AIとグローバルサプライチェーン〜次の大きな衝撃に備えて〜
2025年には、グローバルサプライチェーンのインフラに大きな変化が見られるでしょう。 Image: Getty Images/iStockphoto
- グローバルサプライチェーンは、依然として気候変動、地政学、労働争議の影響を受けています。
- 2025年には、AIなどの先進技術がサプライチェーンの改善と最適化に貢献する可能性があります。
- GRSIのような取り組みによる、サプライチェーンの可視性向上は、技術革新による変革が期待されている分野です。
グローバルサプライチェーンでは、相次ぐ混乱により、不確実かつ不安定な状態が何年も続いてきました。その根本的な原因が、新型コロナウイルスによるパンデミックであるのか疑問を呈する声もあります。物流における課題は、それよりはるか以前から存在しており、パンデミックは単に、グローバルサプライチェーンが長年にわたり効率化した結果、複数の分野に影響を及ぼす世界的な衝撃に対し、脆弱になっていた現実を露呈したに過ぎないのかもしれないからです。
混乱は依然として続いています。米国における東海岸および湾岸の港湾労働者によるストライキや、世界各地で発生している農業従業者のストライキは、混乱を引き起こし、供給能力の問題を一層深刻化させています。また、地政学的な紛争は、「ピンチ・ポイント」と呼ばれる、特に重要な物流回廊や供給のボトルネックとなる地点において、継続的なサプライチェーンのリスクを引き起こしています。さらに、干ばつ、火災、洪水、ラニーニャ現象に伴う気象災害による混乱や被害は容赦なく続いており、今後も続く見込みです。加えて、貿易摩擦により、半導体製品、製造設備、その他重要な資材の流通が滞っています。
今後も、世界中のサプライチェーンにおけるリーダーの創意工夫、レジリエンス、柔軟性は試され続けるでしょう。同時に、私たちは過去から学ぶことができます。物流のリーダーたちに求められているのは、現在のサプライチェーンネットワークの実効性を高めるだけでなく、将来に向けてよりレジリエンスと持続可能性の高いモデルを構築することです。2025年には、グローバルサプライチェーンのインフラが大きく変化し、それに依存する国や同盟のレジリエンスにとって必要不可欠なものとなるでしょう。その鍵を握る可能性があるのが、AIです。
先進テクノロジーの広範な導入は、サプライチェーン管理のデジタル化を加速させ、製品やサービスの製造および提供の方法を変革し、新たな方法によるサプライチェーン情報の共有を可能にします。新興テクノロジープラットフォームを実験的に導入し、従来の管理手法に適用する企業は、業界が長く必要としていた最適化を実現することができるでしょう。
調達の分野では、自動化の進展と先進的な製造技術が労働力に変革をもたらし続けるでしょう。特に自動化に適した業種や、これまでグローバルサプライチェーンを支えてきた国々では、調達の総コストに影響が及ぶことが予想されます。これらの変化は、調達におけるリーダーたちに以下のような影響を与える可能性があります。
- 一部のサプライヤーが新技術を導入する一方、他のサプライヤーが取り残されることにより、サプライヤーベースが変化する。
- サプライチェーンにおける労働関連の一般的な課題の様相が変わる。
- 多くのサプライチェーン関係者によって生成・検証される、大量のリアルタイムのサプライチェーン情報へのアクセスが容易になる。
気候変動は今後もサプライチェーンおよび物流に影響を与え続けるでしょう。2024年に『Nature Sustainability(ネイチャー・サステナビリティ)』誌に発表された研究によると、サプライチェーンにおいて今後15年の間に気象による混乱が増加すると予測されています。正確な影響を事前に特定することは容易ではないものの、極端な暑さや降雨パターンの頻発により環境が絶えず変化し、多くの国において原材料の生産に影響を与えています。
地政学的な変化もまた、グローバルなビジネス環境をより複雑かつ政治的に不安定なものに変化させる可能性があります。関税や貿易協定、政治的関係、補助金、貿易ルートや資源の利用可能性に影響を及ぼす輸出規制などが、サプライチェーンに大きな影響を与える可能性を秘めています。輸入に依存する企業は、大規模な混乱が発生した場合、短期的に深刻な損害を被るかもしれません。
2025年以降を見据えた場合、グローバルな物流と倉庫管理に対する直接的な課題、さらにはグローバル貿易協定やその規範の耐久性に対する不確実性が、従来型のグローバルサプライチェーンインフラを支えてきたビジネスモデルを弱体化させることが予想されます。サプライチェーン分野では、すでに根本的な変化が進行しています。グローバルな貿易体制における不確実な兆候や経済モデルの転換計画に伴い、一部の企業は既にリショアリング(国内回帰)を進め、垂直統合を採用し、新たな地域からの資源調達を増やしています。
多くの人々は、グローバルサプライチェーンインフラの将来性に対する可視性を重要視しています。2023年、世界が転換期に差し掛かる中、世界経済フォーラムはアクセンチュアおよび他の主要パートナーと協力し、「グローバル・サプライ・レジリエンス・イニシアチブ(Global Supply Resilience Initiative:GSRI)」を検討。この共同の取り組みは、サプライチェーン業務の可視性を向上させ、レジリエンスを強化することを目的としていました。その結果、UNICEFが西アフリカにおけるパイロットプロジェクトにおいて、リアルタイムデータを活用することにより、システムパフォーマンスを強化し、命を救うための支援を行った事例が報告されています。
先進技術を活用し、UNICEFは共有データインテリジェンスを駆使することにより、供給ネットワークを予測・対応し、レジリエンスを維持することに成功しました。このGSRIの事例は、サプライチェーンのレジリエンスを高める上でオープンかつ非競争的なデータ交換が果たす役割を示しています。同時に、組織がデータ共有に対して抱く慎重姿勢に関する課題を指摘し、技術革新と強固なガバナンスによって集団的行動を促進し、公益に寄与する方法を提示しました。
2024年には、KPMGが同年は「サプライチェーンのデジタル革命」の年であると報告。先進技術の導入により、組織はより迅速に対応し、課題を積極的に解決し、可視性、透明性、トレーサビリティを向上させることによりエラーや非効率性を低減できる、新たなパラダイムが生まれました。こうした変革は、将来的な衝撃や潜在的な混乱に対してグローバルサプライチェーンインフラのレジリエンスを一層高めています。
さらに、技術進化の重要性を強調しているのは、ガートナーが最近発表した、2025年に向けた「Top 10 Strategic Technology Trends for 2025(戦略的技術動向トップ10)」です。これは、「特に、今日の組織において、人工知能が技術の導入、実装、活用方法を一変させる中」、今後5年間およびその先を見据え、企業が安全に進化を遂げるための「星図」となっています。
現在、ほとんどのサプライチェーンインフラの関係者が、ニューノーマルにおいて競争力を向上させる必要性を強く認識しています。その一環となるのが、グローバル化されたサプライチェーンの評価および再編成に貢献するAIソリューションの導入です。これにより、不要な複雑さが排除され、これまで業界を容赦なく苦しめてきた衝撃や混乱への脆弱性が軽減されることが期待されます。サプライチェーンにおけるAIの活用は、個々の企業の活動を活性化すると同時に、業界全体の発展を促進することが可能です。グローバル経済のために、サプライチェーンの革新を推進しましょう。