この対話と旅路に、ぜひご参加ください。