新興テクノロジー

日本が、宇宙産業の主要なプレーヤーであり続ける方法

日本の宇宙産業は現在、約4兆円(約260億ドル)の価値があります。 Image: REUTERS

Hazuki Mori
Lead, Space Technology, World Economic Forum
Soichi Noguchi
Executive Fellow, World Economic Forum
本稿は、以下センター (部門)の一部です。 第四次産業革命センター
  • 日本の宇宙産業は現在、約4兆円(約260億ドル)の規模を誇り、2030年代初頭までに約8兆円(約520億ドル)への拡大を計画しています。
  • 産業がさらなる成長を遂げるためには、宇宙技術を利用したアプリケーション、データ、サービスを地上のビジネスにとってより実用的かつ有用なものにする必要があります。
  • 日本の核となる強みと地域的な連携は、宇宙産業の勢いを維持する上で極めて重要です。

宇宙経済は、2035年までに1兆8,000億ドルに成長すると予想されています。衛星データを活用した資源管理、宇宙ステーションでの微小重力環境を利用した医薬品や素材の製造、さらには月における資源採掘やインフラ建設などが含まれる宇宙経済の成長により、あらゆる分野や産業において、これまでにない、イノベーションと価値創造の機会が生まれるでしょう。

現在、日本の宇宙産業の市場規模は4兆円(約260億米ドル)。政府は2030年代初頭までに8兆円(520億米ドル)への拡大を目指しています。2024年、月面着陸を成功させた世界で5番目の国となるなど、日本はいくつかの重要なマイルストーンを達成しました。

日本に本社を置くアストロスケール社は、スペースデブリに安全に接近して観測する世界初の試みに成功。この成果は、商業的なスペースデブリ除去の推進に貢献しています。そして、特に注目すべきは、今後10年の間にJAXAを通じて1兆円(66億米ドル)を市場に投入する、宇宙戦略基金が立ち上げられたことです。

このように、大きな進展を遂げている一方、政府の目標を達成するためには、宇宙応用、データ、サービスを、地上ビジネスにより役立つ形で実用化していくことが重要です。

宇宙分野の民主化

国連によると、持続可能な開発目標(SDGs)で設定された目標のうち、40%近くが宇宙技術、特に地球観測と全測位衛星システムを活用しています。一方、こうした技術の導入は、十分にその能力を発揮できるところまで至っていません。その主な理由のひとつは、他の分野において、宇宙技術をどのようにビジネスに活用し、事業を拡大することができるかについての認識やユースケースが不足していることにあります。

2024年11月には、第4次産業革命センターの活動の一環として、日本政府と企業のリーダーが対話し、日本の宇宙産業の成長と、宇宙技術を地上ビジネスに活用する取り組みについて議論しました。こうした対話において、宇宙の利点を活かし、政府がグリーントランスフォーメーションをはじめとする社会課題の解決を推進するため、宇宙を「イネーブラー」として位置づける必要性を提起しています。

さらに、宇宙技術の導入を進めるにあたり、AIやデジタルツインといった他のテクノロジーと融合の重要性を強調。加えて、パートナーシップについて、特に金融セクターとの連携や、ビジネスと学術界の協力による新しい技術応用の創出に焦点が当てられました。

日本政策投資銀行の常務執行役員である増田真男氏と三菱UFJ銀行グループの取締役副頭取執行役員である秋田誠一郎氏は、次のように語っています。「長期的な投資と資金供給を促進するためには、宇宙活動のバンカビリティを高め、維持することが重要です」。

これに加え、「もうひとつの重要なパートナーシップは、最新の科学的知見を用いて新たなアプリケーションを創造する、ビジネスとアカデミアの連携」だと、NECのフェローである三好弘晃氏は述べています。

宇宙企業が提供するサービスの顧客は、依然として政府が大半を占める傾向にあります。11月に開催された討論会の参加者たちは、宇宙産業が自立して持続可能な状態になるまでの間、政府が方向性を示し、アンカーテナンシーを担う重要性を認識しました。一方で、宇宙産業が発展を続けるためには、例えば、資源管理に衛星データを活用すること、宇宙ステーションの微小重力環境で医薬品や材料を製造すること、さらには月面での資源採掘やインフラ建設など、他の分野から顧客や投資家を見つける必要があります。

日本の核となる強みを生かす

日本では、宇宙探査や宇宙の持続可能性の分野、ハードウェアやロボット技術において三位一体の中核を形成しています。第一に、政府が規制の枠組みを整え、資金を提供。これにより、何が規制され、何が規制されないかを把握することができ、活動の計画や投資がしやすくなります。加えて、政府による資金支援は、この分野が優先事項であり、国家的な関心が寄せられていることを示しています。

第二に、国の宇宙機関、学術界、産業界が、宇宙探査と持続可能性の中核をなす技術の研究開発を実施。そして第三に、商業サービスを実現する地上セクターの産業プレイヤーを含むエコシステムが成長しています。

内閣府宇宙開発戦略推進事務局長である風木淳氏は、「日本が世界の宇宙経済におけるリーダーシップと地位を維持・成長させる鍵は、こうした既存の規制や制度をソフトパワーとして活用すること」であると述べています。

日本は、1950年代から宇宙活動を通じ、豊富なデータや情報を蓄積してきました。こうしたデータを組み合わせることにより、多くの人々に影響を与える社会問題への取り組みに活用することができます。日本のリーダーたちは、日本が他国と差別化し、独自の価値を創造できる、新たな分野を見つけることを推奨。ispaceの代表取締役CEOである袴田武史氏が強調するように、同社が提案する将来的な月面活動はその手段となり得るでしょう。「地政学的にも、築いてきた信頼という意味においても、日本はユニークな立場にあります。私たちは、すべての人に利益をもたらす、豊かなシスルナー(地球と月の間の空間)経済を構築するため、包摂的な方法によりリードしたいと考えています」。

アジア太平洋地域における地域協力

日本は、世界の宇宙経済において、依然として全体のごく一部に過ぎません。日本の宇宙産業が本格的に成長するためには、グローバル市場への進出が不可欠です。米国市場は有力でビジネスにとって理想的である一方、市場参入にはハードルがあります。

グローバルビジネスを加速させるため、企業がすでに講じている一歩が、アジア太平洋地域(APAC)における地域協力です。この地域は同じ課題に直面しており、どの国も国内ではエコシステムを支えるのには十分な規模を持っておらず、競争力のある市場に参入するのは容易ではありません。「APACにおけるビジネス上の重要な課題は、人材と労働力の開発、他分野における宇宙の認知向上、需要の創出」であると、SPACTIDEの共同設立者 代表理事 兼 CEOの石田真康氏は語っています。

こうした課題に対して、APAC地域の国々は単独で取り組むことができず、協力が必要です。同地域のポテンシャルは高く、人口増加と急速なデジタルトランスフォーメーションにより、2023年から2030年の間に、EO(起業家機構)の価値で最大の3,150億米ドルを獲得する見込みです。

日本の役割は「共創」を促し、この地域が宇宙を国家的課題として位置づけ、情報交換のハブとなり、宇宙を通じて様々な需要に対応する地域協力のユースケースを生み出すプラットフォームを創出することです。世界経済フォーラムは、2025年に、この取り組みを支援し、増幅させるための地域活動を計画しています。

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