自動車の再生プラスチック活用が切り開く、クリーンな未来
日本では、再生プラスチックの使用に向けた産業横断的な取り組みが勢いを増しています。 Image: REUTERS/Chang-Ran Kim
- 世界のプラスチック生産量は、2040年までに7億3600万トンに達する可能性があります。
- 現在、EUをはじめとした地域では、企業が可能な限り再生プラスチックを使用するよう厳しい要件を導入しています。
- 日本では、再生プラスチックの活用において自動車産業が重要な役割を果たし、そのための取り組みが始まっています。
プラスチック汚染は、環境危機の大きな要因の一つです。経済協力開発機構(OECD)によると、プラスチックの生産および使用量は、2000年の2億3,400万トンから20年間で4億3,500万トンに増え、このままでは、2040年までに7億3,600万トンになると予想されています。
プラスチック削減に向けた世界的な取り組みが必要とされる中、欧州委員会は2023年7月に、ELV(使用済み自動車)に関する指令を改正し、2030年代前半を目処として、新たに製造される自動車にプラスチック再生材を25%使用するよう義務化する内容を盛り込みました。さらに、使用されるプラスチック再生材のうち、4分の1は、廃車由来のものとするよう指定されています。
環境省の資料によると、日本では、2030年度までにプラスチックの再生利用を倍増する目標を掲げている一方、国内での自動車製造に再生プラスチックはほぼ供給されていないのが現状です。今後、欧州をはじめとした輸出先において、自動車製造における再生プラスチックの採用が義務付けられることを見据え、官民連携のもと、自動車に再生プラスチックを採用するための取り組みが始まりまっています。
産官学コンソーシアムの設置
11月、日本政府は、欧州委員会が改正したELV指令への適応を目的に、「自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアム」を初めて設置。戦略的行動計画の策定に着手しました。同コンソーシアムには、使用済みプラスチックの処理をはじめ、再生材製造、自動車製造まで、サプライチェーンに関連する複数の業界から10団体が参加。自動車製造における再生プラスチックの利用促進に向け、サプライチェーン全体で課題を分析するとともに、業界における連携による重要性や、その実現に向けた支援策の検討が進められています。
同コンソーシアムの報告書によると、ELV指令の基準を達成するには、業界全体で年間25万トンの再生プラスチックが必要とされ、その内訳は、約6.3万トンが廃自動車由来、残りの約18.7万トンがその他のルートから調達される見込みです。再生プラスチックの供給がほぼない自動車業界において、今後、これだけの量を手配する方法が大きな課題の一つです。
さらに、自動車向け再生プラスチック市場構築における課題には、「廃自動車の解体段階におけるプラスチック回収のインセンティブがない」、「再生材はバージン材と比較して品質が低く、バラツキが大きい」、「再生材の価値の訴求が不十分」を含む7項目が挙げられています。こうした分野における取り組みについて、政府およびサプライチェーン全体での方針を改めて検討する場が、2024年度中に設けられる予定です。
さらに、普段は交わる機会の少ない自動車業界とリサイクル業界の団体が一丸となって取り組む場が提供されたことにより、仕入れからコストに関する対等な議論が可能となり、サプライチェーン全体の公平性が担保されることも期待されています。
メーカーは機能性を備えた再生プラスチックの開発に着手
トヨタ、マツダ、ホンダなどの大手自動車メーカーはすでに、製造する自動車に再生プラスチックを使う取り組みが始まっています。2011年に世界の自動車メーカーとして初めて、廃車のバンパーを新車のバンパーへリサイクルしたマツダは、バンパーの再利用を継続して実施。2023年には、43,889本のバンパーを再利用しています。
また、自動車における再生プラスチック利用の課題の一つである、機能的品質の確保についても、素材メーカーなどとの協力を得て、徐々に採用の見通しが立ち始めています。ホンダは、住友化学の協力を得て、バンパーに含まれるポリプロピレンにコンパウンド技術などによる処理を施し、外観と高い品質基準を満たす「ノーブレン®Meguri®」を開発し、車の顔となるフロントグリルに採用。トヨタも、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムにおいて、再生ポリプロピレンを用いた部品の試作を行い、実際に採用するための目標基準を達成するなど、各メーカーで再生プラスチックを用いた新たな素材開発が進んでいます。
政府と関連業界の連携による、再生プラスチック利用の促進
プラスチック削減に向けた世界的な取り組みが求められている中、韓国で開催された政府間交渉委員会では国際条約案の合意が見送られるなど、依然としてプラスチック削減に関しての共通理解が得られていないのが現状です。一方、世界経済フォーラムのレポート「Circular Industry Solutions for a Global Plastics Treaty(世界プラスチック条約のための循環型産業ソリューション)」は、プラスチック問題への取り組みは、「環境にとって必要なだけでなく、経済的なチャンスでもある」と主張しており、マインドセットの転換が求められています。
自動車における、再生プラスチック使用に向けた日本の業界横断型の協力的なアプローチは、世界の自動車製造業界における再生プラスチックの利用を加速し、プラスチック汚染削減の方法を育成するモデルとなる可能性があるでしょう。
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Naoko Tochibayashi and Mizuho Ota
2024年11月12日